まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

文字の大きさ
45 / 50
番外編

あいも変わらず「愛」を囁く

しおりを挟む
 
「っ!!? 各務かがみくんの頭が大変なことに……っ!」
「あんた、ときどき失礼な事言うよな」

 朝、いつも通りコンビニで労働にいそしむ各務くんの元を訪れれば、そこには黒髪の各務くんがいた。

 もう一度言おう。黒髪の各務くんである。

 金髪各務くんは襟足が長くヤンキーぽかったのに対し、黒髪各務くんの髪はスッキリと短くて、真面目な好青年に見える。想定外のイメチェンにうっかり動揺して頭が大変とか言ってしまったが、大変なのは俺の頭の方である。
 髪型が変わるとだいぶ印象が変わるなぁ黒髪もかっこいいなぁとうっとりと見惚れている間に、各務くんは素早く会計を済ませてくれた。

「あっと、ごめんね。その髪の色も似合ってるね」
「……そう?」
「うん。あ、そうだ、今夜会える?」

 俺がコソリと問いかければ、各務くんは一瞬考えたもののすぐに小さく頷いた。

 それにしても朝から良いものを見せてもらった。黒髪各務くん、金髪より幼く見えるのに落ち着いた雰囲気があるから大人っぽかった。何を言ってるか分からないが、俺もわからない。二律背反とはこの事か。でも、とにかく可愛くて格好良かった。

 職場に着く頃にはバイトを終えた各務くんから待ち合わせ時間の連絡が来ていた。定時であがればちょうどいい時間だ。今日は残業しないようにとっとと仕事を片付けよう。よし今日も頑張れる。
 各務くんは一日の活力になるなぁなんてしみじみしていたら、まきさんに「何か良いことでもあった?」と聞かれてしまった。

 今日は魚料理が美味しい居酒屋で食事をすることにした。夕飯時なのでガヤガヤと居酒屋特有の喧騒の中、向い合せに座り酒を飲む。半個室なので人目があまり気にならないことと、料理や酒の種類が多いので俺たちは最近よく利用していた。

「……それで、あんたは何て答えたの?」

 嫌な予感がするんですけど変なこと言ってねぇよな? と表情で訴えてくる各務くんに俺はにこやかに答える。

「通勤途中で可愛いもの見たんですって答えた」
「アァ?」
「嘘は言ってない」

 槇さんは「それは良かったわね」と笑顔で飴をくれて、特に追求せず納得してくれた。だが各務くんは納得できないようで、ギロリと睨んでくる。

「……。……かわいいってなんだよ」

 各務くんは視線をお刺身に落とすと、前髪を弄りながらボソリと呟く。迫力のある睨みの後に、しょんぼりと小さくなってしまうギャップに俺の心臓が鷲掴みにされた。

 本当に各務くんはぜんぶ可愛くて仕方ない。

「可愛いは可愛いだよ。各務くんだって俺に言うじゃないか」
「あんたはかわいいだろ」
「各務くんだって可愛いよ」

 お互い一歩も譲らず睨み合う……というよりは見つめ合う。黒髪の各務くん、めちゃくちゃ良いなぁ。俺が自然と顔を緩ませていれば、各務くんが呆れたように視線をそらしてチューハイを飲み始めた。

「はぁ~、各務くん好き」
「ぶっ!」

 思わず心の声が音になり口から飛び出てしまった。俺の呟きに各務くんは飲んでいたチューハイを吹き出しかける。

「っ! あんたなぁっ突然何言い出すんだよっ!」
「えへへ、ごめん。つい感情が声になっちゃった」
「……はぁ、まあいいけど」

 各務くんはそう言うと俺の発言を警戒しながらグラスを傾ける。そんなに怯えなくたっていいじゃないか。地味に傷つくよ。

「黒くしたのってやっぱり就活関係?」

 場の雰囲気を変えるべく、俺は話題を変えることにした。
 年末年始も過ぎて、希望する業種にもよるけど大学三年生は就職活動を本格的に開始する。人によっては四年生の時は学業より就活の方が忙しくなるくらいだ。
 各務くんもそれなりに就職活動を始めているらしい。なにか人生の先輩としてアドバイスできたらなぁと思ってはいるが、今のところ特に求められていない。ちょっと寂しい。

