わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜

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35 捕獲

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「何ですの貴方達は?」

 サーシャの質問を一顧だにせず、黒装束が飛びかかってくる。その手には短剣。

「気をつけろよ。毒が塗ってあるぞ」
「忠告するならせめて起きたらどうですの?」

 サーシャは枕の下に潜ませていた短剣を足で掬って空中に浮かすと、抜刀と同時に黒装束の胸に突き刺した。そのままナイフを起点に投げを放つ。加害者と被害者の重みでベッドがギシギシと揺れた。

「貴方、一体何をやらかしたんですの?」

 襲撃者の胸に突き刺さっている短剣が上下に激しく動く。すると男の体がビクンビクンと激しく震えて、やがて動かなくなった。

「狙いはお前かもしれないだろ」
「それは……まぁ、なくはないですけれど」

 男に馬なりになっている女の無防備な背中に別の黒装束が迫るが、飛来したククリ刀がそんな男の頭部を切断する。

「はて、何処かで見たような連中でありますな」

 吹き出す鮮血が白いシーツと女戦士の肢体を赤く染めた。

 刃が歪曲した刀を持つラーミアの腕から上がる炎。あれが賊の首を飛ばす程の投擲速度を生み出したのだろう。

「なっ!? お、お前は?」

 黒装束の一人が声を上げた。

「ん? 俺か?」

 剣王国の将軍であるラーミアか剣聖とやらの弟子のサーシャなら分かるが、何で俺に反応するんだ?

 とういうかこの黒装束、どこかで見た気がする。

「……ああ。お前ひょっとして馬車を襲ってた奴か?」
「貴様がグロウ? 撤退。撤退しろ」

 黒装束の女が指示を出すと、生き残ってる残りの二人が窓の外へと飛び出した。女もそれに続こうとするがーー

「その女だけは捕らえろ」
「了解であります。てか、お前。あの時はよくも私を殺してくれやがりましたね」
「なんだかよくわからないけど、分かりましたわ」

 怒りに燃えるラーミアとすっ裸のサーシャが同時に黒装束の女へと攻撃を仕掛けた。

「……仕方あるまい」 

 賊が素早く何かを取り出したーーので俺はそれを没収した。

「なっ!?」
「転移の魔術が込められた石……いや、これは呪術か。ということはお前魔女なのか」

 黒装束の女は手の中にあったはずの脱出手段が失われていたことに大いに戸惑ったが、そんな心境でも二人の攻撃を紙一重で回避して見せた。だがその際に顔を隠していた布に剣先がかすめて素顔が顕になる。

 褐色の肌に燃えるような深紅の瞳。そして特徴的な尖った耳。

「ダークエルフですの!?」
「これは珍しいでありますな」
「貴様、一体何者だ?」

 黒装束の女が睨むのは向き合う二人ではなく俺。

「冒険者だ」
「ふざけるな。貴様のようーーがぁ!?」

 メイドの振るったククリ刀がダークエルフの足を切り裂いた。咄嗟に避けなければ刀はダークエルフの足を切断していただろう。

「私を前によそ見とは余裕であるな」

 自分を殺した相手なのだから当然かもしれないが、繰り出されるラーミアの攻撃にはどれも殺意が込められている。

「まったく後でちゃんと説明してくださいな」

 サーシャ(素っ裸)がそんなラーミアの攻撃に続く。ダークエルフも地上レベルで見れば決して弱くはないが、人間の中では上位に位置する女達の連携に抵抗虚しく、ついには捕獲された。
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