長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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悪意の再誕 ⑥

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「ずいぶんと時間がかかったね? アルファが役に立たなかったのかな?」

 ミルテアリアの北にある古い坑道の入り口でアークがつまらなそうにリンゴを齧ってクワイエットたちを出迎える。大分時間があったのか何個ものリンゴの芯だけが周囲に散乱していた。

「いえ、思いのほかウェイランドの動きが速かったので迂回しました。アルファが相手の場所を感知できるようで助かりました」
「あ、そ……で?」
「はい、ウェイランドの秘書官。日下部弥生です……暴れるので薬で眠らせています」
「え? 本当に攫えたの??? 半分冗談だったのに!?」

 どうやら失敗すると思われていたらしく、クワイエットが一瞬だけ凄まじくやるせない表情となる。
 このせいで一生ウェイランドの怖い人たちに追われる立場になったのだが……。

「これで妹は解放してくれるんですよね?」
「妹? あ、あー……うん。まあ良いかな」

 歯切れの悪いアークの言葉にクワイエットの表情が険しくなる。

「なんてね、僕だって約束は守るんだよ? 君の妹さんは連れてって良いよ、出来れば君には失敗して僕の玩具になってもらいたかったけど……それ以上に面白い物を持ってきてくれたからね」
「なら、ここで主従関係は解消で良い訳だな……」
「うん、そうだね。とはいえここで僕と闘っても無駄死にだよ? それに……地下に僕の駒が配置されてるかもしれないしね」
「そんなことはしない、妹を連れて離れるまでの間は何もしないんだろうな?」

 アークは異常者ではあるが話自体は通じる。
 刺激さえしなければ安全とは言えなくても最低限の目的は達する事ができた。ならば弥生をあきらめて妹をクワイエットは選ぶ。
 
「いいよ、ぶっちゃけ興味が無いから好きにしなよ。僕はこの子で遊ぶからさ」

 そう言って麻袋に詰まった弥生を蹴る。
 結構な威力があったのか数メートル転がり、袋の口が開く。そこから覗くのは黒髪の少女……弥生だった。今の衝撃で口を切ったのか唇の端から赤い血が流れだしている。
 それを見て思わずクワイエットは飛び出しかけるが、ここで動いてアークの加虐思考にスイッチを入れる訳にはいかないと、ぐっとこらえて無表情を貫いた。

「うん、本物だね。前にさぁ……腹が立つことに替え玉なんてやってきたから。確認って大事だよね? ね?」

 その甲斐あってかアークはつまらなそうにクワイエットを一瞥して、アルファに弥生を連れて行けと命ずる。

「じゃあ、これっきりでお前との関係は終わりだ。妹を連れて出て行かせてもらう」
「はいはい~」

 クワイエットは洞窟から地下に入り、途中でアルファと離れて妹が監禁されている区画へ向かう。
 しばらく先にアルファと同じように機械を埋め込まれている女性が鉄格子の前で項垂れていた。

「アークから聞いているだろう? 俺の妹を連れていく、カギを外してくれ……」

 両目をくりぬかれてカメラのレンズを直接埋め込まれた彼女は胡乱気にうなづき、ひもで首に掛けていた鍵を使い扉の鍵を外す。

 それを確認してクワイエットが鉄格子のなかへ進むと、一人の女性が両手を縛られて横たわっていた。長い間の監禁で服は汚れ、少しやつれているがクワイエットが見間違う訳はない。
 
「カチュア……助けに来た。大丈夫かい?」
「にい……さん?」
「ああ、もう大丈夫だ。ベルトリアに戻ろう……」
「にいさん……」

 彼女は結婚式の翌日、クワイエットの友人と名乗る金髪の男性アークが家を訪ねてきて攫われた。幸いアークの狙いはクワイエットだったので言う事を聞かせるために捕まえられただけである。
 事情も分からず閉じ込められて、果物を毎日いくつか食事として放り込まれた。
 兄と接したのは最初に目が覚めた時だけ、この数か月は彼女から気力を奪うのに十分だった。

「さあ……行こう」

 碌に運動もできなかったのでカチュアの足は立つのも億劫なほどに筋力が衰えている。それを察したクワイエットがカチュアを抱きかかえて牢獄からでた。
 想像以上に軽い妹の身体を心配して、出来るだけ優しく歩く。そんな二人に弥生を運び終えたアルファが声をかけた。

「マスター、アーク様からこちらを渡すよう命じられました。餞別だそうです」

 彼女は手に袋を持っており、無表情でクワイエットへ差し出す。

「中身は?」
「お金だそうです。妹様へのイシャリョウ? と仰ってました」
「……開けて見てもらえるか?」
「はい」

 従順にクワイエットの頼みを聞いて、アルファが袋を開くと中にはお札や硬貨がぎっしり詰まっていた。但しアルファの知る国にこんな貨幣を使う所は無い、ただのお金だとその袋の中身をクワイエットに見せるが……クワイエットもわからなかった。
 それは当然で中身は日本円だったから、この世界では意味がない物である。

「どこの国のお金かわからんな……」
「危険はなさそうなのでどうぞお持ちください」
「…………適当に処分しておいてくれ。元気で、と言うのも変だが達者でな」
「はい、マスターも先に逝っていてください」
「うん?」

 ――ずぶり

 アルファはそのままお金のつまった袋から手を放し、無造作に太ももに装備しているナイフを鞘から出してクワイエットの喉元に突き入れた。
 カチュアを抱き上げるために両手を使っているクワイエットには避けようもなく、驚愕に目を見開いたままアルファの胡乱気な目を凝視する。喉元にこみあげる熱さと痛み、そんな兄の姿を目の当たりにしたカチュアの悲鳴。

「な、ぜ?」
「先ほどアーク様との契約を解除されましたのでマスターと私の主従権限が解除されました、なので私独自に行動しています。なぜあなたは五体満足なのですか? なぜあなたの妹は無事なのですか? なぜ私がこんな目に合ってるのに無事に解放されるのですか?」

 ここで初めてクワイエットは気づいた。
 アルファは感情を失ったのではなく……表現できなくなっただけだと。

 膝の力が抜けて妹と共に床に倒れたクワイエットが見た光景は、発狂する妹の泣き顔だった。

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