ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学

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66 デフォルメと威厳のツケ

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 《ほぅー、お前はユーヤに関わる者と見えるがのぅ》
 
 ドワールは祈りを捧げるために跪き目を閉じたが、その声に驚いて目を開けると、みすぼらしい爺さんが佇んでいた。
 天も地も無い、ただ自分とその爺さんだけがこの世の全てであった。
 
 「此処は?」
 
 《何じゃ、お前は何をしていたのか忘れたのかのぉ》
 
 「創造神ヨークス様に、国の安寧を願い祈りを捧げていたのだが」
 
 《願いを聞き届けてやろうと思ってな》
 
 「貴方がですか? 私はヨークス様に祈り、碑文の文言の様に“祈りて頼らず必ず”セナルカを発展させてみせると、誓いにきたのです」
 
 《何じゃつまらぬ男じゃのう、儂を頼れ! そなたの望みを叶えて遣わすぞ》
 
 「では爺さん、祈りの邪魔なので消えてもらえないかな」
 
 ヨークス様、詐欺紛いの『若い頃をデフォルメして、威厳を付けた』神像のせいで全く信用されずに、消えろと言われてすごすごと引き下がる。
 
 一方セルーシャとボイスは、ドワールと共にヨークス様に祈りを捧げていたが、魔法神ハラムニ様と武闘神グラン様が現れ加護は足りているか、必要ならもっと授けると言われた。
 二人は授かった加護に満足していたので、これ以上を望まずお礼を述べていた。
 そこへドワールから消えろと言われたヨークス様が、半ベソでやって来ると二人にユーヤの事を尋ねた。
 
 《ユーヤはどうした。ユーヤはおらんのか》
 
 「ヨークス様、如何なされました」
 
 《ユーヤに、会いに来るように伝えてくれ》
 
 そう一言言うと姿が消えた。
 
 ハラムニ様とグラン様はニヤニヤしているだけだったが『若い頃をデフォルメして、威厳を付けた』ツケなので気にするなと言って消えた。
 
 ドワールが立ち上がり、不信気な顔でヨークス神様の像をしげしげと見て首を捻っている。
 二人は何も言わず、ドワールが見たいと言った町並みを案内するために神殿を後にする。
 
 掲示板を見ると、傍らに控える読み人が掲示板に書かれた内容を読み上げ解説している。
 今は摺り板版の解説が殆どで、ナガキダンジョンの物語などは読み上げる口調も真に迫り、時に可笑しく言い回して聞くものを楽しませている。
 聴衆も読み手の技量が良ければ、投げ銭を入れ読み手も自慢そうだ。
 
 ドワールが気づいたのは、読み手の多くが手足に欠損がある元冒険者達だということだった。
 セルーシャに尋ねると、冒険者が怪我で引退すると貧困に陥るが、読み書きを覚える間一日銅貨3枚程度だが支援したとの事だ。
 読み書きに合格した者を安い賃金ながら読み手に雇い聞き手は、読み手の親切丁寧な応対には、礼として鉄貨や銅貨を投げ生活を支えるシステムが出来ていると聞いた。
 
 ドワールは、この町に貧困者の姿が少ない理由の一端を見たと思った、貧しい者にも貧しいながらに生活出来る基盤を造り、生きて行ける様にしている。
 ユーヤは、ブラウンにヤマト公国の全てを丸投げしていると言ったが、優秀な人間に遣らせれば国は豊かになり、民も苦しまずに済むのかと感心した。
 今までのセナルカには、そんな考え方は存在しなかった。
 
 ブラウンに教えを乞い、セナルカの優秀な者をヤマトやテレンザに派遣し、て遣り方を学び活かさねば、セナルカの領民は貧しいままだと実感した。
 セルーシャに町の隅々まで見せてもらい、民が如何なる生活をしているかを目を皿にして見ていった。
 セルーシャもそんなドワールに対し、公園から公衆トイレや託児所まで案内して回った。
 
 ドワールの心に最も響いたのは、貴族も貧困に喘ぐ者も、個人差はあれど教育を受ければ同じ能力を発揮すると聞いた時だ。
 ユーヤも国を興した時に、民の読み書きに力を入れたと聞いて納得した。

 * * * * * * * *

 俺が屋敷に戻ると、セルーシャからの伝言があった。
 ヨークス様が落ち込んだ御様子で『ユーヤに会いたい』と言っていたのだが、ハラムニ様とグラン様が『デフォルメと威厳のツケ』だと言われたとあった。
 
 あの詐欺画像で、ヨークス様が落ち込むって事は無いないと思ったが、ハラムニ様とグラン様が事情を知っていそうなので、ハラムニ様グラン様にお聞きした方が早いと思い神殿に出掛けた。
 
