長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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第三フェーズ ④ 決断

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 無理だ。
 わかっていた。

 逃げるだけなら……最大で9割以上の国民が逃げられる。
 12%の確率で。

 秘書部を総動員して、自分が指揮をすれば……
 



 秘書部と指揮所にいる人員の全滅の代わりに、助かる。





 でも、引き付けるだけ引き付けて……その人員を犠牲にすれば……
 それ以外の人だけは。

 
 全員、助かる確率が高かった。
 時間が稼げれば稼げるほど……トンネルの奥まで進んだ彼らを追撃するのは小型のディーヴァのみ。
 近衛騎士で防げることを第一フェーズで確認した実績で……それは確実ともいえるレベルになった。


「なんで……」


 指揮所は沈黙と嗚咽が支配していた。


「絶対、だめだよって……やらないって……言ったのに!」

 涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃになり、視界が歪み、メモ書きにはいくつもの水滴の後が増える。

「友達……じゃん、一緒に、クッキー作るって……言ったじゃん!!」

 震える声で、何度も何度もその名を呼ぶ。
 
「キズナ……キズナぁ!」

 それ以上の案を、どうやっても出せなかった。
 だからこそ……ずっと胸は締め付けられ……声を出す時も震え、無理やり上手く行くと言い聞かせていたのに。

 それを知って、彼女はずっと自分を助けてくれていた。
 笑って、失敗したら一緒に土下座でもしようぜ。と。

 だから……

「最後まで、一緒にやろうぜ……言ったのキズナじゃんかぁ!!」

 こんな勝手に、決めたら……

「私じゃ……追いつけないよぉ!」

 紙装甲、紙体力、地味さが売りの裏方。
 戦局をひっくり返せる魔法は無い。
 戦局を覆せる戦闘技能など無い。
 戦局を打開する知識など…………



 なかった。



 ――ピーッ、ピーッ。

 鳴り響く端末をやっとの思いで通話ボタンを押す弥生。

『嬢ちゃん、すまん……』

 いつものはきはきとした洞爺の声が、ひどく弱く、遠くに聞こえる。

「ばがぁ……おじいちゃんのばかぁ……キズナが、キズナがぁ……」
『すまん……』

 止められないだろうと思った。
 あの親友は、止まる気が無いのだ。

 向こう見ずで、無鉄砲で、実は一番優しいのだから。

「弥生、監理官……」

 指揮を補佐してくれる一級書記官が、どうしたらいいのかわからず控えめに声をかける。

「だい、じょうぶ……」

 ずびび、と鼻をすすりあげ……袖で涙をぬぐい……弥生は顔を上げる。

『嬢ちゃん……』

 数回、息を整えて……周りを見渡す。
 ここに残ってくれたベテランの書記官や騎士団の裏方をする人員……

 そして、今も避難を続ける民間人。


「今から、いう事を……守ってください」


 たどたどしく。


「絶対に」


 力強く。


「死なないで」


 ――それでいい。
 ここには居ない親友なら、そういうだろう。

「これから無茶をします」

 その一言に指揮所にざわめきが戻る。
 その中で、丁寧に、根気強く、わかりやすく……彼女の言葉は……

 今までで一番力強かった。



◇◆―――◇◆―――◇◆―――◇◆


 いまだ黒煙が立ち上る荒野を二人の戦士が疾走する。
 眼前に広がる物言わぬ人形兵が一斉に銃を構える中、口元でガムを膨らませて。

「行くよ、姉さん」
「へへ、久しぶりだねこんなバカみたいな突撃」
「良かったんだよ? 残って」
「それこそ氷雨と焔にどやされるよ……それに」
「それに?」
「最後まで一緒に付き合いたいじゃないか……家族だもん」

 にへら、とエキドナの緩んだ顔を見てキズナが笑う。
 ここから先は片道切符、それを知ってて決めた物の……なぜか二人の心は穏やかだった。

「ありがとう」
「うん」

 道中で拾った近衛騎士団の盾を両手で構えてエキドナがキズナの正面に回る。
 
「来るよ!!」

 エキドナの身体に備えられたセンサーが敵のFCS(射撃統制システム)の照射を感知。
 即座に自動小銃から放たれる弾丸が二人に向けて殺到した。

 秒間何百発にも及ぶ鉄の雨に、盾から悲鳴が上がる。
 エキドナの腕には折り重なる衝撃が絶え間なく伝わり、関節のロック機構を無理やりかけて盾の保持を最優先する。
 そんな中でも……

「カウント!!」

 キズナが弾丸の雨の途切れるタイミングをエキドナに要求した。

「3! 2! 1! GO!!」

 着弾の回数をエキドナは正確に把握し、弾倉交換のタイミングを計る。
 それでもすべての銃が同じタイミングで弾切れになるとは限らない。

 それを知ってて、なお。
 
「はっはぁ!! 遊びに来たぜ木偶人形!!」

 エキドナの背を蹴り、キズナは無数に広がる黒い人形の中へと飛び込んだ。

 ――ビスッ!!