 各務くんは小さな溜め息をつくと、唐揚げを一つ食べてから答える。

「そう。学校のキャリアに行くと毎回髪の毛のこと言われるから、面倒になって染めた」
「へぇ、綺麗に染まってるね。黒にするの難しいって聞いたことあるけど。あ、でも普通の色とは違う?」

 眼の前に座る各務くんに手を伸ばせば、各務くんもこちらへ頭を出してくれる。
 そっと髪の毛を掴み居酒屋の薄暗い明かりで観察する。

「ちょっと緑入ってる。まあ企業に面接行くときは地毛になってるから問題ない」
「そっか、偉いね」

 俺は差し出されている各務くんの頭をヨシヨシと撫でた。

「…………あのさ、前から言おうと思ってたんだけど、おれのことガキ扱いするの止めてくんね?」
「は? えっ?」

 各務くんは撫でている俺の手にスルリと頭を擦り寄せてから、その手を取って指先に口付けた。

「なんかムカツク」
「え、いや、子ども扱いしてるつもりはないよ。いとしいなって思うからこう、撫でるのも愛情表現的な??」

 反射的に手をひこうとしたらしっかりと掴まれ握りしめられる。

「……ほんとに?」
「本当だよ。……多分だけど、各務くんが俺に感じてる可愛いと同じ感覚だよ」

 各務くんは俺のことを可愛いと言うが、子どもっぼいとは思っていないだろう。だって、アレをしている時が一番可愛いって言ってくるし。

 指を絡めるように手を握られたまま視線をあげれば、口元に笑みを浮かべる各務くんと視線があった。

「ふーん、そう。ならいい」

 俺の手をにぎにぎしながら、笑顔になりそうな顔をどうにか引き締めている各務くんが物凄く可愛い。思わず俺がニヤけてしまった。

 その後は美味しいご飯とお酒を堪能しつつ、各務くんの春休みに長めの旅行をしようかという話になった。どうせなら温泉リベンジをして各務くんと一緒に入りたい。

 その話をしたら「あんたのそれは天然なの? 煽ってんの?」とまた睨まれてしまった。なんでだ??

 優しい各務くんが俺の希望を断るわけはなく、黒髪も見慣れた春休みに温泉旅行リベンジを果たした。もちろん個室風呂付きである。気兼ねなく二人で過ごすのだと意気込んでいれば、うっかりといろいろ盛り上がってしまい、逆上のぼせるという失態を冒してしまった。
 二人でのんびり温泉に浸かりリフレッシュするという俺の夢とは程遠い展開になってしまったけど、これはこれで楽しい思い出になったので良しとする。

 各務くんは旅行先でも可愛くて、物凄くエロくて、格好良かった。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー
BL
【BLです】 「俺と秋さんは恋人同士です!」「そうなの!?」  無気力でめんどくさがり屋な大学生、露田秋は交通事故に遭い一時的に記憶喪失になったがすぐに記憶を取り戻す。  そんな最中、大学の後輩である天杉夏から見舞いに来ると連絡があり、秋はほんの悪戯心で夏に記憶喪失のふりを続けたら、突然夏が手を握り「俺と秋さんは恋人同士です」と言ってきた。  もちろんそんな事実は無く、何の冗談だと啞然としている間にあれよあれよと話が進められてしまう。  記憶喪失が嘘だと明かすタイミングを逃してしまった秋は、流れ流され夏と同棲まで始めてしまうが案外夏との恋人生活は居心地が良い。  一方では、夏も秋を騙している罪悪感を抱えて悩むものの、一度手に入れた大切な人を手放す気はなくてあの手この手で秋を甘やかす。  あまり深く考えずにまぁ良いかと騙され続ける受けと、騙している事に罪悪感を持ちながらも必死に受けを繋ぎ止めようとする攻めのコメディ寄りの話です。 【主人公にだけ甘い後輩✕無気力な流され大学生】  反応いただけるととても喜びます!誤字報告もありがたいです。  ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載中。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

処理中です...