聖女様の仰せのままに

黒幸

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聖女候補

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 アルセーヌの報告を受け、国王テオドールを始めとした王国の重鎮は即断する。
 迅速な対応を取るのに迷いがなかった。
 徹底ぶりは尋常でなく、暗部で表舞台に上がらない影を密使として、使うほどだ。
 主に貴族に向けて、派遣された密使は王の厳命を方々に伝えた。
 正式な印章が押された命令書には事細かにどのような対応すべきなのかが記されている。
 聖女のどのように振る舞おうと一切の疑問を感じさせないように応じよ、というのがその最たるものだった。

 密使にはもう一つの役目があった。
 命に従わない者が現れた場合、適切な処置を下す。
 それが彼らに与えられた密命である。
 その為、特別に現場での裁定権が許可された。
 影は黙々と従う。
 一切の感情などを捨て、冷徹に。

 ここで重要なのは命に記されているのが聖女ではなく、聖女と複数形な点である。
 サクリア・オネットとして目覚めた美夏が、勘違いしていたのは自らが聖女ではなく、単に候補に過ぎないという事実だけでなく、聖女候補と呼ばれる人物が最低でも三人いることだった。

 一人目の候補は第二王子の婚約者候補であり、最有力候補と見做されていたサクリア・オネット。
 もっとも人に対して、友好的で見守ってくれる女神が特に目を掛けていたとされるサクリアだが、突然の病により白紙となった。
 代わりに目を付けたのが人に友好的な一面を見せながら、人を人と思っていない神だった。
 彼の神の裁定により、サクリアの失われた魂の代用として、美夏の魂が入れられたのだ。

 二人目の候補もまた、病により運命が変わった令嬢――マリー・ジャンヌ・ナスリ。
 ナスリ伯爵家の令嬢マリーは幼少期、病を発し、療養の為に訪れた辺境地で魔物に片腕を食い千切られた過酷な過去を持つ。
 隻腕であるがゆえに闘争を愛する黒き猫の女神に愛されたマリーの異名は鉄腕のジャンヌだった。
 不幸中の幸いでサクリアとマリーは未だ、邂逅していない。

 三人目の候補はこれまで一切、社交界に出たことがない深窓の令嬢ステファニー・プラティニ。
 ステファニーは建国以来の功臣であるプラティニ侯爵家の養女である。
 元々はであるステファニーは、とある由により養子に出された。
 その由ゆえに引き取ろうと申し出る家が忠誠心厚きプラティニ家しかなかった。
 プラティニ家に手厚く迎えられたステファニーは以来、一切、表舞台に立っていない。
 幻の妖精姫と呼ばれているが、誰もその姿を見た者はおらず、単なる憶測で噂が広まっている。
 曰く、盲目の美しき少女であるとか、見るのも憚れるほど醜いのだとか、根も葉もない話である。

 マリー同様にステファニーとサクリアにも接点らしい接点はない。
 しかし、全く関係性がないという訳ではないのだ。
 婚約者目前と言われたアルセーヌがなぜか、向かった先がプラティニ侯爵家の屋敷だった。
 事情を知るアルセーヌはそれとはなく、事情を窺われようとも意味深に薄ら笑いを浮かべるだけで取り合わなかった。

 美夏――サクリアは自分一人が聖女であると思い込んだまま、ゆっくりと沈む沼に足を踏み入れたことに気付いていない……。
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