【完結】悪役令嬢が起こした奇跡〜追放されたのに皆様がわたくしを探しているらしいですわ〜

ウミ

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神官長

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「ーー貴女様のお名前を教えてくだされ!」

 早く我が物にせねば!

 そう、急いたのが良くなかったのであろうか。なんとも情けないことに、儂の一言は公爵家の小娘によって遮られた。

「真名を名乗ってはならないのをご存知ないのですか?」

 その一言で、精霊の愛子は口をつぐんでしもうた。

「第二の名をお名乗りください」

 読めない笑みを浮かべた小娘に、愛子は安心したように笑みを浮かべて「アキ」と名乗った。

 せっかく神官長ではなく教皇になれるやも知れぬ機会を逃したのだ。ハラワタが煮え繰り返るほど憎く思う儂のことを誰が責められようか?

「神官長よ、アキ様は我が国で保護させてもらう」

 我が教会の言いなりであったはずの取るに足らぬ小国に頭を下げ、何もいえぬ日が来るとは誰が思おうか?

 今回の精霊の愛子はどこか違う。強力な力を秘めておった。神官だけが与えられる、第三の眼。それを通せば、愛子から恐ろしいほどの神力が溢れ出ているのがよく分かった。

「あの小娘が……でしゃばりおって」

 教会本部からは、なんとか愛子から真名を聞き出すようにと指令がくる。しかし、儂が愛子と会おうと奮闘する間も公爵家の小娘は易々と愛子へとあっていた。

「精霊の愛子にお会いしたく……」

「まだアキ様はこの世界に慣れてはおりません。最低限の人以外接触は保っております」

「ならば、触媒だけでも……」

 懐から出した金貨を騎士に持たせる。

「分かりました、ここに」

 スッと絹に包まれた、一本の濡羽色の髪の毛。それは、この世界どこを探しても見つからない全属性に対応する触媒なのだ。

 この儂が、騎士如きに頭を下げて……っ!

「失礼しますわ」

「っ! ルビー様。お通りください」

 スッと儂の横を通り過ぎる影。見れば、紺色の娘が騎士に恭しく案内されていた。

 儂が、儂が、儂こそがあの対応を受けるに相応しいはずだ!!!!

「小娘が……今に見ておれっ!!!!」

 数日後、この国の皇子があの小娘との婚約を取りやめ、愛子と結ばれるかもしれないと知った時、儂は歓喜した。

 この際、嫉妬に駆られた公爵令嬢が愛子を虐げたとでも言いふらしてやろうか。そして、その考えはいい考えに思えた。

「ふぉふぉふぉふぉふぉ」

 ストレスで禿げた頭も、何故か長年気づかなかった虫歯によって歯がなくなっても、儂はこのためにこの不幸があったのだと喜んだ。

 そして、あの小娘に悪魔が憑いた。という知らせにさらに喜んだ。

「ふぉーふぉふぉふぉふぉふぉ! っぐ、ゲホ!」

「神官長、大丈夫ですか」

「ごほんっ、大丈夫じゃ」

 歓喜して歓喜して歓喜しまくった。痛む腰を放って、勝利の雄叫びもあげた。じゃが、違った。

「急いで公爵令嬢の元へ向かうのじゃ」

「はっ」

 喜び勇んで愛子を保護したが故に不幸になった小娘の顔を拝んでやろうと向かった公爵邸。

「これは、どういうことじゃ!?」

「おお、神官長殿! ルビーの、ルビーの魔力が無くなったのです。これは悪魔に憑かれとしか思えません」

 公爵が恐怖に満ちた顔で、儂に助けを求めてくる。儂も、動けなかった。

 恐ろしい。

「やはり、娘は悪魔に……」

 そんなわけがない。

 儂は事の重大さに目を背けた。

「儂は帰る。お前、絶対に真のことを言うでないぞ」

「はひ!?」

 儂と同じく第三の眼を持つ神官は、涙目で頷いた。

 なんとも恐ろしい。何故、精霊の愛子でもないただの公爵令嬢が神力を持っている!? それも、愛子と同じぐらいの量で、溢れんばかりにあの小娘の体内で渦巻いていた。

 なんと言うことだ。あり得ない。あり得るはずがない。この世界の人間が神の寵愛を受けるなど!!!!

「おお、恐ろしや」

 帰りの馬車の中で、儂はただ、ガタガタと震えるだけだった。その後、悪魔憑きとされた小娘が愛子の元へ送られ、愛子をこの世から消したと報告があった。だが、儂には分かった。

「愛子は消させたのではない。の世界へ戻ったのだ」

 教皇にだけは報告しとかなければ、儂は敬遠なる神の使徒なのだから……

○○○

 数日後、この手紙は教皇の元へと届いた。

「はぁ、なんとも面倒なことに」

「も、申し訳ございません!」

 ダラダラと顔を青くして謝罪するのは、あの神官長の下にいる神官だ。

「その公爵令嬢の真名は?」

「そ、それが、公爵に幾度聞いても答えてもらえず……」

「なるほど……」

 教皇は困ったように首を傾げた。

「しかし、あの公爵。娘のことをあまり愛していなかったのでは?」

「い、いえ、それが……」

 亡き妻が現れて、改心した。あり得ない話。しかし、そのせいで真名を知る事ができない。

「もう下がってよろしい。あぁ、僕の言いたいことは分かりますよね?」

「へ?」

「分からないのですか?」

「あ、いえ! すすす、直ぐにでも公爵令嬢を探し出してまいります」

 にっこりと頷いた教皇は、慌てて出ていく神官の後ろ姿を嗤って見送った。

「まぁ、すぐ見つかるでしょう」

 シャラリと頭部につけられた飾りが音を立てて揺れるーー
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