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第5部
第76話
しおりを挟むハイロとミュオンが気持ちを伝えあう場面を、高い空から見ていた渡り鳥の鴫は、「キシシッ」と笑った。
「おお、森の王獣、灰色大熊よ。ついに、愛でるべき精霊を口説いたか。……いよいよ、この森に、永遠を禁ぜられた恋人が立ち還る。新しい世界に、希望を生みだせるかのう。……キーシッシッ、キーシッシッ」
バサッと翼をひろげ、大空を飛翔するシギは、ハイロの幸運を祝福しつつ、ミュオンとのあいだに産まれる新生児の活躍に期待した。すべては自然現象などではなく、亮介が森にあらわれてから、必然の道をたどっている。予期せぬ出来事を乗り越え、平和な未来を手に入れることができるのか、それは彼らの選択と行動次第である。
「ミュオンさん、ハイロさん、おはよう!」
丸太小屋で目覚めた亮介は、静かに帰宅したミュオンとハイロの姿を視野にとらえると、元気よくあいさつした。
『おはようございます、リョウスケくん』
「ふたりとも散歩? 早起きだね。ミュオンさん、ちゃんと歩けた?」
『はい。おかげさまで体調は回復しています』
ミュオンは、ほんの少しうしろめたさが残ったが、寝室へ向かうと衣服を脱いでベッドに横たわった。閉ざされた扉を見つめるハイロの横顔は、ふだんどおり無表情である。ミュオンと性交渉の約束を取りつけた今、ハイロのやるべきことは増えている。精霊の子どもは成長がはやい。小さなベッドより、亮介と同じくらいのものを用意しておくべきだろう。
室内の台所で朝食の準備をしていたノネコは、キールが畑から採ってきた野菜を皿に盛りつけた。生野菜のサラダと、蒸して塩をふりかけた夏芋がテーブルにならぶ。亮介はハイロのとなりにすわり、「いただきまーす」といって、お手製の箸(門扉を立てるさい、余った木材でつくったもの)で、夏芋を口へ運んだ。さつまいものような味わいで、食べごたえがあった。菜園の手入れは亮介もたずさわっていたが、ほとんどの管理はハイロが担っている。
「僕、このお芋の味、好きだな。ハイロさんは、ふだんから食べてるの?」
気楽な調子で訊ねる亮介に、キールは呆れ顔になる。
「おい、リョースケ。飯がまずくなる質問やめろ。おっさんの主食は動物の肉にきまってるだろーが」
「そうそう。例えばぼくとか~」と、亮介の足もとにいたコリスが自虐ネタを披露して青ざめた。
★つづく
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