猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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ずっと隣に

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 保健室までやってくるとそこには、すでにリシルはおらず、かなり大袈裟な手当をされたアルフレッドだけがいた。保健室の教員も今はどこにもおらず、他のベッドを使っている生徒もいない。

「お前は……さっきの」

「皇子、お怪我は大丈夫ですか?」

「怪我なんてしてない……」

 怪我があったとしてもただのかすり傷程度だろう。ゴーレムは三メートル以上にもなる巨体であった。そんな巨体から繰り出される攻撃を受ければ軽傷では済まないだろう。それよりも心配なのはアルフレッドの精神状態の方である。

「ああっと……僕は皇子について何も知らないのですが、リシルがお好きなのですか?」

「むぅ……そんなはっきりと言うなよ……」

「ですが、リシルはあなたの兄上の婚約者であるのでは?」

「その通りだ。だけど……好きになってしまったものは仕方ないじゃないか。皇族には自由恋愛の権利はないのか?夫が兄上だろうと、俺だろうとどっちだっていいだろう……?」

 公爵家的には皇位継承権に近いヘイゼルの方に投資した方がメリットがある。ヘイゼルは成績優秀で周囲からの人望も厚いとくれば、将来的な利益はヘイゼルの方が高いかもしれない。アルフレッドをよく知らないレインが考えるにはここまでが限界だ。

「厳しいことを言うようになってしまいますが、お兄さんよりも自分が優れていると思うところはどこですか?」

「へ?」

「へ?じゃ、ないですよ。第二皇子よりも優秀なところでアピールすればいいのでは?」

「そんな……僕は、そんなに優秀じゃない。何をやってもうまくいかないんだ。どうしてだろうな、兄上は簡単にこなせたことも俺は何度やってもできないんだ」

 ポタポタと涙が垂れる。

「いつも周りから比較される。成績も、容姿も、振る舞いも何もかも」

「……………」

「俺だって努力はしているさ。でも、努力してもどうしても追いつけないんだ。兄上のようになれない……リシルに振り向いてもらえない……」

「そんなことないですよ」

 咄嗟に口に出てしまった。

「リシルのことはまだ諦めてないですよね?」

「……ああ、まだ諦められない。今回はゴーレムに邪魔されてうやむやになってしまったから」

「皇子は第二皇子……ヘイゼルよりも優れているところがあります」

「え?それは……」

「諦めない心ですね」

 何事においても諦めないと言うものは重要である。

 たかが、一度で諦めてしまうのか?たった一回きりで、もう諦めるのか?もう一度挑戦すればいいじゃないか。魔術も同じである。何度失敗した実験であっても、諦めずに研究を続ければ何かの糸口を見つけて一気に成功まで近づくことができる。

「諦めずに頑張りましょうよ。諦めずに頑張ればそれはいつか叶うかもしれないじゃないですか」

「でも……自分が続けられるのかわからない……途中で心が折れてしまうかも……」

「じゃあ、僕がそばにいて支えてあげますよ」

「え?」

「皇子に色々と教えてあげます。色恋のテクニックとかはわからないけど……あなたが誰しもが認めるような『すごい人』にして見せます。そうすれば、リシルも振り向いてくれますよ、きっと」

「でも、変えられないものもあるんじゃないか?顔とか……」

「何言ってるんですか!皇子の顔はとても可愛いし、愛らしいですよ!」

「あいらっ……」

 顔を逸らすアルフレッド。明らか照れている様子であった。きっと今まで周りからは比較されて落とされてきたのだろう。誰かから真正面に褒められたことが少ない。だが、これからは僕が目の前で褒めてあげよう。

 私情が混じっていることに関しては否定はしない。ヘイゼルから勉強を見てほしいと頼まれたと言うのもあるし、さっきのゴーレムに狙われていた件もある。だが、それ以上にレインはアルフレッドの願いを叶えたいと思ってしまった。

 ふいっと顔をレインの方へと向け直すアルフレッド。

「……お前、名前は?」

「レインです」

「平民?」

「……そうなりますね」

「そうか……言っておくが、平民だからって優しくなんてしないからな?」

「はい?」

「だ、だから!べ、別に特別扱いはしないぞ!友達扱いはするけど……それと、レインは勉強とか教えられるのか?」

「はい、仮にも主席なんで」

「へ?そうだったの?」

「そうです、あれ?入学式で前に出ましたよね?」

「ご、ごめん……寝てた」

「はあ~……」

「た、ため息をつくなあ!」

 なんだか感情豊かな子だ。これが普通の子供の反応なのだろう。

「……勉強教えてくれる?」

「はい」

「馬術は?」

「教えてあげます」

「……魔術は?」

「もちろん。僕の持てる技術をあなたに叩き込みます。これでもとっきゅ……」

「とっ?」

「おほん、主席なんで」

「ありがとう」

 へにゃっとした笑いを浮かべるアルフレッドは年相応の喜びの顔を浮かべて嬉しそうにベッドのシーツを握っていた。

「一緒にリシルも振り向くような完璧な皇子を目指しましょう」

「うん!」
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