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第24話 エミーにはまだ、熱いから危ないよ
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ロビーはあたしの顔を見て硬直してるけど、あたしまでそうなる訳にはいかない。
「失礼しました。ロベルト第二王子殿下」
型通りにカーテシーを決めて挨拶をしてから、三歩下がった。
あまりにも距離が近すぎる。
あれでは前のあたしと変わらない距離感になってしまう。
『それはダメよ』とあたしの中から警告を促す声が、上がった気がした。
単なる気のせいだとは思うけど。
「あ、ああ」
心無し、ロビーの声は震えてるように聞こえた。
きれいにカーテシーを決めたのが、そんなにショックなのかしら?
あたしだって、侯爵家の娘。
おまけにマリーという教科書のようなお手本が、姉として家にいたのだ。
彼女が優しくて、親切な姉だったのは事実だった。
そこに愛情が含まれてるのかは分かんない。
ただ、分かってることはマリーが一番、大好きなのは自分であるってことだけだ。
あたしに優しくしてくれたのは単なるマスコットやペットみたいなものだったんだと思う。
そして、ロビーは動かない。
微動だにしないのであたしも動くに動けない。
見つめ合うなんてロビーに迷惑だろうし、ありえないので逃げるように視線を泳がせるしかなかった。
嘘でしょ。
サーラはどうして、目をキラキラと輝かせてるの!?
ユリアンは倒れそうなくらいに青い顔になってる。
助けを求めようとセバスさんを見たら、『全部、分かってますぞ』と言わんばかりの目をしてるじゃない。
あれはいわゆる生温かく見守る視線!
「これは、これは。このようなところで立ち話をなさってはいけませんな。ここは吾輩にお任せくださいませ」
セバスさんが白い口髭をいじりながら、ニンマリという表現がピッタリな笑顔を浮かべてる。
これは逆らえない……。
セバスさんの指示の元、庭先にあっという間にお茶会の場がセッティングされた。
ガーデンテーブルと四脚のガーデンチェアーは金属製でおじい様の趣味の良さをうかがわせるものだ。
テーブルの上には紅茶と最近、流通し始めた珈琲とお茶請けのクッキーまで用意されてる。
あたしとサーラにはカットされた柑橘類が入った紅茶。
ロビーとユリアンには珈琲。
立方体の形をした白砂糖が入った小皿はあたしとサーラの前にだけある。
珈琲は苦い飲み物だと聞いたけど、二人は大丈夫かしら?
ちょっと心配になって、紅茶のカップを口につける振りをしつつ、様子を見たら予想通りだった。
あれは具合が悪い時のお薬を飲んだ人の顔と同じだ。
珈琲はどうやら、美味しくない飲み物みたい。
セバスさんがあたしにだけ、分かるように親指を立て、薄らと笑ってる。
『いかがですかな』とでも言いたげな顔をしてるところを見るとどうやら、砂糖なしの珈琲は男性陣への嫌がらせらしい。
さすがにかわいそうな気がした。
あたしとしてもここに長居をしてはいけないと思うのだ。
さっさと本題を切り出して、終わらせてあげよう。
「エヴァはここで看ていただけるとか?」
「ああ。見過ごす訳にはいかないからね。お祖父様も大層、お怒りだったよ」
ロビーは珈琲の苦さに顔をしかめながら、何とか飲もうと頑張ってるけど、熱くて飲めないらしい。
そういえば、ロビーは重度の猫舌だ。
そのくせ、「エミーにはまだ、熱いから危ないよ」とあたしのスープをふうふうと冷ましてくれる人だった。
その優しさを好意や愛情とあたしが勘違いするのに十分過ぎるほどに。
これくらい離れてる距離があたしには丁度、いいんだと思う。
「それでおじい様がいらっしゃらないんですね」
「そうなんだ。普段、怒らないお祖父様が『剣と鎧を用意せよ』と言い出して、王宮に向かおうとしたから、止めるのが大変だったよ。さすがに武装は思い止まってくれたけどね」
「そうだったんですね」
ユリアンとサーラはあたしとロビーのやり取りを固唾を呑んで見守るだけ。
合の手を入れるとか、何かしてくれた方がわたしは助かるのだけど。
まぁ、最初から決めていたことだし、引き伸ばす必要もないよね?
「それじゃ、安心したのであたしはここを出ようと思います」
「は? あちっ」
「え?」
「お?」
あからさまに慌てて、ロビーはつい熱い珈琲を口に含んだのか、目を白黒させてる。
ユリアンとサーラまで急に反応を見せるのはどうしてなの?
「ど、ど、どうしてなんだ、エミ……なぜ、ここを出るんだい? エヴァもいるのだし、ここにいていいじゃないか」
ロビーのこの慌てっぷりは何なんだろう。
考えるのが苦手なあたしにしてはちゃんと考えて、導き出した結論だった。
あたしがここにいたら、そのことが耳に入ってしまうに違いない。
別行動を取るのが一番だし、原因を突き止めない限りはあたし達が家に帰るなんて出来ないのだ。
「学園に行って、まずはビカン先生に相談したいと思うんです。それから、どうするかは決めようと思ってます」
あたしはまず、ビカン先生に話を聞いてもらうべきと考えた。
先生は頼りになる大人だし、毒のことも先生のお陰で分かったからだ。
「ビカン先生か。分かった。僕が君を学園まで送るよ。問題はないね?」
「あ? え、ええ。問題ないです?」
どうやら復活したらしいロビーが急に真顔でそんなことを言いだすから、ビックリしちゃった。
カブリオレだとロビーと二人きりだから、問題が大ありな気がするんだけど。
とても断れる空気ではなかった。
「失礼しました。ロベルト第二王子殿下」
型通りにカーテシーを決めて挨拶をしてから、三歩下がった。
あまりにも距離が近すぎる。
あれでは前のあたしと変わらない距離感になってしまう。
『それはダメよ』とあたしの中から警告を促す声が、上がった気がした。
単なる気のせいだとは思うけど。
「あ、ああ」
心無し、ロビーの声は震えてるように聞こえた。
きれいにカーテシーを決めたのが、そんなにショックなのかしら?
