家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈

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(18)俺が笑っているのか?

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 僕が座ると、ギーズも座ってテーブルに置いた大きな袋からいろいろ取り出し始めた。
 特に特色のない文房具だ。ペンとか、インクとか、メモ用の手帳や未使用のノートもある。でもどこかで見たことがあるような、思わず手に取りたくなるような好ましさがあると言うか……。

 いや、これ、僕の机の中にあったものだ。
 慌ててギーズに目を向けると、別の袋から小さな小箱を取り出して僕の前に置いた。

「今日、ノーラから俺の職場に届いた。とりあえず持ち出せた分だけだそうだ。明日以降も機会があれば少しずつ持ち出すと言っていた」

「そうか。それはありがたいな」

 僕は小箱も開けた。
 中にあるのは、小さな襟飾りだ。
 ああ、懐かしいな。
 これは僕が王宮に初めて上がった時に使ったものだ。屋敷に商人を呼んで、たくさん並んでいた中から父上が直接選んでくれた。
 子供用だから宝石も小さいけど、売ればそれなりの金額になるはずだ。

「よかった。これで生活費の足しになる」

 そうつぶやいたら、ギーズが愕然とした顔で立ち上がった。
 どうしたのかと見上げると、ひどく青ざめていた。

「……セレン、この家は居心地が悪いか?」

「大丈夫? 顔色が……え? いや、とても快適だよ」

「では、やはりベッドが臭かったか?」

「別に何も変な臭いはなかったけど。でも、昨夜は心地よく眠れたから、君の匂いのおかげかもしれない。うん、そう言えば昔の夢を見た気がする」

 そうだ。
 僕が一番幸せだった頃の夢を見ていた。

 伯爵家の敷地の隅にある離れ小屋で、リザとミアと、それにギーズと一緒にくっついて眠っていた。
 いつも誰かの体温を感じていて、でも寒くて目が覚める時はミアに布団を取られていた。
 小さな菜園の向こうには背の高い木が並んでいて、その隙間から大きな屋敷が見えていた。でもその美しい屋敷に縁があるとは思わなくて、ミアと一緒に雑草を抜いて、ギーズが運んできてくれたバケツから水をくんで野菜の周りにかけていた。

 早く終わらせないと、リザ母さんにさぼって遊んでいたことがばれてしまう。そう思って急いで水をくもうとしているのに、手の力がミアより弱かった僕は、お椀に少しずつしかくめなくて。
 泣きそうになっていたら、ギーズが僕がちょっとだけ水をかけた場所にたっぷりと水をかけてくれたんだった。

 昨夜の夢の中では、どうだっただろうか。
 寝起きが悪くなかったから、夢の中でも手伝ってくれたはずだ。

 久しぶりに見たな。
 きっとギーズの匂いがどこかに残っていたからだろう。


 僕が懐かしく思っていると、ギーズが顔を逸らして座った。口元に手を当てていて、壁を睨む目は何故か落ち着かない様子だった。
 何に動揺しているのだろう。
 そう首を傾げ、僕は気付いてしまった。
 ギーズは笑っている。落ち着かない様子なのに、なんだか優しい表情になっていた。

「ギーズ、笑っている?」

「……俺が笑っているのか?」

「笑っているよ」

「そうか。……いや、お前の表情が和らいでいるから。最近のお前は、笑っていても張り付いたような顔だったから」

 ……そうかな。
 うん、そうかもしれない。
 貴族として生きていこうとしていたから、気が抜けなかった。
 でも。
 なぜそんなことを知っているんだろう。ギーズとは長く会っていなかったはずなんだけど。
 そう思っていたら、ギーズは急に慌てた。

「いや、すまない。時々、様子を見に行っていたんだ。お袋が気にかけていて……いや、俺も気になっていたからなんだが」

 ああ、なるほど。リザに頼まれていたんだ。

「そういえば、いつも手紙で本を読んでばかりはダメだと書いていたな。もしかして、何か伝えていた?」

「…………まあ、多少は」

 迫力のある顔を、気まずそうに逸らしている。
 隠し事がばれた時、ギーズがこういう顔をしていたのをよく見ていた。
 大きな体を縮めているのも、なんだか昔を思い出してしまう。

 うん、別に悪い気はしない。
 リザは僕の母親代わりで、図書院の書庫にこもりっきりだったのは事実だ。二十歳になってもまだ「本に熱中してばかりいないで、食事はきちんと取れ」と手紙で叱られて、それが図星で慌てたことが何度あったことか。
 そんな心配をしてくれて、きっちり叱ってくれるのは、リザだけだ。

「……いや、ギーズもいたな」

「ん?」

「リザ以外に、ギーズも僕を叱ってくれるなと思って」

「そんなに俺は叱ってばかりだったか?」

「叱ってくれるけど、甘えさせてくれるよね。こうして、匿ってくれているし」

 僕がそういうと、ギーズは顔を上げた。

「……俺は」

 小さくつぶやく。
 でも、首を振って口を閉じ、短い髪を乱暴に掻き乱してから立ち上がった。

「今日は早く帰れたから、これから飯を作る。お前はテーブルの上を片付けておいてくれ」

「え、ギーズは料理ができるの?」

「お前の家の料理人のようなものは期待するな。お袋が作っていた程度になるぞ」

「十分だよ! あ、これ、どこに置けばいいかな」

「俺の部屋に運んでおけ。あの部屋はしばらくお前に使ってもらうから」

「え、でも」

「すぐにできるから、さっさと片付けろよ」

 それだけ言って、ギーズはもう歩き出す。
 歩きながら騎士団のマントを外し、剣を外し、制服の上着を脱いでシャツ姿になる。それらを部屋の隅にあったカゴに乱暴に放り込み、台所へと消えてしまった。

 仕方なく、僕は片付けを始めた。
 ギーズが本当にリザの手料理を習得しているのなら、急がなければならない。リザは「簡単にできるごはん」を作るのに長けていたから。
 僕の片付け速度では、本当に間に合わなくなりそうだ。
 ペンやノートを集めようとして、両手が塞がってはドアが開けられないと気付いて、慌ててギーズの部屋の扉を開けに行った。

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