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第一幕
しおりを挟むこの国には花形と呼ばれる職業がある。
一つは闇から生まれてくる魔物と戦う特務隊。
特にエリートが揃う第一特務隊の活躍は毎朝新聞を賑やかせている。かっちりと詰襟制服を着こんだ隊員たちを見れば子ども達はかっこいいと大喜びし、一部では禁欲的でそれがたまらないとマニアな人気もある。
うん、凄く判る。肌の露出がない方が色気を感じる。
そして同じく新聞の一面を飾ることが多いのが、歌と芝居で聴衆を魅了する歌劇団だ。
こちらはゴシップが紙面を騒がせることが多く、恋愛好きな団員たちで話題はつきない。
ほんとお前ら少し落ち着け、種馬かよって思う。
こちらはどちらも国の直轄の組織だ。四代前の国王が「衣食住だけでなく、心が豊かでなければ本当の平和とは言えない」といって歌劇団を設立した。
物凄くこの王様いいこと言ったと思う。是非尊顔を拝みたかったが、俺の生まれた時にはすでに存命していなかった。
そして今日も今日とて俺は従者が準備してくれた新聞を隅から隅まで読む。まあ、隅じゃなくて一面に見たい話題は載っていたけど。
『ミランダ王女と第一特務隊イワン・レイグナー氏、婚約まで秒読みか?!』
紙面に踊る文字を読む前に、王女とイワンが仲睦まじげに微笑み合っている写真を見る。
「あぁ……やっぱりかっこいい。すき……」
いつもはキリリとした顔が王女相手に微笑む様は蕩ける様に格好良い。次の特務隊総隊長は彼だろうと噂されているイワン・レイグナーは伯爵家の次男で現在23歳だ。白黒写真だから判らないが、こげ茶の髪と深い緑の瞳は力強い森を連想させ、戦場では天馬を乗りこなし一閃の元に魔物を切り殺す。
彼の立つ場所から魔物は一歩も侵入できないことや、どんな時でも表情がかわらないことから「氷の壁」と呼ばれているのだ。
その氷の壁が微笑んでいる……! これはもう奇跡だろう。王女様ありがとう!!! 写真撮った記者もいい仕事した!!!
写真でもいかんなくその魅力が見て取れて、俺はしゃぶりつきたくなる欲をぐっと堪える。どれだけ写真を見ていたのか判らないが、控室をノックされる音で意識を取り戻した。
「シャクナさん、稽古開始しますよ」
「……わかった」
俺は新聞から視線を外すと、呼びに来た従者に返事をした。
共に稽古場へ向かえば、恐る恐ると従者が俺の様子を見上げてくる。
「あの、またララさんが新聞にでも?」
「あいつ、何かやらかしたのか」
「あ、いえ違うんですシャクナさん怒ってるみたいだから、団員の不祥事でも載ってたのかなって」
従者といっても歌劇団員見習いの者が多い。今話しているカイも未来の団員を目指して稽古しつつ俺の従者をつとめている。
こげ茶の髪にはちみつ色の瞳。確か12歳になったばかりだ。少年らしいはつらつとした表情が印象的で性格も明るくていい子だ。
「別に、怒ってなどいない」
俺はカイを一瞥すれば、本日の稽古に向かった。
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