長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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あふたーあふたー

閑話:洞爺の刀 後編 ~ 連鎖は止まらない ~

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 砕け散る外壁、飛び交う弾丸……そしてその狭間に引かれる漆黒の一閃。
 夕暮れ時が近い、いわゆる逢魔が時の頃……ウェイランドの北区はまた戦場になっちゃった。

「きゅっぇええええええ!」

 もう意味とか絶対ないだろうそれ、と言った奇声を発して洞爺が刀を振るう。
 まるでバターのように建物の壁を斬り、その先にいるカタリナの首を狙わんと弧を描き迫った。

「おおおおお!」

 触れればその首を落とされる刀の横腹を、カタリナは両こぶしで挟み込むように殴り止める。
 すでにメイド服はボロボロに斬り刻まれてその下の対刃素材のインナーすらも裂けていた。

「きゅろろっろ!!!」

 がきん! と止められた刃を洞爺は力任せに振り抜こうと脚を踏ん張るが……カタリナの全力はその勢いを許さない。
 その瞬間、洞爺は即座にその身を浮かせ刀が固定されているのを良い事に両手を支点として両足を振り回す。

 ――ガツン!!

 両腕を封じられているカタリナの角に洞爺の蹴りが連続で襲い掛かった
 凄まじい衝撃を続けざまに受けた角よりも、カタリナの脳が揺さぶられて一瞬思考が止まる。

「きゅららあらら!!」

 当然その隙を洞爺と言うかもう……うん、なんかホラー映画の怨霊みたいになっちゃった闇洞爺は見逃さない。
 カタリナの拳による拘束が緩んだ刀で頭のてっぺんから股下まで両断する勢いで振り下ろしてきた。

「させません!」

 戦闘用のグルカナイフを叩きつけるようにスロウスが割り込む。
 カタリナほどではないが、渾身の力を込めたその一撃は刀の軌道を何とかカタリナから逸らした。
 それでも洞爺は止まらない、右手を刀から離してスロウスのナイフを素手でつかむ。

「なっ!?」

 普段から手入れを欠かしていない刃を無造作に握る洞爺に驚きを隠せない彼女に、洞爺は耳まで避けるような不気味な笑みを浮かべながら……

 ――ばきんっ!!

 握りつぶす。

「このっ!」

 とっさにグルカナイフを手放し、腰の銃を洞爺に向けて発砲した。
 すでに遠慮とか手加減とかは頭にない。

 ――タタタンッ!!

 速射で洞爺の胴体を狙うが……

 ――ビスビスビス!!

 その鍛え抜かれた腹筋で弾丸が止まる。

「きゅっきゅっきゅ!!」
「き、気持ち悪いですっ!」
「伏せろ! スロウス!」

 洞爺に恐怖感すら感じ始めたスロウスがカタリナの指示にしゃがみ込む、その金髪を数本巻き込んでカタリナの手刀が洞爺の胸元に叩き込まれた。

「きゅぷろ!?」

 みしみしとカタリナの手に伝わる分厚いゴム板のような感触。
 それを物ともせず無理やり彼女は降り抜く。

「ふっ……とべっ!」

 気合いを込めて洞爺を弾き飛ばすが洞爺の不気味な表情は変わらないまま、真横に吹っ飛んで建物に激突する。

「ぎゅぷろけ!」

 凄まじい激突音と共に壁のレンガにひびが入るが、まだまだ洞爺は元気そうだった。
 即座に刀を壁に突き立てさらに崩そうと試みる。

「いかん! スロウス! 蜘蛛の皆様! 退路を塞ぎ……」

 その意図に気づいたカタリナだが、洞爺の方が早い。
 頭上に張り巡らされた糸の包囲網を避けるように跳躍する、その速さにスロウスも反応できないでいたが……

「すみません! 洞爺さん!」

 ――めきぃ!!

 建物の屋上から妻である楓が洞爺の顔面を踏み抜きながら落下する。
 非常事態の内容を聞いて、駆け付けたのだ。

 さすがに不意を突かれ、洞爺がなすすべなく地面に叩きつけられた。

「楓様、いいタイミングです……申し訳ありませんが洞爺様が」
「はい……聞いてます」

 すとん、と一回転してカタリナの隣に着地した楓の表情は暗い。

「解決策も聞いてきました……後でちょっと協力をお願いできますか? カタリナさん」
「もちろんでございます」
「隊長! 洞爺さんが!!」

 この状況を打開する方法を得てきた楓の話を聞く前に、洞爺は早くも復活して逆ブリッジでカサコソと周囲を這いずり始めた。

「……気持ち悪いですね」
「ああ、なんか服装も相まって……」
「夫が申し訳ありません……」

 どうやら建物の上にいる蜘蛛さんがさらに糸を張り巡らせ始めたようで、洞爺もどんどん逃げ道が狭まっていることを察したようだ。

「で、どうします?」
「ええと……まあ、これで終わると思うんですがちょっと恥ずかしいので向こうを向いてていただけると……」

 つい、と明後日の方向を指さす楓にカタリナとスロウスが首を傾げる。
 顔にはでかでかと『?』が浮かぶ。

「後で説明しますので……お願いします」

 なんだか顔が真っ赤になった楓の様子に合点は行かないが、この事態を収められるのであればと二人で大人しくそっぽを向いた。

「ありがとうございます。洞爺さーん、遊ぶのはおしまいですよー」

 たんっと軽い音を立てて楓が洞爺に接敵する。
 いまだに良く分からない奇声を発する洞爺の顔をむんずとつかむと……容赦なくキスをした。
 次の瞬間……

 ――アアアアアアア! ニクラシイ! リアジュウシスベシジヒハナシ!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?

 刀から響く悲鳴が金切声のように周囲に木霊する。

「ぷはっ! これでどうです!?」

 屋外でキスをするというなかなかに羞恥心を刺激される解決方法だったが、効果はてきめんで洞爺の手から刀が零れ落ち……からん、と地面に落ちた。
 当の本人はと言うと白目をむいて気絶中……。

「も、もう良いですよ!」

 楓が振り返るとカタリナとスロウスは実に良い物を見た、とにやにやしていた。
 
「にゃっ!?」

 洞爺の胸ぐらをつかんだまま、楓の顔が真っ赤に染まる。 

「なるほど、良い物を見せていただきました」
「愛の力ですね! 捗ります!」

 ここにも腐った人が居ます、お巡りさん。

「なんで見るんですか!! 向こう見ててくださいって言ったじゃないですか!!」
「いやあ、気になりまして」
「ささ、もう一発……まだ目覚めの儀式が……あれ?」

 抗議の声を上げる楓の足元の刀が、なんだか震えている。
 それに気づいたスロウスは楓に離れるように進言しようとしたが、遅かった。

「もう、こんな刀が悪いんです!」

 むんず。

「「あ」」

 なぜか嫌な予感のするカタリナとスロウスの声が重なる。
 とさり、と崩れ落ちる洞爺の横で……楓は……

「…………は、…………のため」
「た、隊長……」
「ス、スロウス……」

 ぐりん、と髪を振り乱して振り向いた楓の眼は………

「きゅけ?」

 真っ赤だった。

 それから実に三日間、ウェイランドの眠れぬ夜は続いた。
 その被害はまさかのアーク襲来以上の物理的被害と……特定の人物たちへの心の傷を残して……。

 今、その刀は『封印』のシールが張られたまま監理官補佐のロッカーに収められている。

 To Be ……???
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