あたしだって、侯爵家の娘。
おまけにマリーという教科書のようなお手本が、姉として家にいたのだ。
彼女が優しくて、親切な姉だったのは事実だった。
そこに愛情が含まれてるのかは分かんない。
ただ、分かってることはマリーが一番、大好きなのは自分であるってことだけだ。
あたしに優しくしてくれたのは単なるマスコットやペットみたいなものだったんだと思う。
そして、ロビーは動かない。
微動だにしないのであたしも動くに動けない。
見つめ合うなんてロビーに迷惑だろうし、ありえないので逃げるように視線を泳がせるしかなかった。
嘘でしょ。
サーラはどうして、目をキラキラと輝かせてるの!?
ユリアンは倒れそうなくらいに青い顔になってる。
助けを求めようとセバスさんを見たら、『全部、分かってますぞ』と言わんばかりの目をしてるじゃない。
あれはいわゆる生温かく見守る視線!
「これは、これは。このようなところで立ち話をなさってはいけませんな。ここは吾輩にお任せくださいませ」
セバスさんが白い口髭をいじりながら、ニンマリという表現がピッタリな笑顔を浮かべてる。
これは逆らえない……。
セバスさんの指示の元、庭先にあっという間にお茶会の場がセッティングされた。
ガーデンテーブルと四脚のガーデンチェアーは金属製でおじい様の趣味の良さをうかがわせるものだ。
テーブルの上には紅茶と最近、流通し始めた珈琲とお茶請けのクッキーまで用意されてる。
あたしとサーラにはカットされた柑橘類が入った紅茶。
ロビーとユリアンには珈琲。
立方体の形をした白砂糖が入った小皿はあたしとサーラの前にだけある。
珈琲は苦い飲み物だと聞いたけど、二人は大丈夫かしら?
ちょっと心配になって、紅茶のカップを口につける振りをしつつ、様子を見たら予想通りだった。
あれは具合が悪い時のお薬を飲んだ人の顔と同じだ。
珈琲はどうやら、美味しくない飲み物みたい。
セバスさんがあたしにだけ、分かるように親指を立て、薄らと笑ってる。
『いかがですかな』とでも言いたげな顔をしてるところを見るとどうやら、砂糖なしの珈琲は男性陣への嫌がらせらしい。
さすがにかわいそうな気がした。
あたしとしてもここに長居をしてはいけないと思うのだ。
さっさと本題を切り出して、終わらせてあげよう。
「エヴァはここで看ていただけるとか?」
「ああ。見過ごす訳にはいかないからね。お祖父様も大層、お怒りだったよ」
ロビーは珈琲の苦さに顔をしかめながら、何とか飲もうと頑張ってるけど、熱くて飲めないらしい。
そういえば、ロビーは重度の猫舌だ。
そのくせ、「エミーにはまだ、熱いから危ないよ」とあたしのスープをふうふうと冷ましてくれる人だった。
その優しさを好意や愛情とあたしが勘違いするのに十分過ぎるほどに。
これくらい離れてる距離があたしには丁度、いいんだと思う。
「それでおじい様がいらっしゃらないんですね」
「そうなんだ。普段、怒らないお祖父様が『剣と鎧を用意せよ』と言い出して、王宮に向かおうとしたから、止めるのが大変だったよ。さすがに武装は思い止まってくれたけどね」
「そうだったんですね」
ユリアンとサーラはあたしとロビーのやり取りを固唾を呑んで見守るだけ。
合の手を入れるとか、何かしてくれた方がわたしは助かるのだけど。
まぁ、最初から決めていたことだし、引き伸ばす必要もないよね?
「それじゃ、安心したのであたしはここを出ようと思います」
「は? あちっ」
「え?」
「お?」
あからさまに慌てて、ロビーはつい熱い珈琲を口に含んだのか、目を白黒させてる。
ユリアンとサーラまで急に反応を見せるのはどうしてなの?
「ど、ど、どうしてなんだ、エミ……なぜ、ここを出るんだい? エヴァもいるのだし、ここにいていいじゃないか」
ロビーのこの慌てっぷりは何なんだろう。
考えるのが苦手なあたしにしてはちゃんと考えて、導き出した結論だった。
あたしがここにいたら、そのことが耳に入ってしまうに違いない。
別行動を取るのが一番だし、原因を突き止めない限りはあたし達が家に帰るなんて出来ないのだ。
「学園に行って、まずはビカン先生に相談したいと思うんです。それから、どうするかは決めようと思ってます」
あたしはまず、ビカン先生に話を聞いてもらうべきと考えた。
先生は頼りになる大人だし、毒のことも先生のお陰で分かったからだ。
「ビカン先生か。分かった。僕が君を学園まで送るよ。問題はないね?」
「あ? え、ええ。問題ないです?」
どうやら復活したらしいロビーが急に真顔でそんなことを言いだすから、ビックリしちゃった。
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とても断れる空気ではなかった。
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