長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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そのころのエキドナさん 中編

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「ジェミニ、3カウントで僕が飛び降りる。その後はフォーメーションF・Fだ。良いね?」
「ぎゃうっ!!」

 飛来物の正体は分からないが相手から丸見えのままと言うのはどんなに戦力差があろうとも大変だ。
 風を切って右に左に身体を躍らせるジェミニ、元々人を乗せた上で戦いに臨む騎士団の飛竜だったのだ。引退したとはいえ昔取った杵柄は見事に相手の照準をかく乱している。

「誰だか知んないけど、僕に喧嘩を売るなんて大した自信だね!」

 けん制のために数発、木の葉のように揺れるジェミニの背から飛来物のあった方向へ射撃。
 当てようとは思っていない、もう少しでエキドナが飛び降りても問題ない高さになるので時間稼ぎだ。
 ついでに範囲がわかるなら詳しく探査もできる。

「一人か……ジェミニ、3」
「ぎゃう……」

 エキドナの髪を通り抜ける風の勢いが強くなり、ジェミニが速度を上げた。
 徐々に大きくなる広場を視界に収めながらエキドナが着地しやすい所に目をつけて、迂回するように滑空する。
 その軌道はエキドナからしても熟練の戦闘機を彷彿とさせていて、それまでジェミニがいかに弥生を乗せているときに気を使っているかを察した。

「いいねぇ、上手い位置取りだ。2」

 続くエキドナのカウントを聞き取り、ジェミニはさらに翼を畳んで加速する。
 ここから先のカウントは聞く必要はないと言わんばかりに、それまで回避に重きを置いていた飛び方から一気に速度を増していく。すでに景色は目を凝らさないと一瞬で流れて行ってしまうほどに。

「行くよ……! 1! ジェミニ! 上昇!!」

 ばっ!! とエキドナがジェミニの背から身を起こして風圧に身を任せる。
 高度は70メートル、両足のショックアブソーバーの耐圧限界ぎりぎりを攻めた降下だ。

 これには相手も驚いたのか、身を潜めていた茂みの中でこちらを凝視するのをエキドナのサーモカメラが動きで捉えた。
 どうやらかなりの距離があっても見えるくらい相手の眼は良いらしい。

「ははっ!! ノーロープバンジーは久々だねっ!!」

 長い金髪をたなびかせ、スカートを押さえもせずエキドナは銃を構えたまま迫る地面を見据える。
 ちょっとでもタイミングを間違えると脚がひしゃげる可能性もあったのでここは慎重に見極めなければいけなかった。
 そんなエキドナの心中を知ってか知らずか、相手は着地を邪魔するかのように石を投げつけてくる。
 今度はエキドナもその飛来物をきちんと把握しているが……ちょっと信じられなかった。

「マジで投石なんかで上空数百メートルを狙ってきてたのかい!? 常識外れだよ」

 茂みから姿を見せるのは男、それも何かの毛皮と草を身体に纏わせてその体格を隠している。
 それでも足を振り上げてまるで野球のピッチャーのように握りこぶし大の石らしきものをエキドナに向けて放とうとしていた。

「悪いけど、投げさせてあげれないよっ!!」

 自由落下する不安定な状態でもエキドナの照準は正確だ、一次照準から手のブレや風速、相手の動く速度を加味した予測照準を一瞬で終えてピンポイントで石を狙う。
 銃のハンマーを親指で上げてシングルアクションでさらに精度を上げて、躊躇いなく引き金を引いた。

 ――ダァン!!

 弥生が丹精込めて作り直した銃弾が風の音にも負けない破裂音をまき散らして突き進む。

「なっ!?」

 次の瞬間、手元で爆散する石。
 それを上半身にくまなく被弾した男から驚愕の声が上がった。

 ――ダンッ!! バシュゥゥゥゥウ!!

