【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸

文字の大きさ
36 / 47

33話 レイチェル、攫われる

しおりを挟む
 レイチェルが去った王国で王都が一夜にして、崩壊するという大惨事が起きているのとほぼ同刻――『砂漠の民』と大砂鮫グランドサンドシャークの生死を懸けた激しい戦いが行われていた。
 そして、奇しくも間隙を縫うように『聖女』レイチェルの身にも危機が迫っていたのである。



「あれれ?」

 揺られ、揺られ、頭はまだ完全に覚醒していないのか、うつらうつらとしたまま……。
 手足を何かで縛られているのか、動かせません。
 かなり、きつく縛っているのでしょうか?
 やや痛みもありますし、指を動かすのがやっとのようです。

 それだけではなく、身体が動かせない状況にあります。
 周囲の状況も全く、分かりません。
 わたしはどうやら、攫われたとみて、間違いないでしょう。
 身動きは出来ないけど、この窮屈さ……。
 袋に詰められたといったところなんでしょうか?

「兄貴。ホントに大金が手に入るんでやすか?」
「あたぼうよ。俺は聞いたんだぜ~。賢者の石がどうのってな。石で価値があるったら、そりゃ、オメエ、高く売れるんだぜ~?」
「さっすが、兄貴でやんす!」
「それほどでもないんだぜ~」

 低音の濁声だみごえとやや通りのいい声。
 二通りの男性の不穏な会話と笑い声が耳に入ってきました。

 わたしは何が起きたのか、必死に考えます。
 それでこの状況を打開する手立てが思い浮かべば、いいのですが……。

 大砂鮫グランドサンドシャークが集落に近付いているので『砂漠の民』の皆さんが迎撃の為に出立しようとしていて、わたしは少しでも力になりたいと考えました。
 それでカーミルさんに挨拶し、『あなたの為に祈りを捧げることをお許しください』と彼の武運を祈ったのです。
 そうしたら、闇の底に沈むように途端に意識が遠のいた……!

 そうです、思い出しました。
 カーミルさんの右半身は青く変色していて、血が通っていないかのように冷たくて、氷みたい。
 氷を解かすにはお湯をかければいい。
 頭の中でそんなイメージが浮かんできたので、私の中を流れる温かいものを使ったのでした。
 まさか、それで気を失ってしまうとは思いませんでしたが……。

 では気を失っている間に捕まったのでしょうか?
 先程の会話内容からすると、わたしはこれから何か、酷いことをされるのでしょうか?
 不安ばかりが募ります。

 何とかして、脱出しないといけません。
 お母さんはどうせ、この状況も『人間を知るいい勉強になるんじゃない?』と遠くから、観察しているだけで助けてはくれないでしょうし……。

「それにしても、賢者の石って何に使うんでやすか?」
「知らないんだぜ~?」
「兄貴でも知らないことがあるんでやすか!?」
「うるさいんだぜ~、」
「へ、へいっ!」
「約束の場所なんだぜ~」

 揺れが止まりました。
 会話の内容も途切れましたし、目的地に着いたのかもしれません。
 わたしを攫った二人組以外の人間の気配を感じます。
 かなりの人数です……間違いありません。

「持って来たんだぜ~。大変だったんだぜ~?」
「分かっている……」

 ボソボソと喋っているので二人組以外の声はよく聞き取れません。
 ただ、ガシャリという金属がぶつかり合うような音が聞こえたので恐らくはコインが詰まった袋などが手渡された……?
 つまり、わたしは金銭目的で誘拐されたということなのでしょうか?
 誰に? 何で? 疑問符が頭の中にたくさん浮かんでは消えていき、答えが出ません。

「兄貴、すごいでやんす!」
「ああ。お金持ちなんだ~ぜ~」

 二人組の嬉しそうな声とともにかなり、乱暴な調子で体が揺れました。
 あの……中にわたしがいるのですが!?
 怪我するほどではありませんが、強かにお尻を打った気がします。
 痛いことは痛いのですが、それよりも気になるのは微かに聞こえる周囲の物音です。
 これは剣を抜く音では……?

