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奇跡のタイミング
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「げ……アルファ、なんでクワイエット君を殺しちゃうのさ? 気分が良いから恐ろしく珍しい事に、本当に解放してあげる予定だったのに」
いつまで経っても戻らないアルファとクワイエットたちに業を煮やして、アークが様子を見に来てみたらクワイエットが物言わぬ躯となって転がっていた。
誰が刺したかは一目瞭然でアルファが血のこびりついたナイフを持っている。
「なぜ私は解放されないのに彼は解放されるのですか?」
「そんなの当り前じゃないか、面白かったから」
「理解できません」
「あのね、そんな見た目でどうやって人里で暮らすのさ……無格好に半分だけ機械になった身で。まったく、失敗作の上に誤作動じゃあ救いようもないや。どうしようかなぁ……妹ちゃんは、気絶か」
兄の凄惨な姿を見て気絶したカチュアを見下ろして困り果てるアーク。
きちんと対価を払ったクワイエットは約束通り逃がさなければいけない。
「殺されるリスクを背負ってやり遂げたんだから、死を回避するご褒美があってもしかるべきだよね?」
そう言ってアークは黒いかけらをポケットから一つ取り出して、右手で砕く。
それは魔族の角であり強大な魔力を有する魔石でもあった。
「ま、ちょっと運が悪いと見た目が変わっちゃうけど……それくらいは勘弁してね?」
それだけに魔石の粉を吸い込んだり大量に使用して魔素に晒されると魔法の適性が無い者は適応できずに死亡する事もあるが……そこまではアークの頓着するラインではない。
「僕の角があれば無理やり適合させて治せるんだけど……なかなか見つからないんだよね。不便不便、と……ついでに妹ちゃんのここ数日の記憶を消して、と」
特に詠唱も無く、角を握りつぶして淡く光る右手をクワイエットの首の傷に添えると瞬く間に傷が消え。彼の胸が微かにだが呼吸に合わせて上下に動く、そのままアークはカチュアの頭に手を当てて……一瞬だけ明るく明滅した後、その表情が穏やかになる。
「ちょっと時間経ったからクワイエット君は目が覚めるまで時間がかかるかも……仕方ない。表まで運ぶかぁ……あ、アルファ。君は廃棄ね? 僕の命令無しに勝手に人間を殺したから」
「分かりました」
「じゃ、いままでごくろーさん」
気軽にアルファめがけてアークは手を振った。
残っていた魔力で薄い刃を手先に形成して、左わきから右肩にかけてアルファの身体に斜めの線が刻まれる。ずるり、とゆっくりとずれ落ちていくアルファの上半身……しかし、感情を表現する術のない彼女は不思議そうな眼差しでクワイエットだけを見ている。
まるで、なんで彼ばかり……と。
「あ……これにクワイエット君を運ばせればよかった……僕も抜けてるなぁ」
ぺしん、と自分の頭を叩いてクワイエットとカチュアの手を引きずり始める。
その顔は緩く殺人を犯した者には到底見えない、そのまま身なりを小綺麗な礼服でも着せればモテそうなものだが中身は醜悪だ。
「さて、どれくらいで踏み込んでくるかな?」
思ってもいなかった弥生の誘拐成功はアークとしては予定外で、いくらクワイエットがうまく弥生を連れてきても数日以内でここまでたどり着くのは容易に想像がつく。
「ま、ここのデータは向こうに移動したし……捨てちゃっても良いかな。それにしても……魔力武装の一つでも残ってたら面白いのに」
元々ここは研究所の跡地でアークがたまたま見つけた所だ。
何か使える物があればと地道に探したら、思いのほか大量の物資と生きているサーバーが見つかった。これ幸いにと残されたデータを見てみたら自分が生きていた時代の数世紀先の物で、自分は桜花に討伐されたと史実に残っている。
その際に使用された武器が保管されているとあったが……それは見つけられなかった。
代わりに見つけた物の方が有用なのでいろいろと遊んでたが、潮時だろう。
「……それにしてもクワイエット君はこのままだと殺されるのかな? まあ、別にそこまでしてあげる必要はないけど……生かしておいた方が面白いかもしれないしなぁ……」
せっかく治したのだから、出来れば生かしたい。
もしかしたらもっと楽しい事が起きるかもしれないし、と遊び心を出したアークがちょっとした茶番を目論む。
ばれたらばれたで構わないし、信じるほどに弥生達の陣営がのんきならば滑稽だ。
「よし、クワイエット君も僕の様にちやほやされておいで。もしまた歯向かってきた時に記憶を戻せるようにしておくからさ……面白いなぁ、おもちゃで遊ぶのは」
ゆがんだ笑みとこれから先の楽しみを優先させて歩くアーク。ポケットから再び魔石を取り出す。
手を離されて床に落ちるクワイエットに再びアークは魔石を壊して魔法をかけた。
「君は君に擬態した僕を追って単身弥生を助けに来たんだ。弥生ちゃんを探していたらたまたま君の妹を見つけて僕に倒された……うん、そんなシナリオで行こう」
それは奇跡的なタイミング、たまたま成功してしまったクワイエットの弥生誘拐計画。
そしてそれに気を良くしたアークの気まぐれとアルファの行動がかみ合い、その命と立場を拾ったクワイエット。
アークがカチュアへつじつま合わせの記憶消去を施した、その時である。
凄まじい轟音が地下まで響き、天井から砂簿折りが舞い散る中……アークが嗤う。
