異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日開店です 〜女神に貰ったカード化スキルは皆を笑顔にさせるギフトでした〜

夢幻の翼

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第1話 異世界への片道切符

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「~でありますから、投資の規模と利益の関係は――」

 私は今、とある地方都市で一人暮らしをしながら大学の授業を受けている。最近は女性が起業をすることも珍しくなく、大学で経済学を学ぶことも普通の事として捉えられるようになっていた。

 神代かみしろ 理愛りあ 二十九歳

 夏色大学経済学部二年の学生。実家があまり裕福ではなく高校卒業後に事務系の仕事に就いたけど、やっぱり自分のお店を経営したいと考えて十年間で貯めたお金で経営学のあるこの大学を受験。見事に合格を勝ち取った。

 この日は経営学の選択科目にある新規スタートアップ事業の説明を外部講師としてベンチャー企業を設立した若い実業家を講師に開催されていたのだけど……。

「……簡単に言ってくれちゃって。確かに講師である若手社長はその腕ひとつで会社を立ち上げて成功したかもしれないけれど、そんなに上手く行くことなんてほんの一握りの強運な人たちなのよね。それに、大抵は何かひとつでも強みを持っているもの。お金があるとか人脈があるとか……」

 そう呟く私は自分にも何か無いものかと考えを巡らせるが、親も普通のサラリーマン家庭だし、特別に力を持った友達が居るわけでもない。

 だけど、自分の可能性を信じていざ経営学を専攻したのだけど、いざ入学してみれば周りは若者ばかりで、しかも経営学を学ぶような人は大抵が我が道を行く人たちばかりで気のおける友達は簡単に出来る雰囲気では無かった。

「せめて、趣味の合う親友のひとりも居ればもっと楽しい大学生活になっただろうけど、それもまた儚い夢よね」

 ――パチパチパチ

 いきなり講堂に鳴り響く拍手の音に終始上の空で講演を聞き流していた私はふと我に返り、一気に現実へと引き戻されたのだった。

 ◇◇◇

「――ありがとうございました。またのご利用をお願いします」

 その後も特に何も収穫の無い日々が続き、前期の授業が終わりを告げると同時に大学は一斉に夏季休暇に入る。

 十年間にコツコツと貯めた貯金は授業料と日常の生活費にどんどん目減りしており、この歳で新たに始めた大学生活は親の支援を断って進んだ道だけに一人暮らしをするには余程の節約をしなければならず、私も他の学生たちに漏れず夏季休暇を利用してアルバイトをすることに。

 結果、短期で出来るものとして大学のクラスメイトに教えて貰った宅配バイトに汗を流す毎日となる。

「――ふう。絶対に今年の夏は暑すぎよね? 少し自転車を漕いだだけで汗が下着を濡らすほど噴き出しちゃうなんて。このままじゃあダイエットを通り越して干からびちゃうわ」

 免許自体は取得していたが学生の身で車なんて維持費のかかる贅沢品を持っているわけもなく、バイト先から支給された三輪自転車に荷物を積んで配達をすることに。

 しかし、その日の気温はこの夏一番の猛暑日となりあまりの暑さに私は休憩を兼ねて木陰に自転車を停めてタオルで汗をぬぐい取った。

「こんなに暑いのだったらコンビニ店員とか室内の仕事を選べば良かったな」

 私はあまりの暑さにお茶のペットボトルを鞄から取り出してキャップを開くとグイと中の液体を飲み干す。

「うええ。生ぬるい……。また、新しいのを買わなくちゃ」

 私がそう呟いた時、スマホの呼び出し音が鳴り響く。画面を見ると契約している運送会社のサイトから転送された依頼番号からのアクセスだった。

「はい、神代です。ご依頼の要件をお願いします」

 私は慌ててスマホの画面を操作して依頼内容を聞こうと耳に添えたが、そこからはいつも聞く男性の声ではなく聞き覚えのない若い女性の声だった。

「――申し訳ありません」

 その声がいきなりそう告げる。

「え? すみませんが、ハコベル運送サービスの方ですよね?」

 いきなり電話口から謝罪の言葉が聞こえて来たことに私は違和感を覚え思わずそう問い返していた。

「――申し訳ありません」

 再度、謝罪の言葉が聞こえた瞬間、訳も分からないままに私の意識は深い海の底へと沈むかのように途絶えたのだった。

 ◇◇◇

「ここは?」

 次に私が目を覚ましたのは真っ白な何もない空間。ふわふわと身体が浮いているような感覚があるかと思えば、全く手足が動かせる様子もない。立っているのか寝ているのか、その感覚さえ麻痺している状態の私に誰かが話しかけてきた。

