長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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出会い、ノルトの民のコスト

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「ここは東通りと呼ばれる東西南北にだだっ広い道路が通っててね。中央広場につながってるんだよ……とはいえ、戦車が隊列で通れるほどの広さだとは最初は思わなかったよ」

 エキドナが呆れながら弥生たちに説明する。

「馬車は左通行なんですね」
「日本と一緒だね。馬が遠近感狂いそうな位に大きいけどねぇ」

 のっしのっしと2頭で馬車をひく馬は弥生達の倍以上の背丈だ……その脚も両手を回しても届くかどうか。ウェイランドに来るまでの馬車の馬は弥生達が良く知るサイズだっただけにその衝撃は大きかった。

「文香食べられちゃうかも……」
「草食だからだいじょう…………ぶ、ですよねエキドナさん」
「草食だよ。サイズ的に象になっただけだと思えばいいと思うねぇ」

 上り下り4車線はある道路の脇にはこれまた広い歩道が整備されている。

「エキドナ姉、広さと人通りの多さなんだけどバランス悪くない?」
「ああ、それは多分…………」

 ズシン……

「うん?」
 
 ほんの僅かな微震を真司の足が捕らえた、一定の間隔で振動は徐々に大きくなってくる。
 しかし、他の通行人は気づいているはずなのに気にかけている様子はない。立ち止まって周りを見渡しているのは弥生達だけだ。

「一体これは……」
「弥生、真司、文香……驚くと思うけどさわいじゃだめだよ? 僕は慣れた」

 真司の肩をちょんちょんと指でつついてエキドナが告げる。
 3人がこの揺れの原因を知ってそうなエキドナに問いかける前にエキドナが肩越しに親指を道路の曲がり角へ向けた。
 自然と弥生たちの視線はそちらに移り……その正体が判明した。

「「「………………」」」

 定期的な微震の正体は巨大な人だった。
 馬も大きければ人も大きい。茶髪で若干たれ目気味な目元、そして何もかもが大きいオーバーオールとケープを纏っていた。
 デザイン的に何かの制服なのか黒に近い紺で色が統一されている。

「がりばーさんだ……」

 文香が読んでいた童話に出てくる巨人みたいだと感想を漏らす。

「ラッキー……あの人統括ギルドの配達員だ」

 エキドナが巨人の持つ黒いカバンには金槌と斧が交差するマークを確認して指をパチンと鳴らす。ちょっと待っててねぇ、と弥生達に声をかけるとエキドナは気軽な様子でその巨人の元へ向かった。
 巨人の方もエキドナに気づいたようで他の通行人に邪魔にならないよう、周りを気遣いながらしゃがみこもうとするが……エキドナが手を振ってそれを制した。そのまま彼女は街路樹やお店の看板を足場にして跳躍して彼のと鼻の先にある木の枝を片手で掴みぶら下がる。

「やあ、統括ギルド員さん……えーと、コスト、さん?」

 エキドナが見つけたオーバーオールの胸元に着けられた名札には『コスト』とカタカナで書いてある。
 
「ああ、その呼び方で合ってる。なんだい?? 身軽なお嬢さんは道にでも迷ったのかい?」
「いやいや、ちょっとこの国に初めて来た子供達を案内してたんだけどさ。ノルトの民を始めて見るって言っててねぇ、配達の邪魔じゃなければ肩にでも乗せてくんないかなぁ」
「へえ……俺達を? ずいぶんと辺境から来たんだなぁ……配達は終えてるからギルドに戻るだけだしかまわないよ。どこに行くんだ」

 ぷらーんと木の枝につかまっているエキドナにのんびりと答えるコスト。

「そうだねぇ……いろいろ手続きやら家探しとかもしなきゃいけないから統括ギルドまで! 僕はエキドナだよ」
「移民かい? それなら受付が知り合いだからついでに案内しよう」

 エキドナの説明でこの国の住人ではないと判断したコストは案内を申し出る。
 
「ありがとっ! んじゃ連れの子たち呼んでくるね」
「ああ……ってその子たちかい?」

 コストの言葉にエキドナが下を見ると木の下で弥生たちが彼らを見上げていた。
 目は口程に物を言う……好奇心が抑えきれない、とキラキラした眼差しが3セットだ。

「そう、弥生! この人コストさん……ノルトの民って言って見ての通りだよ」
「ウェイランドへようこそ、小さな旅人さん。この子から聞いたよ。俺たちを見るのは初めてだって……その顔見る限り期待には応えられてるかな? ちなみに俺はベジタリアンだから……一番小さなお嬢ちゃん、隠れなくても大丈夫だよ」
 
 言外に『食べないよ』と意思表示しながら、文香が恐る恐る真司の背後から顔を出しているのを見てコストが笑う。その巨体ゆえに初見では怖がられたりするがノルトの民は非常に温厚で器用なのだ、力も強くウェイランドの城壁を築く上で彼らの存在はとても助かっていた。

 ゆえに建築部門の職人達にノルトの民を知らない者はいない。

「ほら、肩だと高いから万が一落ちたら大変だ。手の上に乗ると良い」

 ノルトは片膝をついて右手を差し出す。
 こういう時、遠慮がないのは文香だ。

「良いの?」
「もちろんだとも。お名前は? お嬢ちゃん」

 文香はもじもじとコストの指に手を伸ばす事を何回か繰り返した後、元気よくコストに答える。

「文香! 日下部文香です!」
「フミカか……良い名前だね。そちらは?」
「真司……です」
「この子たちの姉の弥生です」
「フミカにシンジにヤヨイね、で金髪のそっちがエキドナ、と」
「お邪魔しまーす!!」

 靴を脱いで文香がよじ登る。暖かいぬくもりがある指を一生懸命に……だが、悲しいかなやっぱりちょっと高いのか苦戦していた。
 それを見て真司が背中に手を当てて軽く押し上げてやる。
 何とかそのおかげで文香はコストの手に乗るのに成功した。

「ありがとー」

 その様子をコストは微笑ましく見守りつつ、ふと気づく。
 文香が上る時に靴を脱いで、それに続いた真司も弥生もそれに倣った事に。 

「……(ずいぶんと几帳面というか、こんな小さな子が。良い所のご子息さん???)」

 そんなコストの心中をよそに、四つん這いでお尻をぴょこぴょこと揺らしながら文香は掌の真ん中まで進む。

「じゃあ立つよ。はしに立つと危ないからね」
「よろしくねぇ」

 ひらりと枝から手を放しエキドナはコストの右肩にお尻から着地、しっかりとコストのもみあげを左手でつかんでいた。

「今から行けばちょうど昼だな」

 ちょうどいいし、ギルドの食堂に連れて行こうとコストは考える。
 ノルトの民が集う食堂なら弥生達分はシェアして食べればただ同然だし、と。

 しかし、コストの目論見もくろみは若干外れる。
 弥生、真司、文香があれこれとウェイランドの街並みや設備に1個1個反応して……その説明に手間を取られ、最終的に苦笑を浮かべるエキドナに止められるまで続いたからだ。
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