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仰せのままに1
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美夏がサクリアになってから、一ヶ月。
若干、記憶の齟齬が認められる以外は健康体であると診断され、サクリアは倒れる前の彼女が通っていた王立学院に復帰した。
ここまでオネット邸内で情報収集と分析に徹していたサクリアに抜かりはない。
美夏だった頃、勉強嫌いで苦手だが好きなことには拘る性質とネット小説を読み耽り蓄えた知識が強く、影響していた。
一ヶ月間、第二王子アルセーヌは欠かさず、オネット家を訪れていた。
アルセーヌは闇夜を思わせる漆黒の髪とサファイアのような美しい瞳が強い印象を与える整った顔立ちの美青年である。
立ち姿は絵に描いたような王子様そのものだったこともあり、サクリアは満足していた。
アルセーヌが必ず、黄色い花弁の百合の花束を手に気を持たせる言葉を紡いでくれることに……。
サクリアが入手した情報では女神を象徴する花は百合である。
メイドから、アルセーヌとサクリアが恋仲だという話も聞き出していた。
決して、己の勘違いではないとサクリアが思い込むのも仕方ないことだった。
もしも黄色い百合の花言葉を知っていたのなら、ある程度の警戒心を抱き、後の悲劇を回避できたのかもしれない。
だが、そうではなかった。
サクリアの思い込みと勘違いをさらに加速させたのが、学院での丁重過ぎる扱いも影響している。
ネット小説の知識があるだけに調子に乗れば、ざまぁされる可能性があることを知らない美夏ではない。
その為、当初は自重した行動を心掛け、できるだけおとなしくしていた。
空気を読むのに慣れた美夏は猫を被っていたのである。
メッキのお嬢様であるものの体が覚えているのか、所作を自然にこなせたこともあり、ばれることはなかった。
しかし、学院でお姫様のように何をしても許される日々が続くと元来、集中力がない美夏の警戒心は揺らいでいた。
「あの人は誰?」
その日、サクリアは学院で気になる人物を見かけた。
折からの風で軽やかに舞う銀糸のように繊細な髪と宝石箱から取り出したような黄金色をした瞳の少年だった。
(王子様ほどじゃないけど、イケメンじゃん)
サクリアが目を付けた少年に目を留めているのに気付いた令嬢の一人ティファニー・グリーズマンが、そっと囁いた。
「あの方はカントナ公爵家の御令息エヴラール様ですわ」
「エヴラール。ふぅ~ん」
既にサクリアは猫を被ることを忘れ、無自覚のうちに傲慢な態度をにじませていた。
囁いた令嬢の実家グリーズマン家の爵位は侯爵だ。
格上であるにも関わらず、サクリアは一切、気にしていない。
内心で見下されていると分かっていながら、ティファニーは表情一つ変えず、怒りもしなければ、抗議の声も上げない侯爵家令嬢はさすが高位の貴族の家の者にふさわしい態度だった。
もっともティファニーは好き好んでサクリアの学友を自称しているのではない。
そうしなければ、ならないがゆえに彼女は無に徹していたのである。
グリーズマン家を密使が訪れた際、偶々、同席したティファニーは彼ら密使の恐ろしさを垣間見たからだ。
腐臭にも似た異臭を放ち、どこからか聞こえる獣の唸り声。
賜った下命を違えれば、どのような目に遭うのか、分からない。
不条理な恐怖にティファニーは怯え、家を守るべく自ら、監視の任を申し出たのだった。
ティファニーから、エヴラールの人となりと詳細を聞いたサクリアはほくそ笑んだ。
とても聖女候補とは思えない邪な笑みだ。
(ちょっと遊ぶ相手にはピッタリじゃない)
薄らと微笑み、「その通りですわ。仰せのままに」と侍るティファニーの表情が、貴族社会で生き抜く為に鍛えられたうわべだけのものであることをサクリアは知らない。
