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19話 聖女は川の流れのように生きたい
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請われるがまま、『砂漠の民』の集落に留まっているわたしです。
シュルトワ王国の現状が気にならないといえば、嘘になるでしょう。
しかし、わたしは今、ここで生きている。
穏やかな日差し。
心地の良い風。
そして、どこまでも続く、青々とした草原……。
ほんの数日前まで乾いた砂しか、広がっていなかった大地でわたしは……
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。ほら、お花! きれいでしょ」
まるで青い海のように眼前に広がる麦畑を前にして、物思いに耽っていたわたしの前に一輪の白い花を突き出してくる少女の姿がありました。
『そうね。とても、きれいね』と微笑みながら、その小さな手から花を受け取ります。
この子の名前はアーヤ。
わたしがここに来てからというもの、まるで妹のようにどこにでも付いてくる子でした。
好奇心旺盛な年頃なのか、それとも単に人なつっこい性格なのでしょうか?
集落の人たちにも可愛がられているようですし、きっと後者なのでしょう。
気付けば、付いてくるだけではなく、『あれはなぁに?』とか、『これ、何? 面白いね!』などと言いながら、わたしの手を引っ張って走り出すのです。
もちろん、そんな風にされたら誰だって悪い気がするはずもなく……。
『もうっ、アーヤったら!』なんて言いながらも、つい笑顔になってしまうものです。
それにしても、この子はどうしてこんなに元気なのかと不思議でもあります。
「レイチェル。貴女がそのようなことをしなくてもいいはずだが……」
不意に後ろから声をかけられて振り返ると、そこには、いつの間にか一人の青年の姿がいました。
カーミルさんでした。
長身瘦躯という形容は彼の為にあるのでは? と思うくらい背が高く、スマートな体型をしています。
それなのにしっかりと引き締まった筋肉が付いていることをわたしは知っていました。
え? じかに触り散らかしたので引かれたりはしていませんよ?
え、ええ。
そして、焦げ茶色の髪で右目を隠すという独特なヘアスタイルをしています。
深緑のきれいな瞳なのに隠しているのは何か、訳があるのかもしれません。
「わたしがやりたいのです。それでは駄目でしょうか?」
そう答えると彼は少しだけ、困ったような表情を浮かべました。
それでもフッと軽く笑みを浮かべ、『そうか。分かった』と言って、わたしの意見を尊重してくれます。
名前も『聖女様』ではなく、レイチェルと呼んで欲しいと頼んだ時も困惑を隠さず、眉根を寄せていたにも関わらず、受け入れてくれた人です。
「だが、あまり無理はしないでほしい。貴女の身にもしものことがあれば……」
「はい。分かっています。大丈夫です」
わたしの身を案じている、心配していると態度で示してくれるのです。
彼を始めとした皆さんの気持ちはとても嬉しく、思います。
でも、太陽の下で土と触れ合いたい……。
そう思うことはいけないことなのでしょうか?
「カーミルさん。お友達は大丈夫なのですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。問題ない……」
「それなら、いいのですけど」
「そうか」
視線を逸らしながら答えた彼の言葉にはどこか含みを感じられました。
……まぁ、いいでしょう。
わたしもお友達と敢えて、言い方に含みを持たせたのですから。
基本的にわたしとカーミルさんの会話は二言三言交わすのがやっと……。
寡黙で恥ずかしがり屋な方のようです。
「あのぉ」
そんなわたし達を見かねたのでしょう。
遠慮がちに声をかけてきたのは、アーヤの母親であるサラさんでした。
彼女はいつも控えめな態度を取っていて、大人しい印象を受けます。
「はい。どうかしましたか?」
「そろそろ、ご飯にしましょう。アーヤも待ちくたびれてますし」
彼女の指差す方を見ると、両手を腰に当て、頬を膨らませたアーヤの姿がありました。
今日も何事もなく、一日が平和に終わろうとしています。
王都での暮らしが遠い昔のようです。
追放されるまでは追われるように一日一日が過ぎていました。
ここでは緩やかな大河の流れのようにゆったりとした時間が流れています。
こんな日々がこれからもずっと続けばいいのに……と心から、思います。
願わくば、この幸せがいつまでも続きますように……。
シュルトワ王国の現状が気にならないといえば、嘘になるでしょう。
しかし、わたしは今、ここで生きている。
穏やかな日差し。
心地の良い風。
そして、どこまでも続く、青々とした草原……。
ほんの数日前まで乾いた砂しか、広がっていなかった大地でわたしは……
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。ほら、お花! きれいでしょ」
まるで青い海のように眼前に広がる麦畑を前にして、物思いに耽っていたわたしの前に一輪の白い花を突き出してくる少女の姿がありました。
『そうね。とても、きれいね』と微笑みながら、その小さな手から花を受け取ります。
この子の名前はアーヤ。
わたしがここに来てからというもの、まるで妹のようにどこにでも付いてくる子でした。
好奇心旺盛な年頃なのか、それとも単に人なつっこい性格なのでしょうか?