ようやく治った身体の慣らし運転の相手が来たと……。
「二、三人くらい間引いても良いかな」
いつまで経っても戻らないアルファとクワイエットたちに業を煮やして、アークが様子を見に来てみたらクワイエットが物言わぬ躯となって転がっていた。
誰が刺したかは一目瞭然でアルファが血のこびりついたナイフを持っている。
「なぜ私は解放されないのに彼は解放されるのですか?」
「そんなの当り前じゃないか、面白かったから」
「理解できません」
「あのね、そんな見た目でどうやって人里で暮らすのさ……無格好に半分だけ機械になった身で。まったく、失敗作の上に誤作動じゃあ救いようもないや。どうしようかなぁ……妹ちゃんは、気絶か」
兄の凄惨な姿を見て気絶したカチュアを見下ろして困り果てるアーク。
きちんと対価を払ったクワイエットは約束通り逃がさなければいけない。
「殺されるリスクを背負ってやり遂げたんだから、死を回避するご褒美があってもしかるべきだよね?」
そう言ってアークは黒いかけらをポケットから一つ取り出して、右手で砕く。
それは魔族の角であり強大な魔力を有する魔石でもあった。
「ま、ちょっと運が悪いと見た目が変わっちゃうけど……それくらいは勘弁してね?」
それだけに魔石の粉を吸い込んだり大量に使用して魔素に晒されると魔法の適性が無い者は適応できずに死亡する事もあるが……そこまではアークの頓着するラインではない。
「僕の角があれば無理やり適合させて治せるんだけど……なかなか見つからないんだよね。不便不便、と……ついでに妹ちゃんのここ数日の記憶を消して、と」
特に詠唱も無く、角を握りつぶして淡く光る右手をクワイエットの首の傷に添えると瞬く間に傷が消え。彼の胸が微かにだが呼吸に合わせて上下に動く、そのままアークはカチュアの頭に手を当てて……一瞬だけ明るく明滅した後、その表情が穏やかになる。
「ちょっと時間経ったからクワイエット君は目が覚めるまで時間がかかるかも……仕方ない。表まで運ぶかぁ……あ、アルファ。君は廃棄ね? 僕の命令無しに勝手に人間を殺したから」
「分かりました」
「じゃ、いままでごくろーさん」
気軽にアルファめがけてアークは手を振った。
残っていた魔力で薄い刃を手先に形成して、左わきから右肩にかけてアルファの身体に斜めの線が刻まれる。ずるり、とゆっくりとずれ落ちていくアルファの上半身……しかし、感情を表現する術のない彼女は不思議そうな眼差しでクワイエットだけを見ている。
まるで、なんで彼ばかり……と。
「あ……これにクワイエット君を運ばせればよかった……僕も抜けてるなぁ」
ぺしん、と自分の頭を叩いてクワイエットとカチュアの手を引きずり始める。
その顔は緩く殺人を犯した者には到底見えない、そのまま身なりを小綺麗な礼服でも着せればモテそうなものだが中身は醜悪だ。
「さて、どれくらいで踏み込んでくるかな?」
思ってもいなかった弥生の誘拐成功はアークとしては予定外で、いくらクワイエットがうまく弥生を連れてきても数日以内でここまでたどり着くのは容易に想像がつく。
「ま、ここのデータは向こうに移動したし……捨てちゃっても良いかな。それにしても……魔力武装の一つでも残ってたら面白いのに」
元々ここは研究所の跡地でアークがたまたま見つけた所だ。
何か使える物があればと地道に探したら、思いのほか大量の物資と生きているサーバーが見つかった。これ幸いにと残されたデータを見てみたら自分が生きていた時代の数世紀先の物で、自分は桜花に討伐されたと史実に残っている。
その際に使用された武器が保管されているとあったが……それは見つけられなかった。
代わりに見つけた物の方が有用なのでいろいろと遊んでたが、潮時だろう。
「……それにしてもクワイエット君はこのままだと殺されるのかな? まあ、別にそこまでしてあげる必要はないけど……生かしておいた方が面白いかもしれないしなぁ……」
せっかく治したのだから、出来れば生かしたい。
もしかしたらもっと楽しい事が起きるかもしれないし、と遊び心を出したアークがちょっとした茶番を目論む。
ばれたらばれたで構わないし、信じるほどに弥生達の陣営がのんきならば滑稽だ。
「よし、クワイエット君も僕の様にちやほやされておいで。もしまた歯向かってきた時に記憶を戻せるようにしておくからさ……面白いなぁ、おもちゃで遊ぶのは」
ゆがんだ笑みとこれから先の楽しみを優先させて歩くアーク。ポケットから再び魔石を取り出す。
手を離されて床に落ちるクワイエットに再びアークは魔石を壊して魔法をかけた。
「君は君に擬態した僕を追って単身弥生を助けに来たんだ。弥生ちゃんを探していたらたまたま君の妹を見つけて僕に倒された……うん、そんなシナリオで行こう」
それは奇跡的なタイミング、たまたま成功してしまったクワイエットの弥生誘拐計画。
そしてそれに気を良くしたアークの気まぐれとアルファの行動がかみ合い、その命と立場を拾ったクワイエット。
アークがカチュアへつじつま合わせの記憶消去を施した、その時である。
凄まじい轟音が地下まで響き、天井から砂簿折りが舞い散る中……アークが嗤う。
ようやく治った身体の慣らし運転の相手が来たと……。
「二、三人くらい間引いても良いかな」
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