長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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悪意の再誕 ⑤

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「北の海にこの魔物のプラントがある?」

 オルトリンデが目を丸くして声を上げた。
 その事実は国防に関係するので捨て置けない事実だ。弥生の件が無ければ即座に調査隊を編成して探し出したい。

「と言っても深海6000mの深さだから見つけるのは難しいわよ」

 桜花が馬車の幌を針と糸で縫い合わせながら答える。
 今は北門の外でオルトリンデと糸子が調達してきた馬車を桜花が整備していた。

「6000mって……どれくらいの深さなんです?」
「人間が水圧でぺしゃんこになる深さ」
「なるほど……確かに難しいですね。またの機会にしましょうか」

 オルトリンデも腕組みをしながら桜花の様子を眺め、思考を切り替える。
 糸子とカタリナがキズナを連れて桜花の拠点に装備を取りに行っている間にミルテアリア方面の探索計画を練るのだ。

「そういえば貴方達、ミルテアリアでフィンと闘ったことがありますよね?」
「フィン? あー、あの褐色肌のエルフかしら?」
「やっぱり貴方達でしたか、エキドナが貴方達とあったら便宜を図ってほしいと言ってました……いきなりこんなことに巻き込んでしまい申し訳ありませんね」
「気にしなくていいわよ、弥生ちゃんを攫った連中は私の敵でもあるから」
「そう言ってもらえると助かります。しかし、なんで弥生を……」

 確かに異常なほど優秀だが弥生は極端に運動神経が無い、人懐っこくて優しい性格なだけの少女だ。
 どうせ狙うなら国のナンバー2であるオルトリンデの方がまだ理由がわかる。

「あー、アークの趣味嗜好に疑問を持っても無駄よ? あいつ人間を玩具か部品程度にしか認識して無いから弥生ちゃんはたまたま見た目か何かが気に入っただけって可能性も高いわ」
「真司の不幸体質は弥生譲りですか……あの子は妙なものに好かれやすいんですよ。飛竜とか蜘蛛とか妖怪とか……」
「まあ、それはともかく……厄介な奴に目をつけられたわね」
「どんな相手なんです?」
「一言で言えば理性がぶっ飛んだ英雄願望の塊、オブラートに包まないで言えば加虐趣味の快楽殺人者」
「…………どちらにせよ碌な相手ではありませんね。弥生がどんな目に合わされるか想像したくありません」

 時間がかかり過ぎれば弥生の命は無いだろう。それだけは確実になった。
 
「命だけならしばらく大丈夫よ、その前に散々遊びの相手をさせられて社会復帰できないレベルの傷を負うけどね」
「何の気休めにもなりません。交渉は?」
「無理、見つけ次第ぶっ殺すのが最良の選択よ……交渉の余地ありと思って私のお父様は殺されたわ」

 おそらく根深い因縁があっての桜花の言葉は重い。
 オルトリンデもその内容を深堀する気はなく、アークの対処方針を殺害一択に決定する。

「ん? 誰あれ」

 馬車で作業をしている桜花の視線の先に大柄の男性が居る、北門の衛兵に敬礼されている様子を見るに偉い人だというのは分かった。

「……ああ、うちの国のクロウ宰相ですよ。私の同僚でクワイエットの上司でもあります」
「ふうん、あ、こっちに来る」

 よく見れば服装もしっかりとした上等な仕立てのコートを羽織り、足取りも隙が無い。
 何より……。

「……(純粋な魔族?)」

 桜花の知っている魔族の特徴である金属質な角を持っていた。
 クロウはオルトリンデの姿を見つけて駆け寄る、その顔は苦渋に満ちており焦燥が滲んでいた。

「オルトリンデ、すまない……まさかクワイエットが」

 規律が厳しい隠密の中でも統括ギルドの警戒に当たる人材は身辺調査もしており、忠誠心、技量共に確かなエリートが選ばれている。それだけにクロウの気落ちした様子は鬼気迫るものがあった。
 そんな彼にオルトリンデは苦笑いを浮かべる。

「気にしないでください、私も迂闊でした。内通者の可能性を最初から排除してしまってたのですから……」

 実際は王城の一般開放で弥生が襲われた後、しばらくは内通者の可能性を考慮してオルトリンデは警戒していたのだが……あまりにもアークとの繋がりが無さ過ぎる事から、だいぶ前に警戒を解いていた。

「俺もだ……特にクワイエットは、いや。やめよう……暗部は正式にクワイエットを粛清対象に指定した。もう居ないだろうが東西南北の門に暗部の精鋭と近衛騎士団の混成部隊を常時配置する。必要な物資も提供させてくれ」
「ありがとうございます。このリストの人員で今回動いているので出入りに手間を取らせないように周知を頼みます」

