猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

文字の大きさ
17 / 62

部隊長レイン

しおりを挟む
「やばい……死ぬ」

 レイン、初めての過労死の危機が迫る。ここ最近でレインの仕事内容は一変してしまった。

 普段は民間の依頼などをこなしてお金を稼ぎつつグレンの研究を手伝いながら研究資料を見て学ぶということを繰り返していたのだが、魔術界直轄の部隊員となったことで、なんというか……大変な仕事がたくさん回されてくるようになった。

 その中にメインとして含まれるのはやはり『異常現象への対処』である。

「『部隊長』!突入準備が完了しました!」

「あ、うん。じゃあ行こうか」

「はい!」

 えらく気合の入っている青年(圧倒的年上)に敬語を使われる日が来るなんて思ってもみなかった。

 異常現象の対処のためと銘打ってとても危険であるということをアピールしていたというのに、なぜだか部隊員志願者が大量にできてしまった。

 魔術界直轄というネームバリューは偉大である。魔術界直轄というのはそんじょそこらの支部内幹部よりも高官であるようで……ただの上級魔術師とは一線を画す発言権だそうで。

 まあ、新米魔術師のレインにはよくわからないし、どうでもいい話なのだが。レインが望んでいるのは『師匠』のもとにまで届く名声ただ一つである。

 ちなみに今回対処にあたっているのは、火力が上がり続ける焼却炉の破壊だ。

 これも異常現象だとのことで、すでに火力は一万度を超えているそうな。すでに高温のエネルギーが辺り数百メートル圏内を地獄に変えてしまっている。

「部隊長!これ以上の接近は不可能です!」

「ふむ……」

「部隊長、ご指示を!」

「あ、僕のことか。レインと呼んでよ」

「そんな!上官を呼び捨てになど……」

 発足人として持ち上げられたレインを含むヴァージとオリバーは『部隊長』と呼ばれて、それぞれ『α隊』『β隊』『γ隊』として活動している。部下は十名ずつ。だが、志願者はそれ以上にいる。今後も増えるかもしれないと考えるだけで胃が痛くなってくる。

「これ以上近づけない?何弱気になってのさ。ちゃんと頭を使わなきゃ」

 お手本を見せてやると、部下たちを押しのけて前に出る。

 焼却炉の周りは普通の街であったため、すでに家屋が燃えて街の原型は留めていなかった。

「部隊長!」

「見ててよ」

 熱波がレインの身体の全身を溶かそうと襲い掛かってくる。だが、それはレインの身体に触れる前に身体に纏っている魔力によって押しのけられ霧散していく。

 これは黒い人型を相手にしたときに新しく考えた技である。全身に薄い魔力の膜を張ることで、ある程度の魔術的、物理的現象を跳ねのける力とするのだ。

「す、すごい!」

「どうだい、すごいだろう」

「流石は九歳で上級魔術師となった『天才』だ!」

 部隊員が口々にレインを誉めたてる。

「属性がない魔術なんて初めて見ました!」

「ああ、無属性魔術のことか?」

 これは魔術と呼んでいいのか正直微妙なラインであるが……レインは人型の技術を盗み見て新たな発想に至ったのだ。

 そもそも、魔術に属性がなくたっていいじゃないか、と。

 魔術に属性があるから魔術の才能がなければ魔術が使えないとなってしまう……それでは、せっかくある魔力がもったいないではないか。宝の持ち腐れになるくらいなら、新たな『属性』をこの手で作ってみんなを救ってしまおうと、レインは思い至ったわけである。

 その結果が無属性魔術の発明だ。

 属性を纏わせずに、魔力を体内もしくは肉体の周りのみで機能させることで肉体機能の強化、防御術、攻撃術を作り上げた。

 作った期間はわずか数週間だった。それを論文として提出し、それは魔術界に大いに受け入れられた。始めこそ、中級魔術師が論文すらまともに発表したことないのに昇格するのはおかしいといろんなところから反発を喰らったものだが、これを一つ発表しただけで状況は一変した。

 才能がないと言われて魔術の道を諦めた者が、魔術の世界に戻ってきた。これは大きな貢献であった。

「おっと?」

 熱波ではなく空中で炎の塊が渦を巻き、まるで東の龍のような姿でレインへと向かってくる。

「部隊長!?」

 炎はレインの身体を貫通し、すべてを焼き尽くす超高温でレインの身体を溶かしたように見えた。実際、後ろからただついてきていた部隊員全員がそう思っていた。

 だが……

「ふむ、炎には反撃する意思を持っていると報告書に記載を」

「「「ええ!?」」」

「?どうしたの?」

「あれ?身体が……無傷!?」

 レインの身体は魔力体であり、いくら攻撃されても死ぬことはない。グレン以外にまだバレていないため、意外に有能な力だ。

 そして、攻撃されたときの修復速度の練度もレインは常に上げ続けてきた。攻撃を受けた次の瞬間には傷が感知するように魔力の流れを作りそれを術式として組み込んだのだ。

「僕に攻撃は効かないよ!」

 炎がもう一度レインの身体を行き着くさんと突進してくる。先ほどよりも火力が上がり、全身が燃えるように熱く感じる。炎は近づくにつれ、熱波を吸収して巨大化していき次第にレインを呑み込むほどの大きさを手にした。

 だが、炎の大きさなどレインの前では無意味なのだ。

「『ブレード』」

 レインは自身が考えたオリジナルの水の魔術を使い、右手を水の剣に変形させた。水の肉体であるから、レインの魔力次第でいくらでも変形することが可能なのだ。

 ひじの先から透明な水が片手剣を形作り、それを炎に向かって振り下ろす。圧倒的な火力を見せた炎であったが、レインのブレードを前にそれは真っ二つに切り伏せられた。

 それを斬った次の瞬間、熱波は収まり、燃え盛る家屋の火の勢いも徐々に弱まり始めていった。そして、斬った炎の跡にはガラスの破片のようなものが落ちていた。

「なるほど、これが本体だったのか」

 拾い上げて、それを丁寧に袋の中に保管する。

「これを持ち帰って上へ報告しに行くぞ。今回も無事に解決だ」

「「「おお!」」」

 部隊員の歓声に包まれながら、レインは焼却炉を後にする。だが、レインにはこの後帰ってからもグレンの仕事を手伝いに行くという仕事がまだ残っている。

 活動開始が朝の五時で、現在時刻が夜の十二時。そして今から再び仕事である。なんて仕事に忙殺される日々なのだろうか。

 だが、これで『師匠』の元にも僕の話が伝わるのなら……と、考えると不思議と我慢することが出来た。とりあえずしばらくは……。

「さて、帰還するぞみんな!」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...