【完結】悪役令嬢が起こした奇跡〜追放されたのに皆様がわたくしを探しているらしいですわ〜

ウミ

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「私は結婚しているんですの。夫が泣きますわ」

 馬車で王都まで1週間ほどかかる。ビオラはその期間、何度も騎士と話し合いをしようとした。

「あー、そうですか。でもですね、そんな人は珍しくないんですよ。大方、周囲の嫉妬で誰かが妃募集に応募したんでしょう。俺だって、仕事じゃなけりゃアンタを襲ってたぞ」

「~~っ!」

 チラリと焚火をするために準備をしていた騎士に舐めるような視線を向けられ、ビオラの肌にゾワリと鳥肌がたつ。

「あーあ、ご安心ください。アンタがそりゃ絶世の美女である事は分かります。手は出しませんよ。出したのがバレたら首がとんじまうんだ。実際にそうなった奴は何人もいる」

 つまり、妃を連れてくる途中で無体を働いた騎士がいたという事だ。

「まぁ、俺は早死にしたくないんでね。はい、お話は終わりだ。それ以上喋るな」

 ビオラの話を聞こうともせず、一方的に話しギロリと睨みつける騎士。ここ3日ほど、ずっとそんな感じだった。つまり、ビオラが何を言おうと聞かないのだ。

(リン、今どこなの?)

『今は隣村を出たところだ。ガラパとかいうやつに足止めを食らっていた』

 その男が今この事態を引き起こした張本人なのだろう。

(っ! 気をつけて)

 助けを求めたリンも、馬に乗れないために徒歩で馬車を追うことになってしまっていた。隣村といえば、2日ほど前に過ぎたところだ。このままリンの助けを待っていては間に合わない、そう断じたビオラは今日中にこっそりと逃げることにした。

(リン、やっぱり逃げるわ)

『危ないからダメだ』

(でも、私王都に行ったら他の人の妻候補になるのよ? そんなの嫌だわ。私はリンの妻だもの)

 ビオラとて危険は承知しているのだ。リンの心配する声を心の支えに、ビオラは今夜逃げようと決心するのだった。

 先程までキッと睨みつけていた美女が、フッと視線を彷徨わせ心ここに在らずといった表情をする。この美女の護送を任された騎士、ラオスはそれが不気味でならなかった。

(精神をやったのか)

 それなら報告しなければならない。しかし、この美女、スミレはその状態から戻った後何事もなかったかのように振る舞う。つまり、精神を病んだのかどうかまだハッキリしないのだ。

 演技ならば、素晴らしいものだ。しかも、美女はどんな表情でも様になる。精神を病んだかのように見えるあの表情だって、まるで神から啓示を受けている途中のようにも見えなくはないのだ。

(夫の方は気の毒だが、こんな美人なら嫉妬する奴が出てきてもおかしくない。目の色と髪がプラチナブロンドなんてまるで聖女の様だしな。王子にももしかしたら気に入れられるかもしれないと思ったんだろうな)

 あながち間違いでもないかもしれない。スミレにしたら不幸かもしれないが、それでも妃になれば贅沢な暮らしができる。夫を忘れる事ができるなら、悪くないだろう。

「そろそろ宿に着く」

「……」

 睨んだまま返事をしないスミレを無理矢理馬車に乗せ、騎士は馬に鞭を入れるのだった。
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