集落の人たちにも可愛がられているようですし、きっと後者なのでしょう。
気付けば、付いてくるだけではなく、『あれはなぁに?』とか、『これ、何? 面白いね!』などと言いながら、わたしの手を引っ張って走り出すのです。
もちろん、そんな風にされたら誰だって悪い気がするはずもなく……。
『もうっ、アーヤったら!』なんて言いながらも、つい笑顔になってしまうものです。
それにしても、この子はどうしてこんなに元気なのかと不思議でもあります。
「レイチェル。貴女がそのようなことをしなくてもいいはずだが……」
不意に後ろから声をかけられて振り返ると、そこには、いつの間にか一人の青年の姿がいました。
カーミルさんでした。
長身瘦躯という形容は彼の為にあるのでは? と思うくらい背が高く、スマートな体型をしています。
それなのにしっかりと引き締まった筋肉が付いていることをわたしは知っていました。
え? じかに触り散らかしたので引かれたりはしていませんよ?
え、ええ。
そして、焦げ茶色の髪で右目を隠すという独特なヘアスタイルをしています。
深緑のきれいな瞳なのに隠しているのは何か、訳があるのかもしれません。
「わたしがやりたいのです。それでは駄目でしょうか?」
そう答えると彼は少しだけ、困ったような表情を浮かべました。
それでもフッと軽く笑みを浮かべ、『そうか。分かった』と言って、わたしの意見を尊重してくれます。
名前も『聖女様』ではなく、レイチェルと呼んで欲しいと頼んだ時も困惑を隠さず、眉根を寄せていたにも関わらず、受け入れてくれた人です。
「だが、あまり無理はしないでほしい。貴女の身にもしものことがあれば……」
「はい。分かっています。大丈夫です」
わたしの身を案じている、心配していると態度で示してくれるのです。
彼を始めとした皆さんの気持ちはとても嬉しく、思います。
でも、太陽の下で土と触れ合いたい……。
そう思うことはいけないことなのでしょうか?
「カーミルさん。お友達は大丈夫なのですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。問題ない……」
「それなら、いいのですけど」
「そうか」
視線を逸らしながら答えた彼の言葉にはどこか含みを感じられました。
……まぁ、いいでしょう。
わたしもお友達と敢えて、言い方に含みを持たせたのですから。
基本的にわたしとカーミルさんの会話は二言三言交わすのがやっと……。
寡黙で恥ずかしがり屋な方のようです。
「あのぉ」
そんなわたし達を見かねたのでしょう。
遠慮がちに声をかけてきたのは、アーヤの母親であるサラさんでした。
彼女はいつも控えめな態度を取っていて、大人しい印象を受けます。
「はい。どうかしましたか?」
「そろそろ、ご飯にしましょう。アーヤも待ちくたびれてますし」
彼女の指差す方を見ると、両手を腰に当て、頬を膨らませたアーヤの姿がありました。
今日も何事もなく、一日が平和に終わろうとしています。
王都での暮らしが遠い昔のようです。
追放されるまでは追われるように一日一日が過ぎていました。
ここでは緩やかな大河の流れのようにゆったりとした時間が流れています。
こんな日々がこれからもずっと続けばいいのに……と心から、思います。
願わくば、この幸せがいつまでも続きますように……。
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