猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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「夏休み前の授業は今日で最後か~」

「入学してからもうこんなに時間が経ったんだね」

 若干肌寒い教室の中、半袖の少年少女たちは次の日から訪れる夏休みに一喜一憂していた。一憂しているのはもちろん大会メンバーだけである。魔法で涼しい教室の中から授業を終えた生徒たちは一人ずつ帰っていく。このあと、寮から必要な荷物だけをとってみんな帰るのだ。

 アルフレッドも大会メンバーとなったわけだが、大丈夫だろうか?強がりだけど、内心はビビりというところが可愛らしいアルフレッドには、きっと夏休みは大会前の緊張で毎日眠れないことだろう。

「大会に向けての訓練の間は、ミチカちゃんと一緒にいられるから安心だわ」

「僕は訓練があることすら知らなかったよ……」

 この時になって初めてレインは大会メンバー用の特別訓練があることを知った。出席するかどうかは自由らしいので、何度か顔を出したら自分の研究に戻ろうかと思う。ちょうど、次の作りたかった魔術の完成が目前まで見えて来ているのだ。

「でも、ちょっとだけ楽しみだわ。レイン君の寝顔を見れるなんて!」

「見ないでよ?それに、僕は護衛だからリシルより早く寝ることはないよ」

「えー。あ、でもレイン君の寝巻き姿……萌える……」

「燃える?」

「レイン君がいるからもう暗殺者なんて怖くないわ!」

 震えていたリシルガ嘘のように堂々としている。そこまで信頼されているというのは素直に嬉しいことだ。

「今日の放課後から訓練が始まるらしいから、レイン君も忘れずにくるのよ?じゃあ、私はこっちだから!」

 リシルが女子寮に駆け出していくのを見送ると、レインはため息を吐いた。

「訓練にリシルの護衛。研究とかもしたかったんだけどな……」

 背後をフラフラと飛んでいる物体を掴む。

「『魔術界』からか」

 相変わらず厳重に封がされている。

「いいよ、わかってるよ。支部に行けっていうんでしょ?」

 休暇中だというのに、また仕事か?面倒くさく思いながらも、レインは歩を進めるのだった。


 ♦️


「おかえり、レイン君」

「あの、休暇中という話はどこへ行ったのですか?」

「それなんだが、大変申し訳ないとは思っている」

「じゃあ休ませてくださいよ支部長」

 支部長は苦笑いでレインを宥める。

「そう言われても、今回はとても重要なものなんだ」

「重要?」

「新たな『異常現象』だよ」

「……それはどこで?」

「わからない」

「え、わからないですって?」

「どうやら各地を転々としているらしいんだ」

 各地を転々としている『異常現象』か。これは探し出すのが苦労しそうだ。

「特徴は?」

「人型でその姿は人間のそれだ。ちゃんと服も着ているし、立ち居振る舞いもなっている」

「え、それじゃあもしかして……」

「ああ、民衆の中に紛れ込んでいるよ」

 状況としては最悪と言っていい。たださえ危険な『異常現象』が人々の中に紛れ込んでいるなんて。

「ちなみに、そいつは『悪魔』の類ですか?」

「悪魔?もう君にも報告はいっているのか?」

「ええ、一応」

「可能性はあり得る。隊員が戦闘した記録はまだ残っていないから、詳しいことはわからないが、我々を認識して逃げているのは間違いない」

 アノマリー隊を認識しているとなれば、隊服を羽織っているものからは即座に逃げられることだろう。それは、服装を変えれば済む話だが。

「で、なんで僕が直接出向く必要があるんですか?」

「ああ、どうやら隊員のみならずたいていの魔術師を見ても逃走を図ろうとするらしい」

「……ああ、言いたいことは大体わかりました」

「レイン君、君は……その、お世辞にもローブを脱げば魔術師らしいとは言えないだろう?」

 支部長が言っているのは年齢なのか、身長なのか……はたまたその両方なのか。どちらにせよ、レインの頭には血管が浮き上がっている。

「ああ、そう怒らないでくれ。これは任務において最適人であるということでもある」

「別に仕事が好きというわけではないのですが……」

「わかった!ボーナスは弾ませる!」

「……わかりましたよ。ただ、僕にもいろいろと用事があるので、出かけるようなことがあればその都度調査します」

「それで構わない。その時は、魔術師用ローブは羽織らないでくれ」

「わかりました」

 人間たちの中に紛れ込む『異常現象』か……適当に当てもなく探すだけじゃ絶対に見つけることはできないだろう。やはり、ここは先に探索魔術を完成させてからにした方がいい。

 レインの属性は水である。そして空気中には微量な水分が含まれている。漂う空気中の水を利用して広範囲を索敵できるように開発しているのだが……如何せん識別できるのが、生物であることだけなのだ。

 要するに、索敵魔術に反応する生物が敵か味方かの判別はできない。できずとも役に立つ魔術ではあるのだが、もう少し何か欲しいところだ。

 それも、この間ので何か変わるかもしれない。長期休暇に入ると同時に新しい生活が始まるのだ。

「それではよろしく頼むよ、〈変幻〉」

「了解しました」
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