荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼

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第200話【アレの顛末と新たな門出】

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「そういえば、今この男の立場はどうなっているのでしょうか?」

 僕は一番気になっていた事をマグラーレに問いかける。

「君の導き出した新たなギルド便のおかげでテンマ運送は弱体の一途をたどっている。
 本来ならばこの程度のことならば話し合いでいくらでも棲み分けができたはずなのだが奴らはムキになってこちらを潰そうとしてきたのだよ。
 私の商会だけならばともかくギルドが一枚噛んでいるものに噛みつくのは愚か者のやる事だ」

「では、今はもう以前のような影響力は無いのですね」

「そうだ。
 テンマートの奴も性格は悪いが手腕のあった息子が行方不明となり何処を探しても手がかりひとつ無かったことに気落ちしていたようだ」

「あんな男でも可愛い息子だったのでしょうかね」

 僕はテーブルに置かれたザガンのカードを見ながらそう言った。

「本来ならば娘に手を出したこの男をただで許すわけにはいかないがこのまま闇に葬るのも寝覚めが悪いからな。
 そうだ、君にはひとつ聞いておきたかったのだがこの男のカード化を解いた時、この男の記憶などはどうなっているのか分かるか?」

「カード化されている時は時間も止まっていますので彼の記憶は彼女の店で彼女を襲っていた時のままでしょう」

「そうか、ならば彼には反省をして貰わなければならないな。
 すまないが地下の独房室で彼を戻してはくれないか?
 私がしっかりと教育をしなおす事にしよう」

「分かりました。
 僕は姿を見せない方が良さそうですので少し離れた場所で待機をしたいと思います」

 僕はそう告げてザガンのカードを持つとマグラーレに連れられて地下の部屋へと向かった。

「――ここで頼む」

「分かりました。
 ではカードを部屋の中に置いて僕は死角の位置からカードの開放をします」

「ん」

 マグラーレの肯定を待って僕は独房室の中に居るザガンのカード化を解いた。

「――なんなんだ貴様! 殺す! 殺してやるぞ!」

 カード化から解かれたザガンはいきなりそう言って吠える。

「――ほう。
 私を殺すというのか。
 それは面白い冗談だ」

 時間停止前の記憶を持ったザガンはその想いをそのままに目の前の人物の確認も無しにそう叫んだが突然の強い殺気に我に返って怒鳴りつけた相手を見た。

「マ、マグラーレ殿!? 何故ここに!?」

「何故と言われても私が自分の屋敷に居ることがそんなにおかしな事なのかね?」

 ザガンはそう言われてはじめて自らの状況がおかしい事に気がついた。

「ここがマグラーレ殿の屋敷? ロギナスの小さな支店じゃないのか? それにこの部屋は?」

 いくつもの疑問を抱えながらもザガンは混乱する頭で理解をしようと試みる。

「いくら考えても答えは出ないと思うよ。
 そもそも君は彼の能力を理解できていないのだから」

「彼の能力……だと?」

 ザガンはそう言われて直前に部下が突然消えた事を思い出して呟いた。

「まさか、俺は奴に捕らえられていたというのか?」

「ほう、僅かな記憶からその結論に行き着くか。頭はそれなりに回るようだが全く愚かな事をしたものだ」

 マグラーレはため息をついてザガンに言い放つ。

「お前が愚かな行為をしてから既に1年以上の時が過ぎ、後継者が所在不明となったテンマートは最初こそ虚勢を張っていたが半年もすると急速に衰え既に商会を他へ譲ったようだ。
 お前のような愚息でも彼にとっては大切な息子だったようだな」

「そんな!? テンマ運送は我が国最大の運送商会だぞ!? そんな馬鹿な話があるか!」

「残念だが現実だ。
 本来ならば私はお前の事を八つ裂きにしたい気持ちで一杯だが落ちぶれたテンマートにせめてもの希望が残るように手配をしてやろう。
 ただし、二度と表舞台には立てないと思え」

 親の権力も失い、今まで好きに振る舞ってきた自らの報いをザガンは呆然とした表情でうなだれながら聞いていた。

「――あれで良かったのですか?」

 事の顛末を聞いた僕はマグラーレにそう問いかけた。

「君のおかげで娘も無事だからな。
 今回の件も併せてテンマートに恩を売って余計な手を出せないようにしておくさ。
 さて、この件は私に任せてくれたらいいから本題の話を聞くとしようか」

 今回のマグラーレへの訪問はザガンの事もあったが本題は別にありそれはこれからの僕とノエルの行動に関するものだった。

   *   *   *

「――これがいま僕たちが話し合って決めた全てになります」

 その後、僕はノエルも交えてマグラーレに今後の行動説明の詳細を話した。

「なるほど、マグラーレ商会には所属せずに独立した商会を立ち上げるということだな」

「はい。
 ですがマグラーレ商会の仕事とはほとんど被りませんし半分は冒険者としての仕事になるかと思っています」

「確かに君のいう事が本当に可能ならば冒険者ギルドとしても依頼をしたい者で溢れるかもしれんな」

 マグラーレはソファに深く座り込むと大きなため息をついてから僕たちに告げた。

「分かった、許可しよう。
 そして、各地を回り仕事を受ける際に必要ならば我が商会の名前を使うことも許可する。
 いくら独立しようとも可愛い娘の嫁ぐ先だ、我が商会の名前が役に立つこともあるだろうし、もしも資金が必要ならば支店に話せば融通できるようにしておこう」

「ありがとうございます。お父様」

 マグラーレの話にノエルは涙ぐみながらお礼を言う。

「出発は明日でも良いのだろう?
 今日はささやかながらふたりの門出を祝った夕食を準備しよう。
 それと、教会の手配をしておくから簡易でもいい、きちんと婚姻の手続きはしておくように。
 ミナト君、娘を頼むぞ」

「はい。
 色々とありがとうございました。
 ノエルさんは僕には勿体ないくらいの魅力的な女性です、彼女の笑顔を失わないように命をかけることを誓います」

「ああ、そうしてやってくれ」

 マグラーレはそう告げると部屋から出て行った。
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