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仰せのままに2
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カントナ公爵家は数代前の王家から枝分かれした分家の一つであり、王国屈指の名家である。
ヴェンゲル王家の者は特殊な力を授かることこそ、本分とされている。
しかし、現在の第一王子にして王太子マキシムは金色の髪で第二王子アルセーヌは黒髪である。
ある意味、容姿に統一性のないこと自体が特徴とも言える。
一方のカントナ家は代々、統一されたように特徴的な容姿を受け継いでいる。
シルバーブロンドの髪色と猛獣を思わせる金色の瞳だ。
一見すると優美な容姿に見え、確かに整った容貌である。
ただし、この一族は見た目に反し、苛烈な性格の者が非常に多い。
現当主の次男エヴラールもまた、例に漏れず、激しい性格をしている。
苛烈さから、カントナの銀狼と呼ばれているほどだ。
燃え上がる炎にも例えられる激しさは他者を巻き込みかねない危険なものだったが、幸いなことに婚約者の存在が抑止力となっていた。
穏やかで常に笑みを絶やさない婚約者の名はブリジット。
リザラズ侯爵家の一人娘なのでエヴラールはリザラズ家への婿入りが決まっている。
炎と水のように対照的な性格をしている二人だが意外なことに相性が良く、エヴラールはブリジットの言うことであれば、何でもはいはいと二つ返事で引き受けるほどである。
そのせいか、ブリジットは猛獣使いと友人に揶揄われるが本人は一切、気にしていない。
同い年の婚約者であるにも関わらず、二人の関係は少々、歪である。
ブリジットはエヴラールを聞き分けのない弟としか思っていない。
エヴラールが誰の目にも明らかなほど、ブリジットを溺愛し、他者を牽制する素振りを見せているのにブリジットは全く、意識していない。
「また、やんちゃなことをなさっているのね」
軽い言葉でさらっと流してしまうブリジットの天然振りに周囲がやきもきしている。
そのような蜜月を過ごしている婚約者がいるエヴラールによりにもよって、目を付けたのが聖女候補たるサクリアだった。
「ねぇ、エル。買い物したいから、付き合ってよ」
「……ぐっ。仰せのままに」
一瞬、牙を剥きかけたがふと視線の合ったブリジットに「めっ」と言われている気がしたエヴラールは、すんでのところで己を抑えた。
許しもしていない愛称呼びと格下でありながら、ぞんざいなサクリアの態度にエヴラールがいつ爆発するのかと周囲は冷や冷やしているが、見守るしかなかった。
もしもサクリアが聖女候補でなければ。
王家から密使が派遣されていなければ。
相手が女性であろうがブリジット以外の者には全く、容赦がないエヴラールである。
下手すれば、殴り倒していてもおかしくない。
エヴラールとはそういう男なのだ。
そして、例え激昂して、そうしたとしても許されるだけの権利を持つ高貴な血筋だった。
そんなエヴラールが自我を押さえ、「仰せのままに」とサクリアのなすがままである。
何もエヴラールに限ったことではなかった。
オネットの屋敷においても学院においても、全てはサクリアが望むがままになっていたのだ。
ヴェンゲル王家の者は特殊な力を授かることこそ、本分とされている。
しかし、現在の第一王子にして王太子マキシムは金色の髪で第二王子アルセーヌは黒髪である。
ある意味、容姿に統一性のないこと自体が特徴とも言える。
一方のカントナ家は代々、統一されたように特徴的な容姿を受け継いでいる。
シルバーブロンドの髪色と猛獣を思わせる金色の瞳だ。
一見すると優美な容姿に見え、確かに整った容貌である。
ただし、この一族は見た目に反し、苛烈な性格の者が非常に多い。
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苛烈さから、カントナの銀狼と呼ばれているほどだ。
燃え上がる炎にも例えられる激しさは他者を巻き込みかねない危険なものだったが、幸いなことに婚約者の存在が抑止力となっていた。
穏やかで常に笑みを絶やさない婚約者の名はブリジット。
リザラズ侯爵家の一人娘なのでエヴラールはリザラズ家への婿入りが決まっている。
炎と水のように対照的な性格をしている二人だが意外なことに相性が良く、エヴラールはブリジットの言うことであれば、何でもはいはいと二つ返事で引き受けるほどである。
そのせいか、ブリジットは猛獣使いと友人に揶揄われるが本人は一切、気にしていない。
同い年の婚約者であるにも関わらず、二人の関係は少々、歪である。
ブリジットはエヴラールを聞き分けのない弟としか思っていない。
エヴラールが誰の目にも明らかなほど、ブリジットを溺愛し、他者を牽制する素振りを見せているのにブリジットは全く、意識していない。
「また、やんちゃなことをなさっているのね」
軽い言葉でさらっと流してしまうブリジットの天然振りに周囲がやきもきしている。
そのような蜜月を過ごしている婚約者がいるエヴラールによりにもよって、目を付けたのが聖女候補たるサクリアだった。
「ねぇ、エル。買い物したいから、付き合ってよ」
「……ぐっ。仰せのままに」
一瞬、牙を剥きかけたがふと視線の合ったブリジットに「めっ」と言われている気がしたエヴラールは、すんでのところで己を抑えた。
許しもしていない愛称呼びと格下でありながら、ぞんざいなサクリアの態度にエヴラールがいつ爆発するのかと周囲は冷や冷やしているが、見守るしかなかった。
もしもサクリアが聖女候補でなければ。
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相手が女性であろうがブリジット以外の者には全く、容赦がないエヴラールである。
下手すれば、殴り倒していてもおかしくない。
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そして、例え激昂して、そうしたとしても許されるだけの権利を持つ高貴な血筋だった。
そんなエヴラールが自我を押さえ、「仰せのままに」とサクリアのなすがままである。
何もエヴラールに限ったことではなかった。
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