猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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絶世の美男美女

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 数日後

 最初の授業以外、生徒に変わったことはない。ただ、さすがに暴走してしまった生徒の体裁は悪くなってしまったようで、居心地悪そうにしている。本人も自分が何をしたのかよくわからないと語っていたため、少しかわいそうに感じてきた。

 レインは一応、魔術界へ向けて『異常現象』が帝都魔術学校内で発生した可能性がある旨を報告しておいた。便宜上こそ、レインは休暇中の身ではあるものの、緊急事態には駆り出される。それこそ、まさかレインが通う学校内であったら調査するに当たってレインが一番適任であった。

 生徒たちに不安を感じさせるような重装備で『アノマリー隊』たちがやってきたら怖いだろう?ヴァージさんやオリバーさんは今頃どうしているだろうか?最初の仕事以降あまり会えてなかった。

 上級魔術師二人が瞬殺されたあの人型との戦闘で負傷しながらも生き残った腕前は本物である。殉職の話も仕事の失敗の話も聞かないので、ひとまずは安心していられるが。

「ねえねえ、レイン君?今何考えてるの?」

「ふぇ?」

「ボケーっとしてたよ?」

 座学の授業が終了したところで、リシルが話しかけてきた。どうやらレインは授業を聞いておらず、黒板はすでに消されてしまったところだった。

「もう、しょうがないんだから。ほら、私の写していいよ」

「いいの?」

「これくらいいいわ。友達でしょ?」

「うん!」

 ありがたく写させていただく。速記技術はグレンの元で学んだので、スラスラとペンが動く。他の生徒たちが数分費やす必要がある分をレインはものの10秒で書くことができた。

「それ読める?」

「え、読めるよ?」

「ならいいけど……」

 見る人が見ないと文字に見えないことだろう。何せ全部の文字が繋がっているのだから。ブロック筆記体が基本の共通語だと余計酷く見えるだろう。

「もう授業ないから……今日はもう帰ろうかな?」

「そうだね、私も一度寮に戻ろ」

 リシルと二人で教室を後にした。なんてこともない世間話をしながら廊下を闊歩する。友人とのこんな何気ない会話の一つ一つも案外悪くないと思える。まあ、友達はリシルしかいないのだけど。

「はあ、貴族に生まれればよかったな」

「いきなりどうしたの?」

「だって、平民生まれだとみんな僕のこと嫌いになっちゃうでしょ?リシルは別として」

「そんなことないわよ。ほら、周り見て?」

 そう言われて廊下を見回す。すれ違う生徒たちはレインのことを知っているようで、レインをチラチラと見ていた。

「みんな見てる……」

「レイン君ってもしかして鈍感?」

「え?」

「レイン君、案外女の子には人気なんだよ?」

「ふぇ?」

 予想外の答えに素っ頓狂な声が飛び出した。

「魔術学校は貴族が通うものじゃないの。貴族が通うべき!とか思ってるのは縄張り意識の強い男子たちだけよ。だから、女の子たちは平民であるってことを差し引いても可愛……小さいレイン君のことに興味津々なの」

「ほえ~」

「なんだか、あんまりわかってないわね……ま、レイン君以上のイケメンなんて上の学年にもいるしね?」

「イケメン?」

「そっち気になるのね……」

 思ってた反応と違う……と落胆するリシル。よくわからないけど、答えてくれた。

「この国の第二王子殿下、ヘイゼル様よ……ほら、あの教室見てごらん?」

「何?あの人だかりは」

 そこには二年Sクラスの教室に女性たちが群がっている様子であった。廊下側に窓なんてものはついていないため、教室の出入り口であるドアを二つ占領して中にある……いる?何かを覗いている人の数、約三十人近く。

 怖いくらいに積み上がっている。下にいる人潰れないかな?

「ごめんよ、君たち。通してくれないか?」

 そう言いながら中から出てきたのは、レインを目を見張る黄金比人間であった。金髪の髪に優しそうな緑の瞳、肌はあまりの透明感に驚愕するレベル。目、口、鼻その他のパーツも全て黄金比のように完璧だ。一つのズレもない。

 そして、何より足の長さと胴体の長さの比も黄金比、腕の長さも黄金比……人として最も美しい造形をしている。通り過ぎるだけで、女性たちは恋に落ちていくことだろう。超絶美形から作り出される一つ一つの動作も美しく、どこか儚げな表情もそれと相まって相乗効果となってレインの視線を奪う。

 生物学的オスであるレイン、しかも猫目線から見ても中から出てきた……第二王子殿下らしき人物は美しいにも程があった。例え男であっても、あれはまずい。長時間そばにいたら簡単に落とされそうだ。

