拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多

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指輪の秘密

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 エミリアは居住まいを正して背筋を伸ばした。
 いよいよ、死んでもかまわないとまで言ったこの結婚について、何か重大な話をされるらしい。

(何かしら……毒見役をしろとか、そういうこと?)

 死神公爵とあだ名されていても、離婚や死亡したとされる女性たちが、なぜそうしたのかは広まっていない。
 なので巷では公爵閣下が毒見役に妻を使うので亡くなったのだとか、実は表に出ているのは影武者で、ひどい容姿の本当の公爵閣下とあった妻たちが恐怖し、逃げ出したのだとか、いろいろとうわさされていたのだ。

 どんな要求や真実を明かすのかとドキドキしていると、シルヴェストは言った。

「君には、ある者と会ってもらい、彼の信用を得てもらいたい」

「信用を……?」

 シルヴェストはうなずいた。

「彼は我が公爵家にとって重要なんだ。王家も重用しているのだが、表に出るわけにはいかない身。彼の存在について一つでも漏らすことがあってはならない」

 ここまで聞いて、エミリアは察した。

「まさか、今まで離婚をなさったのは……」

「彼の秘密を守れなさそうだったからだ」

「え、面会前にですか?」

 シルヴェストや公爵家の人間が秘密の厳守ができなさそうだとはいえ、すぐに離婚したとする。でもそんなのは事前に調べられなかったのだろうか?

「面会後だな」

「え……」

 エミリアは血の気が引いた。
 面会後に離婚。ただそれだけならいい。でも存在についての秘密を漏らしてもいけないとしたら。

(まさか離婚という体で、みんな殺してしまったとか?)

 シルヴェストは何人も死別しているとも聞いている。はじっこ貴族のエミリアは、噂だろうと思ったし、毒見役とか公爵の危機をかばってのことだと考えていたのだ。
 けれど秘密を守るため、死神公爵の異名がぴったりな所業をしているとしたら?

「死にはしない」

 こちらの考えを読み取ったかのように、シルヴェストが言う。

「その指輪を外した瞬間、指輪をつけている間の記憶を失うのだ。後は家に帰ってもらうだけになる」

「指輪っ?」

 左手の薬指につけたままになっていた、銀の指輪を見る。
 公爵家の花嫁に与える結婚指輪にしては簡素だなと思っていたけれど、まさかそんな理由で渡される指輪だったとは。

 結婚の宣誓をした後は決して外さないようにと言われていたけれど、そんな理由があってのことだったらしい。
 とすると、今から何かを聞いても大丈夫だろう。指輪を外すことになれば、すぐに忘れてしまうのだから。

「これは、魔法なんですか?」

 エミリアはずばり聞いてみた。
 魔法ははるか昔にほとんどなくなっていた。
 痕跡を残すように、光を発したり、傷を少しいやす聖遺物があったり、人の血を吸うと持ち主を狂気と引き換えに強化する剣は実在している。

 が、エミリアのようなはじっこ貴族や平民は、そうそう触れられるようなものではない。
 エミリアは珍しさからしげしげと指輪を眺めてしまう。

「途中で勝手に外すと、この試みは中止。そして彼について記憶していないかを確認したうえ、場合によってはもっと良くない記憶を奪う手段を使うことになる」

「え、まさか本当の殺……」

「他の記憶をゆがめる魔法の品を使う。短期間の記憶はそれでなくなるが、記憶のゆがみを自身でも感じてしまい、精神が不安定になる者も多いようだ。そのため、離婚した後で実家の貴族家によって亡くなったことにして、領地でひっそりと暮らさせることも多いようだな」

「あ、死なないんですね」

 ちょっとほっとした。
 死んでもかまわないとは言ったし、領地民と両親の安全は確保できたので、必要なら惜しむつもりはない。
 でもやっぱり、死ぬのは怖いのだ。せめて痛かったり怖かったりすることもなく……なんて考えてしまう。

 シルヴェストは、そこについて追及してこなかった。
 誰でも死を怖がるだろうからと、追及するのはやめてくれたんだろう。

「さて、試みに挑戦してもらうわけだが、我々としても、これ以上結婚相手を探さずに済むに越したことはない」

 シルヴェストの言葉にうなずく。

(さすがに十九回も失敗して、恐ろしいうわさが立ったら、もう結婚相手はいなくなるものね……)

 なんとしてでも結婚したい。シルヴェストの表情に、そんな焦りがにじんでいる。

(公爵閣下も大変なんだな)

 どんなにお金があって借金で苦労しなくても、結婚で苦労するのか。
 家を救ってくれた彼に恩を返せるとしたら、結婚が継続できるようにすることかもしれない。
 でも、どんな秘密なのだろう?

 そんなエミリアは、朝食後にさっそく秘密とやらを教えられることになった。
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