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第4部
第64 話
しおりを挟む生まれつき身体に不具合のある大熊は、水の精霊の真の姿や正体をあやしく思ういっぽう、麗わしい顔だちや、しなやかな白い手足を見た瞬間、虫酸が走った。その場で、噛みつきたいほど不快な気分にとらわれたが、いつ同居人がもどってくるかわからないため、精霊らしき人間を担ぎだした。
最初のうちは無抵抗でようすをみていたミュオンは、水氣を感じるところへ差しかかると、持てる力をふりしぼり、思いきりクマの背中を蹴りつけた。半獣の巨体がよろめいた隙に全速力で走り、川辺に到着すると迷うことなく飛びこんだ。水中に潜られた時点で、クマやキツネはにおいを当てに動けず、川辺とは反対の山間を探しまわっていた。
感覚において、ハイロはにおいとは関係なく、ミュオンの気配を追うことができた。ハイロの体内にはミュオンの精気が流れこんでいるため、細胞が過大にはたらき、見えない案内人に導かれるかのように、川辺までたどり着いた。
「……ミュオン、いるのか?」
気配は感じるものの、姿を目視できないハイロは、無意識に眉をひそめた。ミュオンの飛びこんだ水源は、亮介たちが禊をした川の支川につき、流域内に身をひそめているはずだ。
「いるなら、出てこいよ」
どこへなりとも顔を向けて呼びかけるハイロは、川の流れに目を留めた。急流ではあるが、人型の状態ならば、潜水は可能である。何度か精霊の名前を呼び、向こうからの浮上を待ったが、いっこうにあらわれないため、小さくため息を吐いた。
「来なければ、こっちから行くぞ。……いいんだな?」
ミュオンの気配は微弱だが近くに感じるハイロは、大きく息を吸いこむと、川底へからだを沈めた。水深は2メートルほどだが、流れが複雑でやや濁っており、油断すると淵に引きずり込まれそうになった。ゆっくり下流へ進み、うす暗い視界に目を凝らすうち、薄くて透明な膜に蔽われたミュオンが、水底に横たわっていた。なぜか裸身である。肩をつかもうとして腕をのばすと、スウッと、すり抜けてしまった。いったん息継ぎが必要になり、水面へ顔をだすと、風の吹き抜ける音が、鴫の啼き声のように聞こえた。だが、樹木の枝に渡り鳥の姿はない。ふたたび潜水しようと息を吸いこんだハイロは、耳の奥に強い刺激を受けた。
★つづく
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