猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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水中生活

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 呼吸すらもままならない水中生活は過酷を極めた。部屋を全て水で埋め尽くし、一応命を繋ぐために少しだけ呼吸できるスペースを作った上で、魔法で結界のようなもの『師匠』が張り、溢れてこないように徹底した水場が完成された。

 そこで生活するのはとてもじゃないが、一歩間違えれば死んでしまうほど過酷なものであった。下手したら路地裏で餓死すれすれのラインを行ったり来たりしていた時と同レベルに……それ以上にきつかったかもしれない。

 足のつかない部屋の中、必死に足をバタつかせながらもがき苦しみ、息をする。そして、『師匠』はどういう原理かはわからなかったが、水中で呼吸し言葉を発して師事してくる。

「ちゃんと水の感覚を掴みなさい。水はあなたの味方なのです」

 そう言われても何度も思ったが、『師匠』がそう何度も同じようなことを繰り返すことに疑問を覚えたレインは、ふと考えた。

 この水は魔力で操作できるのではないか、と。

『師匠』が制御している水には、大量の魔力が流れているのだが、今部屋中を埋め尽くしているこの水にはそれがあまり感じられない。ということは、魔力は今、誰からも干渉を受けていないのだ。

「やるしか、ない!」

 このまま生活していたらほんとに死んじゃう。早く、ここから脱出するためには水の制御を勝ち取り、呼吸するスペースを広げて足場を作ることだ。

 呼吸スペースで大きく息を吸い込み、そして潜る。そこで全身の力を抜いた。少しでも集中するために体には一切無駄な力が入らない用にギリギリまで身体を水に馴染ませる。

 水の冷たさ、肌触り、浮遊感、透き通る光の感覚その全てを感じ取り、それを自分自身の身体だと頭に言い聞かせる。

 この水は全て自分の身体の一部であり……故に、魔力が流れるのだと。できるだけ自然に、違和感なく……魔力を均等に薄く広げて身体から解き放ち、水に染み込ませていく。

 水は次第にレインの魔力に染まっていき、そして魔力を介してその水を操作できる段階にまで至った。

(動け!)

 呼吸が苦しくなってきた。そんな時でもさらなる集中に思考を落とし込み、魔力を操る。

「ぷはぁ!」

 やっとの思いで水を壁際によせ、呼吸できるスペースを広げることに成功した。足をバタバタとさせながら必死に水面で呼吸する必要がなくなったのだ。なんと嬉しいことか。

「少々予想とは異なりましたが……結果的には成功ですね。おめでとうございます」

「はぁ……はぁ……ししょー」

「はい、『師匠』です・ちょうど今日で一週間ですね。別にこんなことをしなくとももうすぐに解放してあげましたのに」

 いや、あのままやっていたら『師匠』の助けが入る前に死んでしまうところであった。

「指定はしていませんでしたが、物質的に存在している水を魔力を介して操作する技術を学んだのは大きな進展です。よくやりましたね」

「それだけ……?」

 グテっと倒れながらレインが問うと、『師匠』は自問自答を始めて、そしていつも通り負けた。

「あなたは出来た子ですね」

 そう言って身体を抱き上げる。

「今すぐ暖炉に行きましょうか。今日はもう一日中ゆっくりと休みなさい」

 その言葉と共にレインは、優しく抱かれたことと温もりを感じたことで心から安堵し、すぐに眠ってしまった。

 そんな様子を見ていた『師匠』は、

「このまま水に沈めたらどうなるのか……」

 と、なんとも恐ろしいことを口走っていたが、

「流石にそれは酷すぎますよね。嫌われたくないですし」

 そうにっこり微笑んで歩き出した。
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