長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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閑話:氷と炎

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 薄暗い廊下を照らす紅い非常灯……何千年と放置されているがそれはあくまで人間『が』放置しているだけであって、完全保全を目的とした研究施設は主不在のままその機能を維持し続けていた。

 弥生達に合わせて言うのであればここは栃木県の真ん中辺りの地下、とある企業の研究施設だ。
 その機密の塊ともいえる場所に木霊する規則正しい靴音とほんの少し床を擦るような足音。

「随分手入れが行き届いてるな……」
「火災報知機でスプリンクラー作動したらどうするん? タバコ消してほしいわぁ」

 黒髪長身の女性がうんざりしたかのように黒髪の男性へ文句を言う、その女性は長い髪を後ろ手で一括りにして着崩したような着物を着ていた。腰には一振りの青い鞘に入った刀を下げている。
 その言葉に肩をすくめる都市迷彩柄の頑丈なBDU戦闘服に身を包む軍人風の男、文句を言われても煙草を消す気はなかった。

「安心しろよ氷雨ひさめ、さっきの守衛室で防衛機能関係と一緒に切っておいたし……ほれ、あそこ見てみろ」

 男は咥え煙草で廊下の天井付近を氷雨に見るよう促す、その先には丸い形の穴が等間隔に並んでいて男の紫煙をものすごい勢いで吸い込んでいた。その割には音がしないのはどういう仕組みなのか氷雨はさっぱりわからなかったが煙たさに困ることは無いなとちょっとほっとする。

「空調も生きとるんやなぁ……大したもんや。キズナやエキドナと合流したらここ拠点にしてもええんやない? ほむらもタバコ吸っとっても文句はいわれんやろ、これなら」
「たしかに運良く備蓄の食糧も大量にあるし……何より俺の吸ってる銘柄と同じタバコが一生吸いきれねぇほどに保管されてんのが最高だ」
「ほんに……いきなり走り始めた時は肝が冷えたんよ? セキュリティーぶっ壊して突き進むんやから」
「その価値はあった、後悔してねえな」
「それはバッテリー見つけてからほざいてや……いくら隠しとるって言っても早く戻るに越したことあらへんもの」
「わかってるって」

 現在二人はとある理由ではぐれた家族を探すため、愛車の住居兼戦闘用の装甲車のバッテリーを探しに来ていた。
 普段であればありふれたそのバッテリーは何処の街にも売っていて、なおかつ充電もできるのだが……約一年前。バッテリーを買うどころか充電すら容易にできない状況となる。
 それは戦闘中の事だった。うっかりミスで大量の追っ手に追いかけられている際崖から車ごとダイブするという死亡イベントに発展したのだが、谷底にあるよくわからない光の渦に飛び込んで二人は気を失った。

 気が付くと無傷の車と自分達が青々とした草原で爆睡しており、娘たち二人は行方知れずとなる。
 おそらく迎撃のために車の屋根に居たので放りされたのだろうと周辺を探すが見つからず、挙句の果てに狂暴化した動物に襲われ、崖から転落の際にもしつこく追ってきた自立型戦闘ロボットに鉢合わせて当てもない逃走劇を繰り広げていたのだ。

 そんなこんなで頼みの綱の車の燃料は底を尽いて、途方に暮れていたのだが親切な旅人にこの施設の存在を教えてもらい現在に至る。

「それにしても……まだ信じられへんわ。ウチらが生きてる時代から何千年と経っとるなんて」
「俺もだ、煙草のラベルについてる年代……俺たちが墓の下に入ってから作られてるぜ」
「頭がおかしくなりそうや、まあ追われんですむのはありがたい話やけどね」
「どっかにアーカイブ残ってたら俺たちどうなってんのか調べてみようぜ、悪人か善人か」
「興味あらへん、のんびりできるならそれでええもの」

 時折閉じられたドアのセンサーが二人の動きを検知して勝手に開いたりするが、全くの無警戒で焔と氷雨は進む。最初こそ何か出てくるかと警戒したが中に残っているのは生活用品の残骸と、長年の劣化で風化しかけた本や遺骨だけだった。
 警備システムでさえただただ赤色灯を回してアラームを鳴らすだけで、入り口横の警備室に落ちていた金属製のカードをスロットに通したら解除される程度のものである。

