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第6部
第113話
しおりを挟む「言っておくが、おいらはキツネがきらいだ」
「そいつは奇遇だな。オレサマもイタチを見ると、虫酸が走る」
「ふ、ふたりともぉ、喧嘩はやめてよ~」
「「やかましい!」」
「ひょえ~っ、ノネコさん、助けて~」
「やれやれ、きみたち、少しばかり静かにしておくれよ。ほらほら、仔熊が起きてしまうよ」
キールとキツネ、コリスとノネコは、寝室の窓が見える庭先で、ぎゃあぎゃあ騒いでいた。亮介の意向で、新たに丸太小屋の住人となる予定のキツネと仔熊だが、コリスを傷つけたキツネや、ミュオンを拐った灰色大熊に好感をもてないキールは、「けっ」と唾を飛ばした。
「この2匹は、いつ裏切るかわからんぞ。リョースケのやつ、いったいなにを考えてやがる」
「そうだねえ。大人数でいるほうが、なにかと都合がいいから、わたしとしては、彼らを仲間に引き入れるのは賛成だよ」
「おい、ノネコ。おまえ単純だな」
「そうでもないよ。わたしはただ、利用価値を優先しただけさ」
「こいつらに、価値なんてあるのかよ?」
「もちろんだとも。管を以て天を窺う……ってね。事情が変わって味方同士になるのも、悪くない」
淡淡と語るノネコは、寝たふりをする仔熊を、ちらッと見た。灰色大熊の半幼獣は、意外と賢いようだ。目を開けないでいるうちは、無用な衝突を避けられる。成獣でいたころの記憶は欠如していたが、生まれながらに備わっている野生の本能は、しっかり働いた。負けず嫌いのキールやキツネと異なり、感情的にならず、自機を待つ。さらに相手を油断させておけば、計画も立てやすかった。
「リョースケくんと精霊さんたち、だいじょうぶかなぁ」
おろおろと視線を行ったり来たりさせるコリスは、裏口から帰宅したハイロの姿に気づき、ノネコと顔を見合わせた。
「ほえ? 今のって……」
「ああ、ハイロさんだね。川でからだを洗ってきたようだ。ほとんど、においが消えている。……少し、気になるね。本来、自己浄化をしても、ここまで気配が薄れることは、ないはずだ」
人型時のハイロは、灰色大熊がもつ特有の野性的な臭いはなく、精霊と交わるたび、半獣属の摂理から遠ざかっていくようだった。人間でも半獣でもない、まして、精霊でもない。今、この森で、もっとも特殊な存在なのは、亮介ではなくハイロだろう。
「なんだか、心配だねぇ」
めずらしく、コリスは悲しげな表情をしてつぶやいた。
★つづく
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