長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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王城見学会 ② 

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「ここが城???」
「そうですよ、ウェイランドの中枢です」
「なんかこう……地味だね」

 茶色のカーペットは分厚く、しっかりとした硬さもあり高級品なのは確かだ。
 城の壁もコンクリート直打ちで窓ガラスも二重、しかし飾り気はない。

 全体的に左右対称で寸分の狂いもなく、という趣旨で一貫していると弥生は感想を持った。
 豪奢で煌びやかな……という一般概念からはどう考えても逸脱しているお城みたいな何か……。

 それを記憶の底から引っ張り出すのに苦労しつつも、何とか言葉にする。

「そうだ、要塞とかだ」
「悪くない発想ですよ。ここは万が一の避難所なんです」
「避難所?」
「ええ、それこそ弥生達が生まれるずーっと前に魔物の大発生……スタンビートと呼ばれる大災害が起きたんですよ。その時はまだ城壁も城もお粗末なものであっという間に飲み込まれてしまう状況に置かれてしまいました。当時はここから東が丸々と魔物の進行に耐えられなくて全滅しかけたんです」

 それから30年、経験を活かすのが残された者の務めとばかりに城も町も城壁もコンセプトを防衛一択に極振りしたのである。もう二度とこの地を荒らされない様にと。

「そっかぁ……じゃあ魔法士ギルドが地下なのって」
「ええ、あそこもシェルター代わりになります……再建時に地下遺跡が見つかりましてねそれを流用、補強したんです。定期的に換気しないといけなかったり湿気に負けやすいのが玉に瑕ですが」
「真司の話じゃ幽霊さんがいるって……」
「不死族の方ですね。一回死んでるのに不死とはこれいかに、と自虐する人たちです」
「本当にいるんだ……」
「主に夜勤を担当してます……というか弥生が執務室で爆睡した時に毛布を掛けてくれてましたよ」

 実はこの国の不死族の三分の一くらいはこの災害の時の死者だったりした。
 死してなおこの国を守ると……今でも陰に日向に活躍している。

「……姿を見せてくれてもいいのになぁ。てっきりオルちゃんだと思ってた」
「何を言ってるんです……ほら、普通にそこらへん歩いてますよ」

 そういってオルトリンデは銀のトレーを運んでいるメイドさんを一人呼び止める。
 ホワイトプリムと金髪が映えるザ・メイドさんといった女性はオルトリンデに優雅なカーテシーを披露して、要件を聞いていた。
 何度か弥生をチラ見してはくすくすと笑い、承知しました。と弥生が見てる前でかき消える。

「ふおっ!? 消えたっ!!」
「こちらですよ。秘書官さん」

 背中越しに聞こえる軽やかな声、そう、さっきまで弥生の目の前にいたメイドさんの声だ。

「ふええっ!? うしろっ!?」
「いいえ、貴女のおなかからこんにちは」
「ぎゃああぁぁぁ!!??」
「うわぁ! オルトリンデさん! この反応久々ですっ!! なんですこのかわいい子!!」

 にゅっとおなかから首を出して弥生をからかうメイドさん、当然ながら実体はなく幽霊だった。
 とはいえ透けているわけでなく、どこからどう見ても人間そのままなのは弥生の予想外。
 今ではウェイランドで当たり前にいる不死族の方々にとっては久々の……言い方はどうかと思うが『カモ』な弥生は貴重な遊び相手だったりする。

 ちなみに物を運んでたりするのは実際に持っているわけではなく、固有能力の念動力を使っているだけであった。

「あんまりからかわないで上げてくださいね。私の弟子兼部下兼友人なので」
「ええ、またね。弥生ちゃん……いつでも王城に来ていいからね!! で大歓迎したげるわ!!」
「普通にしてくれれば!! びっくりとかいらないですからねっ!?」

 うふふふふ……と、弥生が全く安心できない笑顔を浮かべてふよふよと仕事に戻るメイドさん。
 暫くの間、王城内では弥生や真司、エキドナが不死族共有のおもちゃになる事が確定した瞬間だった。

 その後は比較的穏やかに場内の見学が進み、途中事故案件みてはいけないものが徘徊していた以外はとてもとても充実した見学ができている。
 特に王城の食堂で試食した料理は普段味わうことができない繊細な味付けでオルトリンデと弥生はかなり食べ過ぎてしまった。最終的に「他の方も食べるので……」とやんわり断られてしまい二人で頭を下げたりもした。

「文香も楽しんでるかな」
「ええ、今の時間なら騎士の訓練所でお芝居を見ている頃合いです。弥生はこの後飛竜体験でしたよね」
「そう!! すっごく楽しみ!!」
「それは何より、私は高い所が得意ではないので下で待ってますよ」
「えええぇ、行かないの?」
「空挺騎士団に入ったらどうです? あ、ダメか……鎧がそのまま棺桶になってしまいますね」
「否定できない……その内運動しようかな」

 そんな雑談をしながら城の中庭……飛竜体験に向かっていた時だった。
 すれ違う他の見学者の中で一人ぽつんと窓際にもたれかかっている青年が居た。

 普段なら気にしないのだが、その表情に弥生がほんのわずかに違和感を覚える。
 金髪碧眼の見目麗しい男性、シャツとスラックスを着てただ人の流れに視線を向けていただけなのだが……弥生にはなぜかその眼差しが近所の公園でアリの巣に水を流して遊んでいた幼児と同じに見えた。

「ねえ、オルちゃん……」
「はい? どうしました弥生」

 メイドさんからいただいた某キャンディを加えながらオルトリンデが弥生を見上げる。

「ちょっと気になることが……あそこの、あれ?」

 一瞬、オルトリンデに視線を向けた後。窓際に居る男性に向き直ったのだが……そこには誰も立っていなかった。まるで幻だったかのように掻き消えてしまっている。

「なんです? 窓しかないじゃないですか」
「いや、その……今男の人がいた気がして」
「不死族の人じゃないですか? 窓すり抜けてショートカットしたとか」

 オルトリンデの指摘に、そういわれればそうかもしれない。
 弥生は納得してオルトリンデに謝罪する。
 きっとそうだ、お仕事か何かの途中だったのだろうと意識からその男性を締めだした。
 違和感を拭い切ることはできなかったがこれから体験する飛竜のイベントに弥生は意識を切り替える。







「なぁんか、妙な視線を感じたのは気のせいじゃなかったのか。どうしようかな……捕まえて遊ぶのもいいけど見逃そうかな。今日はやる事があるし……忙しいからなぁ。何人くらい死ぬかな、きちんと防腐処理してスペアを作っておかないと怖いけど。あんまり多くても捨てるだけだし、くひっ……いくつかは生かして玩具でもいいんだけどなぁ……贅沢に使い捨ての玩具で遊びたいなぁ、壊したいなぁ……なんで起きたらこんなに平和になっちゃってるんだろう、つまんないなぁ、面白くないなぁ」

 ぶつぶつと王城の屋根に空間転移して、男はつぶやく。
 左手の親指の爪をがりがりとかじり、にやにやした口元が血をにじませても……延々と破滅を紡ぐ言葉を繰り返していたのだった。

「あの女の子、壊したいなぁ。ペットにしてちょっとずつナイフで刺して、動けなくなってきたら犯して……傷を治してまた刺して、ふひっ」

 妄想の中で弥生をもてあそびながら……男はウェイランドの南区画。
 職人が工房を構える区域に指を向け、オーケストラを奏でるように軽やかに振った。

「寝起きだから細かく指示はしないよ。ちょっとした遊びだしね」

 その言葉を残して、男はまたどこかへ消えたのだった。
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