 そう言ってオルトリンデが制服のポケットから数枚の羊皮紙を取り出す。そこには今回国外に出入りするキズナたちの特徴が記されていた。

「わかった、すぐに手配しよう……お前も動くのか?」
「当然です、私の部下ですよ」
「まったく……やり過ぎるなよ。こいつを持っていけ」
「……禁忌武装、良いんですか?」
「万が一用だ……昨晩の騒ぎは衛兵から報告が来ている。間違ってもウェイランドの近くでは使うな」
「もちろん、使わないで済むことを願います」

 クロウがオルトリンデに手渡したのは赤い宝石の装飾がついている一振りの手斧だ。
 それを見て桜花が口をはさむ。

「三世代型の魔力武装……良くそんなもの残ってたわね」

 その言葉にクロウが固まる。
 急いでいた為、桜花に注意を払ってなかったのだがその言葉を無視できなかった。

「なぜそれを……な、え?」
「うん?」

 クロウが馬車で幌のお裁縫をしている桜花を見た時、オルトリンデも見た事が無いような顔で混乱していた。
 それはまるで自分の幽霊でも見たかのような反応だった。
 
「ま、まさか零士様のご息女……?」
「お? おおお? もしかして私を知ってる???」

 クロウの反応から本当の意味で桜花を知っている人物だと思い、桜花が驚く。

「え、いやまさか! 本当に!?」
「はぁい、パンデモニウム艦長の娘でーす」
「……後でお話を聞かせていただいてもかまいませんか? いまはその、緊急事態なので」
「いいよ。弥生ちゃんを助けた後この武器についても聞きたいしね……今聞きたいのは他にいくつ保有しているの?」
「『剣』『拳銃』『戦車』を保管しています」
「ちょっと! クロウ!! それは機密で」

 さすがにオルトリンデが止めるが、クロウは構わず桜花にすべての情報を渡した。
 何せこの武器は桜花がアーク対策に開発したのだから。 

「良いんだオルトリンデ、元々この禁忌武装はこの桜花様の開発したものだ……持ち主と言っても良い」
「はあ!? 貴方何を言ってるんです?」
「後でお前にもちゃんと説明する。禁忌武装の扱いも彼女なら完璧だ」
「完璧って……ほんのちょっと扱いを間違えただけで山も吹っ飛ばすようなものですよ!?」

 納得がいかないオルトリンデだが桜花がひょい、と馬車から降りて手斧をひったくる。

「桜花!?」
「見てて」

 手際よく桜花が手斧のグリップをひねり赤い宝石を手で撫でる。
 すると淡い燐光が刃先に集まり光の刃ができ、その光は赤く染まって安定していた。

「はい?」

 その光景は何度かその手斧を使用したことのあるオルトリンデにとってはあり得ない現象だった。今まで使用する時はどうやってもその刃先から全身の魔力を吸い取って巨大な光の刃を飛ばすだけ……それが安定した状態のまま桜花の手に収まっている。

「元々こうやって第二の刃を作って切れ味を増すのが基本的な使い方だったり……何もしないで使うと無制限に魔力を吸ってただただぶっ放す欠陥武器なのよ、これ」

 不用意に使用した場合は自爆武器と言う仕様だとオルトリンデが理解した。
 それがわかってしまえばもはや禁忌武器ではない……おそらく残りのも同じように何らかの手順を踏めば便利な武器なのだろう。

「これ、使う条件は?」
「この赤いのが角の加工品だから基本的に誰でも使えるわよ。使用者限定なんて開発者として許せないもの」

 それを聞いてオルトリンデとクロウが頭を抱えた。
 使用方法がわからなくてとりあえず魔力を注ぎ込んだら一発で全身の魔力を吸い尽くされていたのだから。

「まあ、こうして使えば極端に硬い奴じゃない限り効果的よ? 軽いから持ち運びも便利だしね」
「じゃあ……使い方を教えてください。私が使います」

 思いもよらないところで戦力強化になった所で、丁度キズナたちも戻ってきた。
 微妙な表情を浮かべるオルトリンデが気になったようだが、時間が惜しいため特に触れられず出発となったのであった。

「はあ、弥生……無事でいて下さい。仕事がめちゃくちゃ増えました」

 馬の手綱を握るオルトリンデの胃がいろんな意味で締め付けられる。
 弥生の無事を願う理由が増えたオルトリンデだった。
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