 神殿でハラムニ様の像の前に跪き呼びかける。
 
 《ハラムニ様、グラン様、お出ででしょうか》
 
 《ユーヤどうした》
 《ふむ、ヨークス様の事かな》
 
 《はいあのスチャラカ爺さんが落ち込むなぞ、天地が裂けても無いと思いますが。然しお二方の『デフォルメと威厳のツケ』が気になりまして、例の像の事ですよね》
 
 《それがなユーヤ、我々一同爆笑しておったのだよ。この間何処やらの王とかがヨークス様に祈りを捧げたのだがな》
 
 「もしかして、しょぼくれた爺さんの件ですか」
 
 《おおそれよ。今日はそれに追い撃ちを掛けられてな、祈る男の所に出向いたが消えろと言われてのう》
 
 駄目だ腹が痛い、創造神様に消えろって想像したら・・・腹が痛い。ふぇふぇーへっへっへー。ヨークス様、想像以上のダメージ受けてますやん。
 
 何時の間にか他の神々も現れて、爆笑大会になってしまった。
 
 《いや今日はフルミナの地に降りたってから、最高に楽しいです。呑みましょう、皆様方》
 
 いやー、マジックバッグから秘蔵の酒樽をドンドン出して並べ、屋敷の料理長に最高の材料で作らせた料理の数々を並べ宴会へ突入してしまった。
 いやー楽しいお酒でしたが、気が付けばヨークス様も混じっていて、やけ酒を呑んでますやん。
 
 《ユーヤお前は冷たいのう。儂の悲しみがそんなに楽しいか》
  
 おっ、絡み酒か爺さん。
 
 《あの像を見て違いすぎると俺が言った時に、ヨークス様何と言ったか覚えてますか『儂の若い頃をデフォルメして、威厳を付けた』ってさ。威厳を付けすぎて、本人が現れても創造神様と認めて貰えないって、爆笑ものだわ》
 
 ヨークス様は、樽を抱えて呑み始めてしまったよ。
 今日は話になりそうもないので出直すか。
 
 《皆様方、明日出直して来ます。ヨークス様を宜しくお願いします》
 
 《おう任せておけ、ヨークス様の相手は慣れておるでな》
 
 目を開けると、ヨークス様の像が光っていると大騒ぎになっている。
 ハラムニ様グラン様の所で祈っていてセーフ、ってそんな訳にもいかないので再度ハラムニ様にお祈りです。
 
 《ハラムニ様ハラムニ様大変ですよー、ヨークス様の像が光っていて大騒ぎになってます。お酒を取り上げて、布団に放り込んで寝かせて下さい》
 
 《おい皆の衆、ヨークス様を沈めるぞ》
 
 《グランさま沈めたら死んじゃいますよ》
 
 《心配するな。ヨークス様が酔っ払ったら、水に沈めて酔いを強制的に覚まさせるのだ》
 
 怖い神様達だねぇ。フルミナって大丈夫なんだろうか。
 再び目を開けると、ヨークス様の光が消えて行くところだった。
 ヨークス様の、命の火も消えてないだろうかと心配だ。
 神様に大盤振る舞いは危険だと認識し、以後は適量を提供するに留めておこうと心に誓う日になった。
 
 ヨークス神像の光を見た人々や、騒ぎを聞き付けた人々が集まり真剣な祈りを捧げているのが何ともねぇ。
 
 今祈っても、ヨークス様は酔っ払ってちゃって、水に沈められたので風邪を引いてるかも知れないよ。
 なんて事は言えないな。
 保存の御馳走大を分配ったので、料理長に頼んで備蓄しておかなくっちゃね。
 ダンジョン騒動にセナルカ、マザルカと続いて頭が痛いのに、神様の面倒まで見きれないぞ!
 
 「ユーヤ様、テレンザ国王陛下がお越しです」
 
 こんな夜中に何だろうと応接室に出向くと、アルカートにアルホークもいて真剣な表情だ。
 
 「何かあったか」
 
 「それはこちらが聞きたい。神殿のヨークス神像が光に包まれていると急報が来てな」
 
 「あーあれね、もう静まったから問題無い・・・とはいかないよなぁ。明日辺り、偉い騒ぎになりそうだな」
 
 「ユーヤ、何が合ったんだ」
 
 「申し訳ないが、あれはヨークス様が拗ねちゃって、やけ酒を呑んで酔っ払った挙げ句の犯行だ」

 「ヨークス神像の光が、酔っ払っいの犯行って・・・」
 「アルホーク帰るぞ。ヨークス様にもユーヤにも付き合い切れんわ!」
 
 あーあ呆れて帰っちゃったよ。
 まぁ俺も呆れているんだけれど、半分当事者なところも有るからなぁ。
 俺の呑気な思いは、翌朝には投げ捨てられる事になった。
 
 ブラウンから連絡を受け神殿に向かった俺が見たものは、興奮して口々にヨークス神像の光を浴びたと称する人々が、ヨークス様を讃える言葉の嵐だった。

 曰く長の病が治った。
 光に包まれてヨークス様の加護を受けた。
 見えない目が治り見える様になった。
 歩けなかったのが歩ける様になった。
 ヨークス様のお姿を見た。
 
 何処の新興宗教の教祖様になったんだよ、ヨークス様は。
 
 「ユーヤ様」
 
 「ああセルーシャか、どうした」
 
 「神殿で大変な騒ぎが起きていて、ユーヤ様も出向かれたと聞いて来ましたが」
 
 側にいるドワールに聞かせる訳にはいかないので、摺り板版には神殿の事は一切書くな。
 人々が口々にヨークス様を讃えているが、噂に惑わされるなと噂を鎮めるように頼んだ。
 取り合えず兵を入れて神殿で騒ぐ奴等を追い出し、神殿は祈りの場であれこれ噂を流す場ではないと、人々に言い聞かせるしか思い浮かばない。
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