 同じタイミングでエキドナが広場へ着地、足の衝撃吸収用のアブソーバーに充填されてる液体が圧縮され、一気に気化しながら両足から吹き上げる。

「しまった!!」

 エキドナの行動に男が悔しそうに叫んだ。
 濛々と立ち込める白煙が広場を包み始める。男もなぜあんな見晴らしのいい場所に着地などを、と疑問に思っていたがエキドナの狙いが今となってはわかった。

 彼女は着地と同時にあちこち走り回り白煙を、目くらましをまき散らしている。
 なおかつ質が悪いのは上空に上昇した飛竜、ジェミニの起こした突風。それがかみ合って男の方へ白煙が向かって来ていた。

「ぐっ!!」

 さらに鼻を刺す刺激臭、たまらず男は白煙から逃れるように湖岸へ走り始める。
 
「逃がさないよっ!!」

 白煙を切り裂くようにエキドナが男に肉薄する。ここまではエキドナの想定内、刺激臭も視界不良もものともせず。右手を振りかぶり殴打する。
 虚を突いたエキドナの戦い方に対応しきれず、男は仕方なくその打撃を耐えようと脚を止めたが……。

 ――ごきんっ!!

「がっ!?」

 吸い込まれるようにエキドナの拳は男の左肩に命中し、鎖骨を含めて数本の骨を折り砕いた。
 しかもその威力に押されて無様に男は吹っ飛んでいく。

「よしっ、無力化できてるかな? 言葉は通じるかい? おねーさんの身体は特別製でねぇ、見た目に反して君の身体を素手でバラバラにできるんだぜぃ。逃げようったって、これがあるしねぇ」

 ――ダン!! 

 左手に持った銃で男の足元を撃つ。
 エキドナの脅しはそのまま事実でもある。

「くっ……殺せ」
「わぁお、リアルにそのセリフを聞いたのは実は初めてだったり。安心してよ、それは君しだいだ……薄い本に興味はないんだぜぃ」

 口元だけ笑い、エキドナは彼に宣告する。
 死ぬか生きるか。

「何なんだお前は……」

 飄々としているエキドナの態度に疑問を持ったのか、おとなしく男は無事な右手を上げる。
 降参の意思を示すしかないとあきらめたのだ。

「僕? 僕はエキドナ・アルカーノ。ここからずーっと北にあるウェイランドって言う国の住人さ……今絶賛家出中。君は? まさか僕にしゃべるだけしゃべらせて、自分はだんまりとか……おねーさんは悲しくてついつい君の左肩を蹴りたくなっちゃうよ?」
「しゃ、しゃべる! それは勘弁してくれ……」
「ふぅむ、じゃあちょっと待ってて。これあげる」

 ぽい、とエキドナがスカートのポケットから小さな錠剤が二粒入ったケースを男に投げ渡す。

「何だこれは」
「痛み止めさ、左肩痛いでしょ? 骨折れてるから」
「あ、ああ……ありがとう」

 四苦八苦して男はケースを開けてその錠剤を口に放り込むと、甘い清涼感のある香りが鼻を突き抜けた。薬と言う割にはおいしい。

「ジェミニ―!! 降りてきていいよ!! 制圧完了だ!!」

 そんな彼を視界の端において、エキドナはジェミニを呼ぶ。
 上空で旋回しながら動向を見守っていたジェミニがゆっくりとエキドナの隣に降りてくる。
 それを見て男は驚いた。

「……飼いならされているのか?」
「飼いならすって……まあ、気のいい旅仲間だよ」
「ぎゃう!?」

 ジェミニがおなかの辺りに括り付けてあるポシェットから黒板とチョークを取り出して反論する。
 強制的に巻き込んだだろうがぁ!? ときれいな字で猛抗議だ。

「字まで書けるのか……あ、すまない。私はヒューズ。パンデモニウム所属の魔族だ……」
「ぱん? え、君は魔族なの?」

 ばさり、とヒューズが頭にかぶっていたフードを取ると。
 そこには深い藍色をした角が髪の間から二本覗いている。それはどことなく、あの異常な青年の持っていた角と同じような光沢をもっていた。

「ああ、数少ない。純粋な、魔族だ」

 折れたはずの左手を動かし、角を撫でつける男の表情は笑っているようにも、泣いているようにもエキドナには見えた。
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