「な、なにするんだぜ~?」
「あ、あにき~」

 二人組の今にも泣き出しそうな情けない声が聞こえてきます。
 これは絶体絶命の危機ではないでしょうか。
 音から察するにかなりの人数がいますし、向こうは抜剣している以上、本気で殺しにかかってくるはずです。

「いい働きを見せてくれた礼だ。迷わず、仲良くあの世にいくがいい……」

 低い男の声……。
 まるで舞台で見た悪役の台詞のようです。
 そして、『ぎゃっ』という微かな悲鳴が聞こえたかと思うと、何か重いものが倒れるような鈍い音が響きました。

「…………」
「貴様、何奴!?」
「貴様らのような悪党に名乗る名などない……!」

 バタバタという騒がしい足音と激しく、金属がぶつかり合う音。
 明らかに剣撃が鳴り響いていますが、それと同時に『あ、あにき~』『隠れているんだぜ~』という声も聞こえました。
 わたしはどうやら、地面に置かれたまま、置き去りのようです……。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アンナ・ローレンスはグランベル王国第一王子ダニエル・クロムハートに突然の婚約破棄を言い渡された。 その理由はアンナの職業にあった。職業至上主義の世界でアンナは無能と言われる職業を成人の儀で神に与えられた。その日からアンナは転落人生を歩むことになった。公爵家の家族に使用人はアンナに冷たい態度を取り始める。 アンナにはレイチェルという妹がいた。そのレイチェルの職業は神に選ばれた人しかなれない特別な職業と言われる聖女。アンナとレイチェルは才能を比較された。姉のアンナは能力が劣っていると言われて苦しい日常を送る。 そして幼馴染でもある婚約者のダニエルをレイチェルに取られて最終的には公爵家当主の父ジョセフによって公爵家を追放されてしまった。 貴族から平民に落とされたアンナは旅に出て違う国で新しい生活をスタートする。一方アンナが出て行った公爵家では様々な問題が発生する。実はアンナは一人で公爵家のあらゆる仕事をこなしていた。使用人たちはアンナに無能だからとぞんざいに扱って仕事を押し付けていた。

『無価値な置物』と捨てられた宮廷調香師~絶望の匂いしか知らない私が、盲目の辺境伯様に「君こそが光の香りだ」と抱きしめられるまで~

しょくぱん
恋愛
「お前が部屋にいるだけで、吐き気がするほど臭うんだ。消えてくれ、無価値な置物め」 宮廷調香師のエルゼは、婚約者である王太子カイルから、あまりにも無慈悲な言葉で婚約破棄を言い渡される。 エルゼには、人の負の感情や国の歪みを「匂い」として吸着し、自らの香りに閉じ込めて浄化する力があった。 しかし、その身代わりの代償として彼女自身から漂う「泥の匂い」を、王太子は「不潔な悪臭」だと蔑み、華やかな香りを放つ義妹へと乗り換えたのだ。 着の身着のままで王都を追放されたエルゼ。 行き着いた先は、戦場での呪いにより視力と安らぎを失い、「腐臭が漂う」と恐れられる辺境伯ジークヴァルトの離宮だった。 「私の鼻はもう死んでいる。……君の匂いなど、どうせ分かりはしない」 孤独な二人が出会ったとき、エルゼの作る「祈りの香」が、彼の閉ざされた世界に光を灯していく。 一方、エルゼという『浄化の盾』を失った王宮では、抑え込まれていた瘴気が噴出し、かつてない地獄の悪臭が漂い始めていた――。 「今さら戻れと言われても、もう私の香りは、あなたのためには漂いません」 これは、自分の価値を信じられなかった少女が、盲目の英雄に愛され、最高の幸せを見つけるまでの物語。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

皇帝の命令で、側室となった私の運命

佐藤 美奈
恋愛
フリード皇太子との密会の後、去り行くアイラ令嬢をアーノルド皇帝陛下が一目見て見初められた。そして、その日のうちに側室として召し上げられた。フリード皇太子とアイラ公爵令嬢は幼馴染で婚約をしている。 自分の婚約者を取られたフリードは、アーノルドに抗議をした。 「父上には数多くの側室がいるのに、息子の婚約者にまで手を出すつもりですか!」 「美しいアイラが気に入った。息子でも渡したくない。我が皇帝である限り、何もかもは我のものだ!」 その言葉に、フリードは言葉を失った。立ち尽くし、その無慈悲さに心を打ちひしがれた。 魔法、ファンタジー、異世界要素もあるかもしれません。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

処理中です...