 数発のそれた弾丸がキズナの頬を、腕を、太ももを掠るがそんなことはどうでもいい。
 キズナの眼には獲物しか映らない。

 真正面のディーヴァの頭に小太刀を突き入れ、近くにいる他の個体へ弾丸をお返しする。
 すぐにキズナを補足し一体のディーヴァが手の甲から刃物を出して突き入れようとするが……

「おおおおおお!」

 力いっぱい盾を横薙ぎに振り放つエキドナの一撃でぐしゃりと潰される。
 すでにエキドナは後先考えず全身の出力をリミッター限界まで介抱しており、盾の質量も相まって人型の圧搾機と変わらなかった。

 そうしてできた隙間にキズナは身をもぐりこませ、小太刀を振るい足を、腕を、首を次々と斬り飛ばしていく。

「姉さん! リロード!!」

 圧倒的な速度で放たれる拳銃の速射でスライドが開いたまま止まる、その瞬間に合わせてキズナは空になった弾倉をリリースボタンで破棄、即座にエキドナがそこへ新しい弾倉を叩き込む。

 その一瞬の隙もエキドナが持つ盾は守り切り、力任せにディーヴァを殴り倒していった。

「たっぷり持ってきたから派手にやって良いからね! キズナ!」
「もちろん! どうせパパとママもたっぷり持ってくるからね!」

 銃口を突き付けられてもキズナの笑みは変わらない、垂直に蹴り上げた足の裏で銃口を蹴り上げ。エキドナの背後から迫るディーヴァへ背を逸らしながら発砲。
 
 互いが互いの死角をカバーして一気に敵の隊列を崩しにかかる。
 
「お前らの相手は慣れてんだよ!!」

 三百六十度がディーヴァに囲まれると、途端に発砲が止まった。

「重火器の威力が強すぎて同士討ち、やってくれていいんだよ!! はっはー!」

 そう、ディーヴァの持つ自動小銃は基本的に徹甲弾で貫通性能が高い。
 それを逆手にとって敵が多い時のキズナたちの基本戦法は『飛び込む』なのだ。

 捕まれたり殴られたり、斬られたりと言ったリスクは上がるが身のこなしが軽いキズナと数回程度殴られたり斬られてもビクともしないエキドナの二人ならそっちの方が生存率は高かった。

「ほらほら! こっちに的があるぜ!!」

 キズナが宙を舞う戦闘機『ベルファゴール』に銃を向け、数発発砲。
 カンカンカン! と小さな傷をつけるだけなのだが……

 ――キィィィン!! 

 歩兵掃討用のガトリングガンが回転し始め、キズナとエキドナに向けて一斉掃射し始める。

「入って!」

 背中に盾を背負う形にしてエキドナがキズナを迎い入れた。その次の瞬間には自動小銃など比較にならないほどの弾丸が降り注ぎ、盾を面で叩く。

「すごいすごい、レンの鱗……全然硬いじゃないか!」
「びっくりだよ。爆弾でも防げるんじゃない?」

 二十秒ほどすると、弾倉を入れ替えるのか銃撃が止まり。再びキズナとエキドナは周りのディーヴァに攻撃を加える。
 上手く流れ弾を作り、フレンドリーファイアとなったガトリングガンの攻撃でさらにディーヴァの減る速度は上がった。

 それを狙っていたキズナが再度、音が切れたタイミングで盾から飛び出すが……

 ――ずぶり

 運悪く破壊されたディーヴァの破片が地面をはねて……彼女の青い瞳を貫いた。

「!!??」

 反射的にナイフ程度の大きさの欠片をとっさに引き抜くが……

「キズナ!!」

 エキドナの見た彼女の顔は……

「鎮痛剤!」

 深く傷ついて左目が見えないだろうという事は即座に把握でき、エキドナは腰のポーチから注射器に入った鎮痛剤を彼女に手渡す。

「くそっ、ついてねぇ!」

 腕に巻いたバンダナを手早く顔に巻きなおし、痛みをこらえながら受け取った注射を首に差す。
 一気に中身を押し込んで、くらくらする視界を何とか気合で整えるころには……

「ちょうどいいハンデだ! まだまだ行くぞ!!」

 吠えるキズナの動きは元通り、いや、それ以上にディーヴァの撃破の速度を上げる。
 
「西へ! FCSが僕らをロックしている!」

 キズナの負傷をカバーするべくエキドナも盾を一枚捨て、大口径の銃を構えて叫ぶ。

「うん! さあ追いかけっこだ! しっかり俺たちを殺しに来い!!」

 それは小さな暴風かもしれなかった。
 それでも、確実に何機もの大型戦闘機は……。


 西へ、キズナとエキドナの巻き起こす暴風に巻き込まれていくのであった。

 
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