わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜

文字の大きさ
37 / 60

36 到着

しおりを挟む
「よく帰って来ましたね。剣王国は貴方の帰還を心待ちにしていましたよ。リーナ姫。いいえローズマリー」

 白いドレスを優雅に着こなした白髪白目の美女。その佇まいは気品に満ちており、その美貌は同性の目さえも虜にする。

 剣王国を治める女王は、幼い頃の記憶と寸分変わらぬ美貌を誇って玉座に腰掛けていた。

「お久しぶりですマラート王妃。壮健そうで何よりです」
「ローズマリー、私達は親子なのですよ? お母様と呼んではくれないのかしら?」
「公私のケジメは必要ですので。それよりも……」

 玉座の間。その主を守るように左右に整列する者達の数が気になった。

「守護剣の方々はこれで全員なのですか?」

 剣王国守護剣。剣王国最強の十人を指す称号で国防の要たる彼らがたった三人しかいないというのはどういうことだろうか。

「ごめんなさいね。王女である貴方の帰還、本来であれば国の顔たる守護剣は全員参加するべきなのですが、ここ数年、彼らには各地に散ってもらい暗躍する魔女の討伐に当たってもらっています」
「魔帝国の手がそこまで?」
「ええ。悪魔に魂を売り渡した彼らの非道は酷くなる一方。最早魔帝国に巣食う魔女を狩れば終わりという段階は過ぎました」
「それはつまり……」
「準備が出来次第、魔帝国に攻め込みます」
 
 予想してはいたけれど、自体はずっと早く、そして容赦無く進行していたようだ。

「それでローズマリー。一応確認しておきたいのだけれど、聖剣の力を?」
「はい。剣は私に応えてくれました」
「そうですか。デビルキラー。剣王国の正統なる血筋にしか扱えない、悪魔に対して絶大な威力を誇る無二の聖剣。その力があればたとえ魔帝国に爵位持ちがいたとしても対抗できるでしょう」

 魔女を介さないと力を使えない下級悪魔とは違い、肉体という領土をもった悪魔の力は絶大で、男爵級ならまだしも、伯爵級になると人間では太刀打ちできないと言われている。

「御言葉ですがね。マラート王妃。悪魔など我々守護剣がいれば十分打倒できますぞ」

 スーツに身を包んだ神経質そうな男。自身の髭を撫でる彼はえらく不満そうだ。

「ブライス、王妃の決定に口を挟むな」

 守護剣の一人であるブライス卿に意見できるのは、当然だが同格の者だけ。黒衣に身を包み、刀と呼ばれる片刃の剣を持つ彼は守護剣三強の一角ラウ・ケルルダ。

「これは失礼。私はただ、ローズマリー様の身が心配でしてね。なにせ悪魔どもは狡猾で邪悪極まりない存在です。いかに悪魔に対して絶対的な力を発揮する聖剣といえども、それを振るうのがたった二人しかいない王女となれば、考えてしまいませんかな? 世継ぎの問題を」

 ブライス卿の視線が私の全身を這い回る。記憶の中にある彼は、果たしてこのような目をする人だったろうか。

「ブライス卿、それはどういう意味でしょうか」
「お分かりになりませんかな、ローズマリー様。貴方様には今すぐにでもこーー」
「おやめなさい」

 女王の凛とした声音が場を支配する。ブライス卿は小さく頭を下げると、大人しく引き下がった。

「ごめんなさいね、ローズマリー。彼は剣王家の血筋が絶えるのを危惧しているのです。私が王家の人間だったらよかったのですが」
「ブライス卿の危惧はごもっともです。お気になさらないでください」
「ありがとう。ふふ。あの小さかった貴方がすっかり立派になって。デビルキラーが使いこなせるようになるまで城の外にローズマリーを逃がせ。あの人の考えは正しかったようね」

 事切れる前に父は言った。城は危険だと。そしてその言葉を立証するかのように私達を逃す準備を進めていた母も魔女の手によって深い眠りに落とされた。ラーズの話では城に潜んでいた魔女は倒したということだがーー

 この場にいる最後の一人、蒼髪青眼の美女へと視線を向ける。

 守護剣が一人、アイス・マリリーナ。氷の大魔道士という異名を持つ彼女は私の視線に気付いたが、特に何かを口にすることはなかった。

 無口で無表情なのは記憶にある彼女の態度と何も変わらないが、ブライス卿を見て感じたように、彼女も記憶にある彼女と少し違って見える。もっともそれは十年という歳月を考えれば当然の変化なのかもしれないが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...