「――申し訳ありません」

 あのスマホで聞いた声だ。また謝罪の言葉が繰り返され、いいかげんに腹が立って来ていた私は思わず叫んでいた。

「謝ってばかりいないで姿を現しなさいよ! こっちは何がなんだか分からないんだからね! 出て来て説明をしてちょうだい!」

 私はそう叫んだつもりだったが、自分の声も聞こえていない事に気がついた私は内心でため息をついてしまう。

「――申し訳ありません。許可が出ましたので今から全てをご説明させて頂きます」

 突然そう声が聞こえたかと思うと、私の目の前に話の中でよく具現化されている女神そのものの姿が現れて深くお辞儀をしているのが認識出来た。

 彼女は深いお辞儀から頭を上げると私の目を見据えながらゆっくりと優しい声で語りかけてくる。

「――私は転生の輪廻を管理している者です。この場所に本来ならばまだ来る予定のない魂が流されて来たと報告を受けて様子を見に来たのですが、確かにあなたの魂は転生リストには無いようです。あなたの世界を管理する者に確認しましたが『不慮の事故』としか報告に上がりませんでした。そして、このようなケースの場合はその魂は輪廻の輪に戻すことは出来ないのです」

「輪廻の輪? 不慮の事故? それじゃあ、私は死んでしまったという事なの?」

「そうですね。残念ながらあなたの身体は現世では維持の出来ない状態になってしまっているようです」

「そんな……。いったいどうして?」

「申し訳ありません。今回の件は管理局の不手際とされても仕方ない事案です」

 彼女は困った表情を見せながらそう告げると私の目の前に大きな鏡のようなものを掲げる。

「あなたが何故ここに来たのか理由は分かりませんが、この場所に迷い込んだ魂は元の世界には転生するしか戻す事は出来ません。しかも、あなたの魂は輪廻の輪から外れ迷い込んだものですので元の世界には転生すらも出来ないのです」

「ならばこのまま消えるしかないのですか?」

「いいえ。これといった落ち度のないあなたの魂をきちんとした輪廻に戻すためにも、あなたには正規の寿命を全うしてもらう必要があります。そのため現世の代わりに私の管理する箱庭と呼ばれる世界で暮らして頂く事になります」

 彼女はそう告げると鏡に映像を映し出す。そこは緑豊かな自然があふれる世界で、彼女が指を振ると次々と画面が代わり、海や町などをあたかも世界図鑑のように私に見せてくれた。

「そこで私は何をすれば良いのでしょうか?」

 鏡の映像をじっと見つめながら私は自然とそんな質問をしていた。それに対して彼女は微笑みながら優しく答えてくれる。

「特にこれといった制約はありませんので、悪事さえ働かなければ何をされても結構です。ただ寿命を全うして輪廻の輪に加わって頂ければ良いのです」

 その言葉に私の心が躍るのを感じたが、ふと思いついた不安が言葉に出た。

「しかし、何をしても良いと言われても、その世界は私の今まで生きてきた世界とは文化レベルも常識も違うのですよね?」

「はい、確かにおっしゃる通りです。しかし、箱庭では私たち管理者が人々の生活を全う出来るように固有能力-スキルと呼ばれるものを授けています。これにより、誰しもが自分の役割を認識して生活を楽しむことが出来るようになっているのです」

「スキル……。それで、私はどんなものが使えるようになるの?」

「固有能力に関しては申し訳ありませんが箱庭に行ってからでなければ確認は出来ません。街の教会に行けば教えてくれることでしょう。ただ、大抵は前世の仕事や経験に沿ったものが割充てられる可能性が高いようです。あなたには謝罪の意味も含めて固有能力のレベルを有利になるように配慮しておきます。では、そろそろ時間になりましたので向こうへ送りますね。良き人生をおくられる事を期待しております」

 輪廻の管理者と名乗った存在はそれだけ告げると私の目の前から掻き消えたのだった。
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