ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学

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48 ダンジョン崩壊

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 〈カンカンカン・・・カンカンカン・・・カンカンカン〉

 突然鳴りはじめた鐘は3連打、非常事態を知らせる不吉な音が連続して打ち鳴らされている。

 ダンジョン崩壊と、魔物が溢れ出した事を告げる鐘が鳴り続ける。
 溢れ出る魔物を阻止する為に、防衛軍部隊や魔法部隊にナンセン率いる部隊が、魔物に向かって隊列を組み始めた。
 
 「土魔法使いは柵の設置を続けろ!護衛は魔物を土魔法使いに近付けるな」
 
 防衛部隊の指揮官の声が響く、その横を緊張の面持ちで魔物に向かう部隊が通り過ぎる。
 
 ルーシュに虎より一回り大きな姿になってもらうと、ダンジョンに向かって歩きはじめた。
 
 「ユーヤ、どうする気だ」
 
 「ナンセン達の手に負えないのが出たら、片付ける用意だよ。小物は任せたぞ」
 
 「分かった、大物はお前に任せる。皆に伝えておくよ」
 
 手を振って返事にする。
 見渡せばゴブリンやコボルトが多いがウルフ系やオーク等も見える。
 概して野生より躯が大きく色も黒みがかって獰猛な印象だ。
 ジャイアントオークが防衛軍部隊に向かい、攻撃魔法使いの部隊が迎撃しているが手間取っている。
 
 《ルーシュ、ジャイアントオークを雷撃で潰して》

 〈パリパリッドーン〉

 ジャイアントオークの黒焼きが出来上がり、皆びっくりしているが直ぐ別の魔物に向かって行く。

 戦場が狭すぎるので、防衛部隊やナンセン達の半数を柵の外に下がらせ、魔物が外に出るのを防がせる。
 ダンジョンの穴を見ると、ジャイアントオークの後に続いて出ようとしている巨大な牛の姿が見える。
 丁度良い、あいつで穴を塞いで暫く持たせよう。
 
 混戦状態の中を、防御結界とルーシュに守られて穴に近付き、地面から巨大な土槍で串刺しにする。
 牛の足下から見える穴の奥に向かって誰も見たことの無い激烈な雷撃魔法を叩き込む。
 穴の周囲が閃光に包まれ直後〈パリッ、ドーン〉と地響きと雷撃音が響き、焼けて燻る牛と穴から濛々と煙りが噴きだし、周囲が薄暗くなる。

 土魔法で入り口を塞ぎ固めたが、何時もの様に固まった様子がない。
 暫く穴の奥を伺っていたが後続の魔物の気配が無いので引き返す。
 巨大な狼や不気味な角を生やした猪等をストーンジャベリンの乱れ打ちで倒し援護に徹する。
 陽も落ちる頃にはあらかたの魔物を討伐し終わり静かな夜が訪れようとしていた。
 
 現場指揮官の下を訪れ被害状況を確認すると、死者も多数出た様だしその数倍の負傷者がいると聞いた。
 戦闘指揮に口出す気は無いので、負傷者の手当てに向かう。
 
 治癒魔法師が、重傷者を必死の形相で治癒している横に立ち治療を代わり、ルーシュと二人で重傷者を次々と治癒し全快させていく。
 俺とルーシュを呆気に取られて見ていた治癒魔法使いが、軽症者の治癒を遣れ! と怒鳴られて仕事に戻っていった。
 魔法部隊指揮官を呼び、怪我人の治療は終ったが無理はさせられないので、後方に下げる様に命じる。
 
 朗報は戦いの最中にも続けられた柵造りが完成し、取り合えず内周の防衛体制が整えられた。
 魔法部隊の土魔法使いと、街から集められた土魔法使いを含めると200人を越す人数になっていた。
 俺は彼等を慰労し、漸く第一段階の防衛線が出来ただけなので、引き続き外周の柵造りに全力を注ぐ様に要請した。
 彼らには、完成すれば全員に金貨10枚の報償を約束し、鼓舞することも忘れない。

 従来ダンジョンからのスタンピードに対応するには野外で迎撃し、後は城壁や柵で防ぐだけの対応であると聞いた。
 今回のダンジョン誕生に際しては当て嵌まらない。
 街の近くに新たなダンジョンが生まれたのだ、柵で時間は稼げるが本格的な防衛線を築く必要が在る。
 呼びたくはないが、非常事態なので仕方がないし何か参考になる意見が聞ければ良しとするか。
 
 総指揮官補佐に直ぐ戻ると告げて、スタートゲートに跳んだ。
 
 「シャイニー、クルフ非常事態だ。ミズホの冒険者ギルドの近くにダンジョンが誕生した。訓練は中止して来てくれ。セルーシャとボイスも付き合ってくれ、特にセルーシャには意見を聞きたい」
 
