4 / 50
まさか「好き」とは思うまい
4.「いや……あんた何なんだよ」
しおりを挟むそれからはなんか、日常会話? 挨拶? を彼とするようになった。
相変わらず舌打ちするし「うざい」と言われるけど、普通の人の「こんにちは」だと思えば挨拶されてるな、くらいにしか思わなかった。
いつも通りコンビニに行くと、レジには恰幅のいいおばさんが居た。
深夜なのに女性がいるなんて珍しい。そんな事を思ったが、昨日この店の店員の性別がどっちだったかなんて覚えてない。
単純に今日は不良店員くんが居る日曜日だったから気付いただけだ。
「いらっしゃいませ~。レジ袋ご利用になりますか?」
「あ、お願いします」
「412円になります」
レジに缶チューハイとおにぎりを出すと、おばさんがにこやかに会計をしてくれる。
「あ……の、いつもの茶髪の店員さんは…?」
「あれ? もしかして各務くんのお友達?」
「え? あ、いえ友達というか……」
「あらそう良かった! 夕飯取りにいらっしゃいって言ったのに来なくて心配してたのよ。ちょっと見てきてくれる?」
「あの、だから、友達とかではなくて、どこに住んでるかとかも知らないし」
「各務くんちはここの隣の「ゆかり荘」の二階の一番奥よ」
「いや、あの、個人情報ですよそれ…」
「ごめんなさいね、今日人手が無くて私は店から出れないのよ。次の方どうぞ―。じゃあよろしくね」
おばさんはにこやかに言うと、勝手に個人情報まで提供して次のお客さんの会計を始めている。
え……これは無視して帰って……いいやつだよな?
俺はさすがにどうしたらいいかわからず、レジの客が切れるのを待って、おばさんにきちんと話した。
俺はただの客で、彼とは挨拶する程度の関係で、知り合いとも言えない程度の間柄で、そんな奴がいきなり家に来たら不審者で通報されると。
「あらまあ、今どきの子は色々面倒なこと考えるのね。じゃあ、私が電話しとくから、夕飯持っていってちょうだい」
俺の説明はむなしく、おばさんに押し切られた。夕飯と言うかもはや夜食だ。
コンビニの隣のアパートが「ゆかり荘」なんて名前なことを初めて知った。おばさんが家から作ってきたという弁当包みを持ち、俺は階段を上る。
表札は出てなかったけど電気もついているし、間違いないだろうとノックすれば、不良店員くんが出て来た。えっと、カガミクンだ。
「これ、頼まれて……」
「……断れよ」
「まあ、うん、そうなんだけどね」
弁当包みを差し出せば、億劫そうに受け取る。受け取る為にドアを自分の体で開けてるのは、さっきからずっと片手で自分の腹を押さえているからだ。
心なしか、呼吸も荒いし顔色も悪い。というか冬の深夜なのに額には汗が浮かんでいる。
「もしかして具合悪いの?」
「……腹が痛ぇ」
ああ、それで今日は休みなのか。
「病院は?」
「行ってない」
「いつから痛いの?」
「あ?……昨日? わかんねぇ」
「えっと、良くはなってる……んだよね?」
「今、一番いてぇ」
よし、これは救急車だ。
「きみ、盲腸やってないでしょ?」
「は?」
「そこ押さえてるとこ、盲腸だと思う。ご家族は?」
「家、遠いから……」
「わかった、俺が一緒に行くから、とりあえずコートとスマホと保険証は準備して」
「いや……あんた何なんだよ」
そういえば俺は名乗りもしてないし、いきなりこんな事されて不安だよな。俺は財布に入れてあった自分の名刺を取り出して彼に渡す。
俺は道で倒れている人が居たら同じようにするし、これは人道的行動だ。
その後、救急車を呼んで病院に一緒に行った。診察している間にコンビニのおばさんがやってきて、付き添いを代わるというので俺は帰宅することにした。
38
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
バズる間取り
福澤ゆき
BL
元人気子役&アイドルだった伊織は成長すると「劣化した」と叩かれて人気が急落し、世間から忘れられかけていた。ある日、「事故物件に住む」というネットTVの企画の仕事が舞い込んでくる。仕事を選べない伊織は事故物件に住むことになるが、配信中に本当に怪奇現象が起こったことにより、一気にバズり、再び注目を浴びることに。
自称視える隣人イケメン大学生狗飼に「これ以上住まない方がいい」と忠告を受けるが、伊織は芸能界生き残りをかけて、この企画を続行する。やがて怪異はエスカレートしていき……
すでに完結済みの話のため一気に投稿させていただきますmm
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
【完結】トワイライト
古都まとい
BL
競泳のスポーツ推薦で大学へ入学したばかりの十束旭陽(とつかあさひ)は、入学前のある出来事をきっかけに自身の才能のなさを実感し、競泳の世界から身を引きたいと考えていた。
しかし進学のために一人暮らしをはじめたアパートで、旭陽は夜中に突然叫び出す奇妙な隣人、小野碧(おのみどり)と出会う。碧は旭陽の通う大学の三年生で、在学中に小説家としてデビューするも、二作目のオファーがない「売れない作家」だった。
「勝負をしよう、十束くん。僕が二作目を出すのが先か、君が競泳の大会で入賞するのが先か」
碧から気の乗らない勝負を持ちかけられた旭陽は、六月の大会に出た時点で部活を辞めようとするが――。
才能を呪い、すべてを諦めようとしている旭陽。天才の背中を追い続け、這いずり回る碧。
二人の青年が、夢と恋の先でなにかを見つける青春BL。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体は関係ありません。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
染まらない花
煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。
その中で、四歳年上のあなたに恋をした。
戸籍上では兄だったとしても、
俺の中では赤の他人で、
好きになった人。
かわいくて、綺麗で、優しくて、
その辺にいる女より魅力的に映る。
どんなにライバルがいても、
あなたが他の色に染まることはない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる