【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います

黒幸

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第13話 あのドレス、素敵だわ

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 帰り際にビカン先生は冬期休暇に入っても学園にいるから、いつでも訪ねてきていいと言ってくれた。
 先生は学園に住んでいるの? と不思議に思わなくもないが質問したら、怒られそうなのでお礼を言うだけでやめておく。

 帰りの馬車も居心地が悪かった。
 乗り心地まで悪く、感じたのは向かいのユナがずっと睨んでくるから。

 何が気に入らないのか、眉間に皺を寄せてる。
 言いたいことがあったら、我慢出来ない性格なのに何を我慢してるんだか。

 マリーとは軽く、二言三言だけど言葉を交わした。
 他愛のない会話。
 マリーはもうすぐ卒業する。
 卒業したら、次に待っているのはデビュタント。

 マリーは妹のあたしから、見ても美人だ。
 きれいで頭がいい自慢の姉。
 それは間違いない。

 でも、彼女が大好きなのは自分。
 あたしをかわいがるのも出来が悪い妹にそうしてる自分をよく思われたいだけなんだろう。
 彼女にとって、あたしはアクセサリーの一つのような物。
 そう考えたら、何だかスッキリした。
 変に愛を求めなければ、いいってことよね?

 だから、「あのドレス、素敵だわ」と社交辞令のように言った。
 マリーも「そうでしょ」と返すだけ。
 ホント、何でもないやり取り。

 素敵なのはホントだったから、嘘は言ってない。
 純白のボールガウンと絹の長手袋で憧れのお姫様になれるんだから、嫌いなはずない。
 デビュタントに向けて、あのお母様が気合を入れてたのもあって、ボールガウンがお姫様そのものなんだもん。

 まさか、この時の会話が原因になって、後で面倒なことになるとは思ってなかった……。



 夕食もエヴァを除いた全員が揃っていたけど、「今日はどうだった?」「何もないわ」といった程度の当たり障りのない会話がされただけだ。

 お母様とマリーから、期待を込められた視線がチラチラと送られていた気がする。
 そんな期待されても困るわ。
 あたしはもう期待するのもやめたし、期待に応えるのもやめたんだから。
 そういうのは仕切るのが得意なユナがやれば、いいのよ。

 食欲がないので部屋に戻りたいと言ったら、三人とも変な顔をしていたけど、あれはどういう意味なの?
 あたしには分からない。

 食欲がないと言ったけど、嘘。
 早く部屋に戻って、メモに書き込んで考えたかったのだ。

 先生の話だとエヴァの薬がベラドンナなのは事実でもしかしたら、どこに混ぜられているか、分からないってことだった。
 微量だったら、味の濃い物に混ぜられていたら、分からないらしい。
 あたしも飲んでるかもしれないし、誰が飲んでるか、分からない。
 誰がベラドンナを持ち込んだ犯人なのか、見当がつかないんだから。

 メモにそのことを書きこんで、考えてみたけどさっぱり、分かんない。
 こんなことしてたら遅くなって、厨房から誰もいなくなっちゃうかも。

 慌てて、厨房に向かうとまだ、料理長がお仕事をしてた。
 夕食の時、食べられなかったから、今頃になってお腹が空いてしまったと伝えるとすぐに用意してくれる。
 料理長のミハルはあたしが生れる前から、ずっとこの屋敷にいる。
 使用人の中でも最古参の人だけに融通を利かせてくれるのだ。

 部屋で食べたいと伝えたのでトレーの上に軽食を用意してくれた。
 時間が時間だけに野菜のスープとふわふわのオムレツしか、用意出来ないとミハルはすまなそうな顔をしていたけど、十分だ。

 自分で持っていくからと伝えると心配されたけど、これくらいはあたしだって、出来る!
 エヴァのところに持っていくのに、誰かについてこられるとまずいのだ。



「だから、薬は絶対、飲んじゃダメよ」
「うん。分かった」

 サイドテーブルには相変わらず、汚いグラスと水差しが置いてあったし、薬包もあった。
 エヴァは体が辛いのを無理して、飲んだ振りをしたようだ。

 そのせいで余計に疲れてるんだろう。
 ぐったりしてたけど、あたしが部屋を訪れると嬉しそうな顔をしてくれる。
 「これしか、用意出来なかったんだ」って、あたしの言葉にも「そんなことないよ。私、こんな美味しそうなスープ見たことないわ」と言ってくれた。

 辛そうなのであたしがエヴァに食べさせるという予定にない形になった。
 スープとオムレツをあっという間にペロリとたいらげたのにはビックリしたけど。
 それだけ、お腹が空いていたんだと思う。

 あまり長居しちゃうと見つかった時に面倒になりそうだから、短い時間しかいられなかったのは残念。
 でも、自分の部屋に戻って、エヴァのことを考えると何だか、温もりを感じられる。

 全てを諦めたのにちょっとだけど幸せを感じて、いい気分で夢の世界の住人になったあたしは明くる日に自分の身に起きることなんて、知らなかった。
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