 四人と二人のメイドを連れ、屋敷に跳ぶ。
 屋敷の居間に集まり状況を略図で説明し、二重の防衛線が完成した後の事について意見が聞きたいのでと告げて、現場を見て貰うことにした。
 ダンジョンゲートに跳ぶと、周囲は殺気立った雰囲気が残り魔物の血の臭いと相まって殺伐としていた。
 総指揮官補佐を呼び、四人が俺の補佐役として現場を視察するからと伝えて、相応の身分証を持ってこさせた。

 完成した内周の柵を外から見せ隙間から中をみせて意見を聞く。
 柵の内側は、倒した魔物の死骸が片付けられておらず折り重なって倒れている。
 
「この第一の防衛線をどう思う。完成間近で魔物が溢れ、スタンピードの様相になったが何とか防いだ」
 
 「狭すぎるね。中で闘い難いよ」
 
 「それは仕方がない時間が無かったんだ。冒険者ギルドがダンジョンの生成を秘密にしていたので、気づいた時には10日も経っていたんだ」
 
 「領主のユーヤに知らせずにか」
 
 「そうだヨークス様を、問いただしたら時間が無いと分かってな。取り合えず土魔法使いを集めて、急場凌ぎでも柵を造らないと防衛出来ないからな。街が近すぎるのでもう一つ柵の防衛線を作らせているところだ」
 
 「それは必要だよね。まさかこんな近くにダンジョンが出来るとは」
 
 「出来れば柵の内側で対処したいのだ。溢れ出た魔物を一カ所に集中させると、柵を越えられる恐れがある」
 
 「それは広く分散させるという事ですか」
 
 「ああ、それが出来れば兵や冒険者達も討伐しやすいだろう。強い魔物が出たら、逃げるにも逃げ易いと思う」
 
 「迷路の様な物で分散させるのは」
 
 「奴ら一塊で向かって来るので、迷路の行き止まりになれば弱い奴を踏み台にして上に上がるかも知れないんだ」
 
 「つまり洗濯槽の中の泡が中心に集まるのとは、逆の方向に導けば良いのですね」
 
 皆に見つめられて、キョドるセルーシャ。
 
 「どんな意見でも良い。フルミナ以外の知識は貴重なんだ。言ってくれ」
 
 「ラウンドアバウトってご存知ですか」
 
 「いや知らない」
 
 「道交法に関する事ですが交差点には信号が有りますよね。交通量のそれ程多くない交差点の信号機を無くす方法です。環状交差点と呼ばれていたと思います。十字路を無くし大きな輪にして、交差点に進入する車は全て左に曲がって輪の中に進入し、輪の中で行きたい方向になったらその輪から左折する方法です。説明が下手で申し訳無いですが」
 
 「ちょっと図にして貰えるか」
 
 地面に描かれたものは各方面から来た車は必ず左折して輪の中に入り、行きたい方向に来たら左折して離脱する方法だ。
 全ての車は進入も離脱も左折だけで済み信号待ちも無しか。
 
 セルーシャの書いた図を見ていて台風を思い出した、確か半時計回りに風が中心に向かって吹き込む・・・だったかな。
 
 「そのラウンドアバウトの逆に内から外に放り出すには台風の風向の逆向きの誘導柵を作ればよいのか」
 
 外から円に進入し再び離脱する車で無く、中心から溢れる出る魔物を外に誘導する。
 完成した柵の円を書き、それを台風の目に例える。
 セルーシャに説明しながら四方八方から中心に向かい巻き込まれる様に吹く風の線を引き、風向を示す矢印を外向きに書く。
 
 「此なら、少なくともダンジョンから溢れ出た魔物をこの矢印線の様に壁で外に向かわせ、少しずつ進路を変えれば外周に着く迄に右回りに誘導出来ると思います」
 
 分散し一定方向に誘導するには、今作られている柵より多くの柵が必要になるのではないかと思われますが」
 
 地面に描いたのは中心から離れた円から四方八方に柵が伸び緩やかにカーブしている。
 全ての壁がカーブしていて内周の柵に届く手前で切れている。
 中心の穴から溢れ出て外部に向かえば必ず柵の間を通りカーブに沿って時計回りに外に向かう事になる。
 外周の柵沿いに延々と右に回る羽目になるって事だな。
 
 「あー、言っている言葉の意味がってか、言葉が良く分からないんだが」
 
 「悪い、セルーシャが俺と同じ世界からの生まれ替わりと言っただろ。その世界の知識を利用する話だ。詳しく説明するよ」
 
 地面に書かれた絵を説明する。
 時計回りに緩やかにカーブした誘導柵は高さがそれ程なくても良いだろうっと、シャイニーの指摘を受けて修正した。
 最終的には本格的な防衛用の城壁を造るが、当座を凌ぐのが先決だ。
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