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「汚された。汚されてしまいましたわ」
サーシャはこちらに背中を向けるとそんなことを呟いた。元々出す予定だった条件は俺の訓練を受けることだったと伝えた途端にこれだ。
「勘違いって怖いよな」
「故意でしょ。指摘するべきでしょう」
勢いよく振り返った女が頬をつねってくる。俺が剥き出しの胸部に目をやると女剣士は一瞬だけ怯んだが、見られることにようやく慣れたのか、指が離れることはなかった。
「せ・き・に・ん・とってもらえるんですわよね?」
「勝負のことなら言わないぞ」
「それだけですの?」
「他に何かあるのか?」
元々それが条件でこいつは俺に抱かれたはずなのだが。
「それは……それくらい自分で考えてくださいな」
再び女が背中を向ける。
「怒ったのか?」
「怒ってませんわ」
その割には声が刺々しい。
さて、何と声を掛けるべきか。
考えているとサーシャが振り返った。あっちを見たりこっちを見たり、忙しのないやつだ。
「それよりも聞いておきたいんですけど、貴方、何者なんですの? 手合わせした時の実力、ハッキリ言って私の師匠に匹敵しますわよ」
「いや、普通に俺の方が強いと思うぞ」
それなりに長く生きてきたが、その間に天界、魔界含めて単体で俺の脅威足りえたのは十三体だけ。その中に人間は一人しかいない。剣聖というのがどれほどの個体なのかは知らないが、あいつ以上の可能性は低いだろう。
「剣聖はこの大陸一の剣の使い手なんですのよ。最強の剣士なんですの。それよりも強いって……ううっ。否定したいのに、否定しきれませんわ」
ベッドの中で体を寄せてきたサーシャが悔しそうに体を揺らす。
「それで? 話を戻すが俺の特訓を受けるのか?」
「まだ貴方が何者か答えて貰ってませんわ」
「そう言われてもな。俺も俺が誰だか知らない」
黒色の瞳が意外そうに瞬いた。
「まさか記憶喪失ですの?」
「違う」
「それじゃあ、ふざけてますの?」
「大真面目だ」
「訳が分かりませんわ。なので分かるように説明しなさいな」
布団の中で女の足が俺の足を撫でる。
「例えば……そうだな。お前はその辺にいる人間を人間だと認識できるか?」
「はい? それは勿論できますわ」
「どうやって?」
「どうって……そんなの見れば普通分かりますわ」
「悪魔だって人の姿をした奴は珍しくないだろ。何故悪魔ではなくて人だと判断できる」
「爵位持ちの悪魔なんて例外を持ち出したらきりがありませんわ。というか、この話に何の意味があるんですの?」
女の目尻が吊り上がる。少しばかし短気すぎやしないだろうか。
「俺が言いたいのは生物は経験で物事を判断しているということだ。そしてその判断を強化するのが他者の同意だ。彼は人間だ。そう自分が判断し、他者が同意した時、その経験は事実になる。少なくともそのコミニティーにおいてはな」
サーシャの眉間に皺が寄ったので、女剣士の鍛えられた白い柔肌を撫でてみた。俺の話はよほど退屈だったようで、女の機嫌が目に見えて良くなる。
「貴方の言いたいことはよく分かりませんわ」
行為の最中、荒い吐息を吐き出しながらそんな感想を口にするサーシャ。俺はそんな彼女の耳元に口を寄せた。
「なら仮にそれら全てがない世界に生まれた生物は自己をどう認識するんだろうな。いや、そもそもそいつは生物と呼べるような存在だったのか」
何度か口付けを交わすると、互いの額と鼻先をくっつけた。女の吐く息が俺の頰を撫でる。
「貴方が自分のことを話す気がないことはよく分かりましたわ」
「そうか。……そうかもな」
話すことがない。それ故に話す気がない。そうなのかもしれない。そうじゃないのかもしれない。
ごちゃごちゃ湧いてくる無意味な思考を振り払うため、俺は女との行為に没頭した。
