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最終章
第162話
しおりを挟むジェミャが去り、残されたリヒトは少し困ったような顔をして、亮介を見つめた。
「心配ないからね、リヒト。僕らは家族なんだ。ジェミャさんは飛んでいっちゃったし、きょうから小屋でいっしょに暮らそうよ。遠慮はいらないよ」
亮介は両腕をパッとひろげ、笑顔で歓迎した。あとから近寄ってきたコリスも、事情を察して「よろしくね~」と尻尾をふる。ハイロは、空を浮くミュオンに「降りてこいよ」と声をかけ、新居に案内した。
「こっちが僕で、向こうがハイロさんの部屋になってるんだ。リヒトは、僕といっしょの部屋でいい?」
間取りを説明する亮介に、ミュオンは顔をしかめ、『このわたしに、半獣属と同じ部屋を使えと?』と返す。夫婦なのだから自然だと思いこむ亮介は、「ご、ごめんなさい」と、即座に詫びた。ハイロは、リヒトのために寝台をつくる仕事ができ、庭にでて作業を始めた。亮介は窓から見えるハイロの背中に目をとめ、ミュオンの説得に挑む。
「あ、あのね、ミュオンさん。ハイロさんのこと、嫌わないであげてね。ふたりが仲よくしてくれると、僕は安心するし、リヒトもよろこぶと思うんだ!」
無理やり会話にリヒトを参加させ、「ほら、お母さんが帰ってきたよ」と、3人の距離を近づけようとしたが、リヒトはプイッと顔を背け、ノネコの定位置であるソファへ腰かけた。ミュオンも視線を逸らし、室内に微妙な空気が流れる。
(……うっ、気まずくなっちゃった? 僕の説明が下手すぎるのかなぁ)
亮介が当惑の表情を浮かべると、森の記憶を語り継ぐノネコは、リヒトに向けて語りだす。
「こうして、きみと直接に話をするのは初めてだね。改めて、わたしは過去の番人、野猫の末裔さ。以後よろしくたのむね、リヒトくん」
気さくに話すノネコは、尻尾を軽くふってみせ、相手の緊張感を解いた。
「ねえ、ミュオンさん。せっかくだし、僕らもノネコさんの話を聞こうよ」
亮介は床にすわりこんだが、ミュオンは窓ぎわへ移動して腕組みをした。ガラスの向こう側で、ハイロが木材を組み立てている。わが子よりも灰色大熊のようすを気にするあたり、ミュオンの心は揺らいでいるのかもしれない。
(なんか、さっきからハイロさんばっか見ているような……。もしかして、少しは意識してるってこと……?)
わずかな関心であっても、ないよりは全然マシである。亮介はソファのほうへ向きなおり、ノネコの話に耳をかたむけた。意外なことに、リヒトは真剣な顔つきになっている。
(しゃべれなくても、リヒトなりに、なにかを感じ取っているはずだよね。急がなくても平気かな。やっと、これでみんなそろったんだもの。……僕たちは、仲よくスローライフを送るんだ!)
できれば、この場にキールやジェミャもいてほしいと思う亮介だが、ミュオンとハイロの再会を素直によろこび、リヒトと共に暮らしてゆく未来を想像して、にっこり笑った。
「ずっとずっと昔、森を訪れた人間は野生動物に襲われて怪我をしたあと、水の精霊と出逢い、それはそれは熱い恋をした。やがて、両者のあいだに赤子が誕生し、希望の光と名付けられる。……残念なことに、水の精霊は育児に参加せず、分化のために姿を消したけれど、父親は愛情深くわが子を育てた」
ノネコが語り継ぐ内容はすでに知り得た情報につき、ときおり小さくうなずきつつ耳をかたむける亮介は、夢の国の主人公を演じているような錯覚にとらわれた。リヒトは、過去の産物ではなく、ミュオンとハイロが生みだした愛の象徴である。そして、唯一、大神族を従わせることができる、ふしぎな能力をもつ少年なのだ。
★つづく
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