 それに……

「確かにな、銃をぶっ放す生活もそろそろ飽きてきた」
「せっかくやし料理とか本格的に覚えてみたいんやけど、どや?」
「いいんじゃねぇか? 俺もカフェでも開くかな……そういや最後に作ったのはキズナの5歳の誕生日だったっけかな」
「ええ考えやね。平和が一番や」

 のんびりとした会話の間も焔の左手は大口径の銃が吊るされている腰のホルスターに添えられ、氷雨の右手は腰に差した刀の柄に軽く乗せられている。
 キズナが見れば一目でわかる『両親の近づいたらぶっ殺す』スタンスだ。

 実際ドアが開かなかったり、カギがかけてある場合もあったが氷雨が刀で斬り飛ばす。焔が背中のバックに持ってきているプラスチック爆弾で吹き飛ばす……なのでほとんど障害なく施設内を探索しているわけだった。

「お、見ろよ。この先整備区域って書いてあるぜ……バッテリーか発電機でもありゃ良いんだがな」
「そうやね、エキドナと合流出来たらもう一回漁っても良いんやないの? ウチらじゃ何に使うかわからんようなのもあるやろうし」
「合流したらな。今は車が動かねぇとあのガラクタにいつ追いつかれてもおかしくない……」
「手持ちの銃弾もすくないんやろ?」
「ああ、そろそろ節約しねぇと……頼りにしてるぜ氷雨」
「任せとき」

 正直に言えばこの約一年でほとんどの物資は底を尽いた。
 焔は重火器、車は燃料、氷雨だけは基本的に刀で戦うのだが……実は家族一の大食漢で金目の物を食べ物と交換したので日用品を買うお金にも困る始末。

 幸い逃走生活が長かったので野生の動物を狩って食べることも出来るが、たまに煮ても焼いても食えない獲物も居たりで凄まじい腹の虫が響くこともある。

「とはいえ……ずいぶんと広いしなんでまた地下に作ったんだろうな? 民間だろうに」
「軍用品の部品でも作っとんやないの? カードに航空宇宙なにがしとかいてあったやん」
「幸運ついでに武器や弾薬も転がってねぇかな……飯はほら、ひもを引っ張るだけのめちゃ美味い保存食のコンテナがあったし」
「かつ丼だけやなくまさかウチの大好物、牛タンまであるなんて感動もんや……絶対回収するんやあのコンテナ全部」

 施設はシェルターのような役割もあったのか、滅菌して真空状態のコンテナに賞味期限無しのお弁当などが大量に残されていた。いずれもお湯を注ぐだけだったり、紐を引っ張るとお弁当の下部につけられた発熱パックが温めるだけと言うお手軽さで尚且つおいしい。

 難点はコンテナが大きくて二人ではどうしようもなかったことだけだ。
 それでも一つのコンテナには数万食が保管されており、数人であれば何十年かはそれだけで食い繋げそうだった。
 それが数十個、焔が煙草を見つけた倉庫に積み重なっている。

「俺もお前も先祖は日本人だったらしいけど……マジで食い物に対する執念の行きつく先を目の当たりにしたな……」
「晩酌には困らんわぁ」
「おっと?」
「なんやの?」

 いくつかの曲がり角を経て、整備区画の入り口らしき扉を真正面にした二人の眼にある物が鎮座していた。

「宇宙服……じゃねぇよな」

 焔が念の為と腰のホルスターから銃を抜く、氷雨はその背を守る様に背中合わせで背後を警戒する。
 
「これで自立型の警備ロボットとかだったら大した耐久性や」
「……まさかかもしれねぇからフラグ立てんな」

 とはいえその人型はぐったりと扉にもたれかかっている姿勢で微動だにしない、ゆっくりと数分かけて焔達は近づく。
 そして、十メートルほどの距離まで近づいた時。
 壁にある動体センサーが二人を検知して、扉の両側に備え付けられているライトがその正体を露わにした。

 その宇宙服のようなものに描かれている『災害』を表すマークを……

 
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