サーシャはこちらに背中を向けるとそんなことを呟いた。元々出す予定だった条件は俺の訓練を受けることだったと伝えた途端にこれだ。
「勘違いって怖いよな」
「故意でしょ。指摘するべきでしょう」
勢いよく振り返った女が頬をつねってくる。俺が剥き出しの胸部に目をやると女剣士は一瞬だけ怯んだが、見られることにようやく慣れたのか、指が離れることはなかった。
「せ・き・に・ん・とってもらえるんですわよね?」
「勝負のことなら言わないぞ」
「それだけですの?」
「他に何かあるのか?」
元々それが条件でこいつは俺に抱かれたはずなのだが。
「それは……それくらい自分で考えてくださいな」
再び女が背中を向ける。
「怒ったのか?」
「怒ってませんわ」
その割には声が刺々しい。
さて、何と声を掛けるべきか。
考えているとサーシャが振り返った。あっちを見たりこっちを見たり、忙しのないやつだ。
「それよりも聞いておきたいんですけど、貴方、何者なんですの? 手合わせした時の実力、ハッキリ言って私の師匠に匹敵しますわよ」
「いや、普通に俺の方が強いと思うぞ」
それなりに長く生きてきたが、その間に天界、魔界含めて単体で俺の脅威足りえたのは十三体だけ。その中に人間は一人しかいない。剣聖というのがどれほどの個体なのかは知らないが、あいつ以上の可能性は低いだろう。
「剣聖はこの大陸一の剣の使い手なんですのよ。最強の剣士なんですの。それよりも強いって……ううっ。否定したいのに、否定しきれませんわ」
ベッドの中で体を寄せてきたサーシャが悔しそうに体を揺らす。
「それで? 話を戻すが俺の特訓を受けるのか?」
「まだ貴方が何者か答えて貰ってませんわ」
「そう言われてもな。俺も俺が誰だか知らない」
黒色の瞳が意外そうに瞬いた。
「まさか記憶喪失ですの?」
「違う」
「それじゃあ、ふざけてますの?」
「大真面目だ」
「訳が分かりませんわ。なので分かるように説明しなさいな」
布団の中で女の足が俺の足を撫でる。
「例えば……そうだな。お前はその辺にいる人間を人間だと認識できるか?」
「はい? それは勿論できますわ」
「どうやって?」
「どうって……そんなの見れば普通分かりますわ」
「悪魔だって人の姿をした奴は珍しくないだろ。何故悪魔ではなくて人だと判断できる」
「爵位持ちの悪魔なんて例外を持ち出したらきりがありませんわ。というか、この話に何の意味があるんですの?」
女の目尻が吊り上がる。少しばかし短気すぎやしないだろうか。
「俺が言いたいのは生物は経験で物事を判断しているということだ。そしてその判断を強化するのが他者の同意だ。彼は人間だ。そう自分が判断し、他者が同意した時、その経験は事実になる。少なくともそのコミニティーにおいてはな」
サーシャの眉間に皺が寄ったので、女剣士の鍛えられた白い柔肌を撫でてみた。俺の話はよほど退屈だったようで、女の機嫌が目に見えて良くなる。
「貴方の言いたいことはよく分かりませんわ」
行為の最中、荒い吐息を吐き出しながらそんな感想を口にするサーシャ。俺はそんな彼女の耳元に口を寄せた。
「なら仮にそれら全てがない世界に生まれた生物は自己をどう認識するんだろうな。いや、そもそもそいつは生物と呼べるような存在だったのか」
何度か口付けを交わすると、互いの額と鼻先をくっつけた。女の吐く息が俺の頰を撫でる。
「貴方が自分のことを話す気がないことはよく分かりましたわ」
「そうか。……そうかもな」
話すことがない。それ故に話す気がない。そうなのかもしれない。そうじゃないのかもしれない。
ごちゃごちゃ湧いてくる無意味な思考を振り払うため、俺は女との行為に没頭した。
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