猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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水の魔術を使うために

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「いいですか?まず、あなたは異常者です」

「……え?」

 共通語を習得し、小屋(一般的には屋敷と呼ぶ)に引っ越してから次の授業が始まった。楽しみにしていた魔術の授業である。だったというのに、『師匠』は開口一番レインのことを異常者と呼び出したではないか。

「酷い、『師匠』。僕、こんなにも真面目でいい子なのに」

「真面目でいい子なのは関係ありません。あなたは猫なんです。わかりますか?生物学的に、あなたは魔力を持たないため、魔術は使えないはずなのです。ですが、あなたからは魔力を感じる、あなたを拾った理由がそれです」

 ちょっと悲しい現実を突きつけつつ『師匠』はレインの額に指を当てる。すると、レインの身体に形容し難い漠然とした『力』のようなものが流れてくるのを感じた。

「その額に浮かび出ている【水龍の紋章】があなたが魔術を使える証です」

 鏡の前に連れて行かれて、額を見るように促される。額には確かになにも刻まれていなかったはずなのだが、よう見ると淡い水色に発光する紋様が浮かび出ていた。

 まるで水面に立つ波のように周囲を囲む楕円と、その真ん中に胴体の長い龍が一匹いるその紋様は、レインの額だけではなく、楕円の端から線が伸び身体中に伸びている。

「これは水の魔術を扱える紋の中ではまあいい方の紋章です」

「紋章、違うのある?」

「あります。属性ごとに色が違い、そして浮かび上がる紋様は魔術の適性度を示しています。上から『神』『龍』『蛇』『無』です」

「へー」

「あんまり興味なさそうですね……まあいいです。あなたは上から2番目の紋章持ちです。適性度と言っても、これらにあまり差はありません。強いていうなら生まれながらに持つ魔力量くらいなものです」

 額に浮かび上がる紋様は時間経過とともにだんだんと薄れていく。身体を持ち上げられ、再び教室へと連れて来られる。

「『師匠』はどんな紋様を持ってますか?」

 そう聞くと『師匠』は待ってましたと言わんばかりにムカつく顔で得意げに語る。

「全属性、オール『神』です。無論、私以外にはこの世に存在しませんよ、こんな魔術師は」

「……じゃあ僕、才能ない?」

「なぜそうなるのです」

「『師匠』ってなんかしょぼそうだもん」

「なっ!?」

 『師匠』は頭を抱える。

「人を見かけで判断してはいけません。これでも私は魔術師の中でトップ……私が本気を出せば魔力解放のみであなたを殺すことだってできるのですよ?」

「やだ、死にたくない」

「よろしい、ではおとなしく話を聞くように」

 魔力を操るのはどうやらとてつもなく大変だということを延々と聞かされる。

「いいですか、つまり魔力とは自然界に溢れる目に見えない粒子的存在であり、それを操る媒介として我々は魔術というものを用いてですね……」

 という長ったらしい話を聞き流しながら、レインはふと考える。

(『師匠』、魔力は血液を動かす感覚に似てる言ってた!)

 全身に流れる血をイメージすれば魔力を動かすことができるということであろう?それなら、できるはずだ。半年程前までの生きるか死ぬかギリギリの生活をしていた頃は、よく怪我をして血を流していた。あの血がドバドバと流れてどんどん身体から力抜けていくような感覚は今でも身に染みている。

 身体中から魔力を流れ出すように……

「ということで、我々魔術師は魔力というものを体内に保管する技術というものを重点的に教育……って、ちょっと!?」

「わっ」

 身体の内部が爆発したような音……がしただけで実際はなんともないのだが……が、起きると同時に室内には一切の風が吹いていないというのに、『師匠』のローブがパタパタと揺れ、窓ガラスがガタガタと音を立てている。

「ちょっと、魔力解放はまだ教えていません!」

「ど、ど、どうやって止める!?」

「魔力穴を塞いでください!」

「なにそれー!?」

 落ち着きを取り戻すために少し深呼吸をする。さっきは傷口から魔力が流れ出すイメージをしたから、今度は逆に傷口が塞がったイメージをすればいい。

 きっと、それでいける。『師匠』にかけてもらったあの回復の魔術を思い出しながら……。

「ふう、焦らせないでください」

「止まった……」

「いいですか?人の話している間に魔力解放はしないこと……というか、まだやり方教えていないですよね?」

「ごめんね」

「ごめんなさい、です」

「ごめんなさい」

「……ですが、魔術の魔の字も教えていないような段階ですでに魔力解放を行えるとは……恐ろしい才能ですね。ここまでの者、私ですら見たことない……歴代の英雄にはいた?いや……ただの猫が数日でここまでに化けるのはあり得ない。理解の範疇が……」

 と、またよくわからない話を始める『師匠』より、レインは今自分のみに起きたことの方に興味が持っていかれた。

 身体から溢れ出したあれが魔力と呼ばれるものなのか、自分のこんな力の源が眠っていたのか、早く魔術を使ってみたい、早く学びたいなどなど。

 話も聞かずにそうウズウズしていると、聞いていないことを悟った『師匠』が話を切り上げて、雑談を持ちかける。生徒が飽きたら、話題を一旦切り替える……あぁ、教師の鏡ではないか……などと考えている『師匠』であるが、レインは最初から話を聞いていないので飽きるもなにもないのだが。

「なにをソワソワしているのですか、発情期にでもなりました?聞いたことあります、猫の生態については詳しくないのですが」

「にゃ?発情できるメスいないよ」

 いきなりの話題転換に戸惑いながら答えるレイン。

「ふん、路地裏で死にかけてた猫がよくもまあそんな軽口を叩けるようになりましたね。これも私のおかげですね、どうです?私は魅力たっぷりですよ?」

 ……?なんと答えればいいのだ?謙遜すればいいのか?

「そんなことないよ」

「失礼なやつですね、決めました……今日からあなたは通常の五倍の速度で私の授業を履修してもらいます。1日に10回は死にかける覚悟をしておくように」

「にゃに!?」

 人で言う『謙遜』と言うのを使ってみたかっただけなのに……。
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