アルセーヌが見せる魅惑的な表情も王子様然とした爽やかな笑顔が、うわべだけのものであることにも気付いていない。
若干、記憶の齟齬が認められる以外は健康体であると診断され、サクリアは倒れる前の彼女が通っていた王立学院に復帰した。
ここまでオネット邸内で情報収集と分析に徹していたサクリアに抜かりはない。
美夏だった頃、勉強嫌いで苦手だが好きなことには拘る性質とネット小説を読み耽り蓄えた知識が強く、影響していた。
一ヶ月間、第二王子アルセーヌは欠かさず、オネット家を訪れていた。
アルセーヌは闇夜を思わせる漆黒の髪とサファイアのような美しい瞳が強い印象を与える整った顔立ちの美青年である。
立ち姿は絵に描いたような王子様そのものだったこともあり、サクリアは満足していた。
アルセーヌが必ず、黄色い花弁の百合の花束を手に気を持たせる言葉を紡いでくれることに……。
サクリアが入手した情報では女神を象徴する花は百合である。
メイドから、アルセーヌとサクリアが恋仲だという話も聞き出していた。
決して、己の勘違いではないとサクリアが思い込むのも仕方ないことだった。
もしも黄色い百合の花言葉を知っていたのなら、ある程度の警戒心を抱き、後の悲劇を回避できたのかもしれない。
だが、そうではなかった。
サクリアの思い込みと勘違いをさらに加速させたのが、学院での丁重過ぎる扱いも影響している。
ネット小説の知識があるだけに調子に乗れば、ざまぁされる可能性があることを知らない美夏ではない。
その為、当初は自重した行動を心掛け、できるだけおとなしくしていた。
空気を読むのに慣れた美夏は猫を被っていたのである。
メッキのお嬢様であるものの体が覚えているのか、所作を自然にこなせたこともあり、ばれることはなかった。
しかし、学院でお姫様のように何をしても許される日々が続くと元来、集中力がない美夏の警戒心は揺らいでいた。
「あの人は誰?」
その日、サクリアは学院で気になる人物を見かけた。
折からの風で軽やかに舞う銀糸のように繊細な髪と宝石箱から取り出したような黄金色をした瞳の少年だった。
(王子様ほどじゃないけど、イケメンじゃん)
サクリアが目を付けた少年に目を留めているのに気付いた令嬢の一人ティファニー・グリーズマンが、そっと囁いた。
「あの方はカントナ公爵家の御令息エヴラール様ですわ」
「エヴラール。ふぅ~ん」
既にサクリアは猫を被ることを忘れ、無自覚のうちに傲慢な態度をにじませていた。
囁いた令嬢の実家グリーズマン家の爵位は侯爵だ。
格上であるにも関わらず、サクリアは一切、気にしていない。
内心で見下されていると分かっていながら、ティファニーは表情一つ変えず、怒りもしなければ、抗議の声も上げない侯爵家令嬢はさすが高位の貴族の家の者にふさわしい態度だった。
もっともティファニーは好き好んでサクリアの学友を自称しているのではない。
そうしなければ、ならないがゆえに彼女は無に徹していたのである。
グリーズマン家を密使が訪れた際、偶々、同席したティファニーは彼ら密使の恐ろしさを垣間見たからだ。
腐臭にも似た異臭を放ち、どこからか聞こえる獣の唸り声。
賜った下命を違えれば、どのような目に遭うのか、分からない。
不条理な恐怖にティファニーは怯え、家を守るべく自ら、監視の任を申し出たのだった。
ティファニーから、エヴラールの人となりと詳細を聞いたサクリアはほくそ笑んだ。
とても聖女候補とは思えない邪な笑みだ。
(ちょっと遊ぶ相手にはピッタリじゃない)
薄らと微笑み、「その通りですわ。仰せのままに」と侍るティファニーの表情が、貴族社会で生き抜く為に鍛えられたうわべだけのものであることをサクリアは知らない。
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