88 / 171
第5部
第88話
しおりを挟む丸太小屋の隠し扉(正しくは納戸)で弓矢を見つけた亮介とキールは、ソファ(ハイロの寝床)にすわっているミュオンへ声をかけた。
「ミュオンさん、見て、見て。弓矢が置いてあったよ」
『狩猟用みたいですね。微かですが、血のにおいがしてきます……』
「えっ、これって新品じゃないの?」
弓矢をテーブルのうえに手放した亮介は、胸のまえでパッと両手をひらいた。使用済みとは思わず、にわかに動揺した。ピョンッと、ソファ(ミュオンのとなり)へ飛び乗ったキールは、ほんの少し顔をしかめた。
「けっ、前の住人は、こいつで小動物を狩ってたのか」
『……前の住人』
キールのことばに、こんどはミュオンが顔をしかめた。
(ミュオンさんは、何番目の水の精霊なんだろう……。ずっと前に、同じ名前の精霊がいて、人間の男性と結ばれて、子どもまで生んでいる。それから、精霊は何度も分化して、どれくらい経ったのかな……)
森の記憶を垣間見た亮介は、遠い昔から存在している水の精霊とミュオンが、同一個体だと認識していた。ただし、似ている部分は容姿だけにつき、目の前のミュオンは新しい形態素で、過去の記憶は取り除かれている。だが、亮介とハイロは、ミュオンの生様が幻劇のごとく脳裏に焼きついていた。
(なんか、見ちゃいけないものを見てしまった気分だし……、いきなり本人に切り出しても、びっくりする内容だよね……)
なにより、今のミュオンはハイロとの関係が複雑すぎて、過去について考える余裕などない。亮介的には、半獣属であろうと精霊であろうと、人型時のふたりはお似合いだと思った。
(ミュオンさんはきれいだし、ハイロさんはかっこいいし、ふたりのあいだに子どもができたら、どっちに似ても、きっと最高だろうなぁ)
もし女の子が産まれたら、かわいい妹のように思えてしまう亮介は、顔の筋肉が、ふにゃっとゆるんだ。男の子が誕生したとしても、自分のほうが兄という立場に変わりはない。丸太小屋に集った者たちは、みんな家族である。少なくとも、亮介はそう思った。
(ふしぎだな。僕はもう、ずっとこの森にいたみたい……)
異世界に、8歳児となって飛ばされた現象に意味があるとすれば、やはり、亮介とこの森には、切っても切れない縁があるはずだ。ミュオンの件も含め、すべて他人事として傍観するわけにはいかない。亮介には、誰よりも重要な使命があるのだ。
★つづく
34
あなたにおすすめの小説
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる