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(幕間)黒狼騎士団の面々 2
しおりを挟む「副団長! 注文していた矢の件ですが、やっと数が揃ったから、検品をしてから明日納入すると連絡が…………えっ?」
ノックと同時に黒狼騎士団の団長室に入ったクロンは、手に持っていた書類から顔を上げた途端に硬直した。
団長室にある執務机の向こうに、クロンが期待した人物はいなかった。
それどころか、また予想外の人が座っている。
「……なぜ、また団長がいるんですか?」
「ははは。相変わらずクロン君は面白いことを言うね。私が騎士団長だから当たり前なのに」
美しいプラチナブロンドをかき上げ、団長アロイスが微笑む。
決して女性的ではなく、それどころか男性的な凛々しさを持っているのに、アロイスの顔は相変わらず凶暴なくらいに美しい。
また見惚れてしまったクロンは、慌てて目を逸らした。
そして、この部屋のさらなる異常に気がついた。
今日はおかしい。黒狼騎士団の団長室なのに、副団長ギーズがいない。
その上、あの人もいない。
アロイス団長を操縦できる数少ない人物として騎士団中の尊敬を集めているロベルト副官がいないなんて、どうなっているんだっ!
「ロベルト殿がいないなんて……ま、まさか、団長はついにロベルト殿にまで手を出そうとしたんですかっ!」
「面白い説だけど、なぜロベルト君がいないことが、手を出そうとしたと言う推論に結びつくのかな?」
「だって、団長がいるのにロベルト殿がいないなんて、愛想を尽かされたからに決まっているじゃないですか! どうするんですか! ギーズ副団長もあの人もいなくなったら、うちの騎士団は立ち行かなくなりますよ!」
「いやいや、私がいるじゃないか」
「団長は何もできないじゃないですか! そりゃあ、その顔だけで予算をがっぽり持ってきてくれる優秀な人だとは思いますけど!」
「うーん、やっぱりクロン君は失礼で面白いなぁ。でも、残念ながらロベルト君を口説いたことはないよ。彼は愛妻家だし、ああ言うタイプは好みでもない。どちらかといえば、君のような……いや、それはまあいいとして」
アロイスは曖昧に笑いながら口を閉じ、それから急に真面目な顔をした。
「ロベルト君は、うちの騎士団に無理な要請をしてきたバカに殴り込みをかけに行っただけだよ。私が行くと言ったんだけどね。喧嘩になったら王国が割れるとか言って、行かせてくれなかったんだよ」
「……あの、その相手とは……いや、やっぱり聞きたくないです!」
「うん、実は王弟なんだよ。あいつ、本当に馬鹿だよね。黒狼騎士団はあいつの引き立て役じゃないってわかってないんだよ。あんなだから女性にモテないんだよね」
アロイスは真面目にそう言って、ふわりと微笑んだ。
いつもの笑顔とは違う、上品で気高くて、彼の生まれに相応しい微笑みで……クロン青年は必死に目を背けていた。
「俺は何も聞いていません。ええ、絶対に聞いていませんから。覇権争いは下々には無縁ですから!」
「覇権争いじゃないよ。ただの親戚同士の喧嘩だよ」
アロイスは艶然と微笑んだ。
その余りの迫力と美しさと恐ろしさに、クロン青年はごくりと唾を飲んだ。
もう、怯えているのか、見惚れているのか、わからない。
ただ一つ明らかなことは……ギーズがいないからここには用がないと言うことだ。
「えっと、ギーズ副団長がいないようなので、俺は失礼しま……」
「待ちたまえ。ちょっとこっちに来なさい。団長命令だ」
くるりと背を向けようとしたのに、アロイス団長に先を越された。
微笑みながら命じられ、クロンはびしりと姿勢を正してから冷や汗をかいた。それでも団長命令となれば断ることはできないから、手招きに応じて机の前に立つ。
「そこではなくて、こちらへ」
さらに命じられて、仕方なく机を回って、アロイス団長の横に立った。
ロベルト副官がいる位置だな、と思った瞬間。
いつの間にか立っていたアロイスに顎を掴まれていた。
「……えっ?!」
「クロン君は、何か知っているだろう?」
「な、何のことでしょうかっ!」
「最近、ギーズが妙に早く帰っている理由だよ。あの色っぽい手紙が届いてからだよね?」
「そ、それは……」
「家族が来ているにしては、機嫌が良すぎる気がするんだよ。何か、特別なことが起きているのだろう?」
「も、も、申し訳ありません! 俺は何も知りませんっ!」
「正直に言いたまえ。言わないと……襲うよ?」
「おそ……えっ?」
「いや、何も言わなくてもいいか。私も仕事をさせられてストレスが溜まっているからね。ちょっと遊ぼうか」
「あそぼうって……え? な、な、な……っ?!」
思わず団長を押しのけようとしたが、いつの間にかクロンの腰に腕がまわっていてがっしりと引き寄せられてしまった。
形だけの美貌の人と思っていたのに、アロイスの力は強かった。
身動きできず、でも必死で抵抗しようと腕に力を込め……クロンの耳に険悪な舌打ちが聞こえた。
「おい、クソ団長。俺が腹立ちを抑えて取りなしてきたって言うのに、あんたは何をやっているんだ」
「あ、ロベルト君。もう帰ってきたのか。あと一時間ほどゆっくりしてきてよかったのに」
アロイス団長はパッと手を離した。
急いで部屋の隅まで逃げたクロンに、アロイスはにっこりと笑いかけた。
「残念だが、邪魔が入ってしまったね。続きは、またの機会に」
「し、し、失礼しましたぁっ!」
クロンは青ざめたまま団長室を出て行った。
でも、ロベルトに書類を手渡すことは忘れなかったらしい。
書類に目を落としたロベルトはうんざりとため息をついたが、アロイスはそんなクロンの真面目さにまた楽しそうに笑っていた。
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