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13.憎しみ
6話
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「いえ、大丈夫です。ローズマリーさんは座って休んでいてください」
「そうですか?」
ローズマリーさんは目をぱちくりしながら首をかしげると、にっこり笑ってうなずいた。しかし、椅子に腰かける気配はない。
落ち着かない気持ちで窓の外を眺める。雨はすっかり強まっていた。この分だと、当分帰れそうにない。
私はローズマリーさんに押し切られるまま、こんな山の奥深くまで来てしまったことを後悔していた。魔獣が出るのはもっと先の地帯だろうけれど、こんな人気のない場所で様子のおかしいローズマリーさんと二人でいるのは気が滅入る。
「エミリア様、先ほどどうしてレスター様のことを聞くのかとおっしゃっていましたね」
ふいにローズマリーさんは囁くような声で言った。
「え……? はい……」
「レスター様、よくうちのお店に来てくれるんですよ。中等部のときからずっとです。私、あの頃は王立学園に入学したばかりで、不安しかなくて……。だって、周りは貴族ばかりで、平民出身の私なんて同じ生徒と認めないって態度で見下してくるんですもの。でも、レスター様は違いました」
ローズマリーさんは頬を赤らめ、幸せそうな顔で言う。いつかもこんな表情を見たような気がした。確か、初めて会ったとき、レスター様の名前を出したときに見たのと同じ表情だ。
「お店にやって来たレスター様は、すぐに私が同じ学園の生徒だと気づいてくれました。貴族の生徒たちに混じって目立たないように隠れていた当時の私をですよ? レスター様は私が商品の説明をすると、とても興味深そうに聞いてくれました。それから、学生のうちから仕事に関わるなんてすごいねと褒めてくれたんです。貴族は商売をする人間なんて馬鹿にしているとばかり思っていましたから、とても驚きました。すごく嬉しかったんです」
ローズマリーさんは頬に手を当て、夢見るような目をして言う。
「そうですか?」
ローズマリーさんは目をぱちくりしながら首をかしげると、にっこり笑ってうなずいた。しかし、椅子に腰かける気配はない。
落ち着かない気持ちで窓の外を眺める。雨はすっかり強まっていた。この分だと、当分帰れそうにない。
私はローズマリーさんに押し切られるまま、こんな山の奥深くまで来てしまったことを後悔していた。魔獣が出るのはもっと先の地帯だろうけれど、こんな人気のない場所で様子のおかしいローズマリーさんと二人でいるのは気が滅入る。
「エミリア様、先ほどどうしてレスター様のことを聞くのかとおっしゃっていましたね」
ふいにローズマリーさんは囁くような声で言った。
「え……? はい……」
「レスター様、よくうちのお店に来てくれるんですよ。中等部のときからずっとです。私、あの頃は王立学園に入学したばかりで、不安しかなくて……。だって、周りは貴族ばかりで、平民出身の私なんて同じ生徒と認めないって態度で見下してくるんですもの。でも、レスター様は違いました」
ローズマリーさんは頬を赤らめ、幸せそうな顔で言う。いつかもこんな表情を見たような気がした。確か、初めて会ったとき、レスター様の名前を出したときに見たのと同じ表情だ。
「お店にやって来たレスター様は、すぐに私が同じ学園の生徒だと気づいてくれました。貴族の生徒たちに混じって目立たないように隠れていた当時の私をですよ? レスター様は私が商品の説明をすると、とても興味深そうに聞いてくれました。それから、学生のうちから仕事に関わるなんてすごいねと褒めてくれたんです。貴族は商売をする人間なんて馬鹿にしているとばかり思っていましたから、とても驚きました。すごく嬉しかったんです」
ローズマリーさんは頬に手を当て、夢見るような目をして言う。
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