 レインが惚れ惚れとしていると、次第に廊下を歩いてきていたその第二王子殿下と目が合う。そして、その視線はリシルに移り変わった。

「リシル嬢、お久しぶりです」

 そう、会釈をする第二王子殿下。

「お久しぶりです殿下!」

 リシルの第二王子に負けず劣らずの美貌が優しく微笑む。まるで、お伽話の主人公たちのワンシーンを切り抜いたかのような絵面に周りは息を呑む。

 レインは場違い感に呑まれながら、二人の邪魔をしないようにゆっくりと退避しようとしてリシルに襟を掴まれた。

 逃げるな?と、その笑みが告げていた。初めてリシルを怖いと感じた瞬間であった。

「ところで、リシル嬢。こちらの子供……は、どなたで?」

「あら、子供だなんて。レインは私の友人で、同級生ですよ?」

 二年と思われる野次馬たちは驚いた様子でレインを見ていた。みんな平民ということを知らないからか、ただただ驚いている様子だった。

「これは失礼した、レイン殿……と呼んでも?」

「はい、問題ありません」

 敬語に自信ないんだけどなぁ……。そんなレインの心の中を読み取ったのかわからないが、第二王子は優しく微笑むと、

「敬語はいらないよ。リシル嬢の友人なら僕の友人でもある」

「え?」

「ああ、僕の呼び方も好きにしてくれて構わないよ。僕の周りは堅苦しい人たちばかりでね、ヘイゼルって軽く呼んでほしい」

「……あの、二人はどういう関係なんですか?」

 リシルと第二王子は知り合いのようだが……。レインが疑問に思うのも無理はなかった、なぜならレインは社交界に出た経験がないものだから最初から話についていけるわけがないのだ。

「僕たちは婚約者同士……将来結婚することになるね」

「ええええええ!?」

「うふふ、びっくりした?レイン君って驚くことあるんだ♪」

 だが、よく考えればそれも自然な話だったのかもしれない。リシルは公爵家の人間で、第二王子は王族。身分的に釣り合っているし、なんなら一目見ただけで二人がお似合いとわかる。

「結婚……」

「どうしたのかな、レイン殿」

「結婚って、どんな感じですか?」

 シーンとした空気が流れる。あ、やばい。なんだかわからないけど、やらかした気がする。

「あはは!面白いこと言うね!」

 だが、第二王子は爆笑してくれた。

「結婚がどんな感じかって?そうだね、まだしてないからわからないけど……今となんら変わらない。結婚しても、お互い友達のような感覚だろうな」

「ええ、多分」

「え~?」

「何か不満か、レイン殿?」

「もっと、劇的な愛情とかないんですか?」

「劇的な愛情……そうだね、リシル嬢には愛情をもって接しているつもりだけど、よくわからないな」

 レインには結婚なんて縁のない話なのだ。もっと夢を見たい。

 レインは猫である。だから、人間と結婚することはまずなかった。異性として愛することは何があってもないと思われる。かと言って猫のメスと交わるかと言われても……今更悲惨な猫時代を思い出すような生活はしたくない。

 レインは今が一番幸せだった。研究して、一人だけど友達もいて……仕事も充実している。ただ、仕事はちょっと多すぎだし休暇中にも仕事を見つけてしまったけれど。

「ふふ、私はレイン君のことも愛してるわ」

「そうなの?でも、浮気はめっだよ?あ、でもリシルのことは大好きだから」

「っ!……ふしゅぅ……」

 リシルが変な声を出しながらレインを掴む力が抜ける。

 周りから「きゃあ~!」という黄色い声が聞こえてきた。レインは特に意識してはいなかったが、レインとて別に顔が整っていないわけではないのだ。

 完璧な黄金比というわけではないし、大人びた美貌など一切持ち合わせてはいない。ただ、完璧すぎるというの問題であった。圧倒的な美貌は逆に近づきにくいオーラを発してしまう。だから女性たちも周りで見ているだけで、決して話しかけようとはしなかった。

 対してレインはまだ幼さが残った顔をしていた。プニプニとしてそうな少し丸い顔。眠たげなタレ目、可愛い笑い方。美しいと言うより、愛らしかったのだ。整っている顔は将来美人になること間違いない!ただし、成長することはない。なぜなら人ではないから。

「これは……はは、ちょっと嫉妬しちゃうなあ?僕も愛しているかい?」

「ええ、もちろん」

 今度は余裕の笑みで答えるリシル。美貌に挟まれて震えているレインは縮こまる。

「あ、そうだ。今思い出したんだが……リシル、この後予定は空いているか?」

「空いていますわ」

「ちょっと、ついてきて欲しいところがあるんだ。レインもついでだからついてきてくれ」

「え、僕も?」

 第二王子は微笑みながら、「こっちだ」とレインとリシルを先導して歩き始めた。
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