まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

文字の大きさ
43 / 50
いつでも「好き」が溢れてる

6.「かわいい」

しおりを挟む
 
 食事が終わりに近づけば段々緊張してきた。食後の珈琲の味は正直良くわからなかったが多分美味しかったと思う。
 俺たちは食事を終えるとほぼ無言でふかふかの絨毯が敷かれた廊下を部屋へ向かって歩いた。

 部屋は無難にツインルームだ。
 ダブルにするという選択肢もあったがここは無難に攻めることにした。
 窓からの景色はとても綺麗で、海を行き交う船の明かりがキラキラと煌めいている。海側の眺望の良い部屋にしたので明るくなってからの景色もいいに違いない。室内の照明は薄暗く、落ち着いており高級感が漂っていた。

「先にシャワー使う?」
「へぁっ? え、あ、え、各務くんからどうぞっ!!!」

 部屋に入りこの後はどうしたものかと立ち尽くしていれば、突然真横から声を掛けられ驚いてしまった。
 そんな俺に各務くんは呆れ顔だ。

「あんたちょっと意識しすぎじゃね?」
「ぐぅっ……」

 ぐうの音しかでない。
 呆れ顔の各務くんは苦笑すると俺の頬を優しく撫でる。

「……変なこと言っちゃったなって、ずっと後悔してた。あんたはあんたらしくしててくれればいいし、無理させたくない。だから、気にしないでいいから」

 ジッと俺を見つめてくる瞳は慈愛に満ちているように見える。俗物のような俺と違って各務くんのなんて清廉潔白なことか。垣間見せる荒々しい様子を見ていなければ聖人君子だと思ってしまう。

 だけど俺も男だし、今の俺なら各務くんがかなりの自制心で俺に接してくれているんだろうと判る。

「無理はしてないよ。いや、俺が言っても信憑性ないかもだけど。なんというか温泉に誘った時は今ほど各務くんにキスしたいとか、そういうこと思ってなくて……」

 俺はしっかりと各務くんを見つめて言葉を紡ぐ。
 心臓が緊張でバクバクする。
 下手に取り繕って大人だからと完璧を装うより、素の自分を曝け出した方が各務くんは安心してくれるだろう。
 大学生相手に甘えるなという話だけど、年齢とか性別とかとりあえず横に置いておくことにする。それでどうなるかはその時次第だ。

「だけど今はもっと各務くんに触りたいとおもっ……うわっ」

 ちゃんと各務くんを見つめていたはずなのに、あっという間に俺はベッドに転がっていた。
 ギシリとベッドのスプリングを軋ませ各務くんが乗り上げてくる。
 先程までの慈愛に満ちた瞳はどこへやら、今までで見たことがないほど各務くんの瞳はギラついていた。

 普段の睨みなど可愛く感じるほど迫力があり、本能的に逃げられないと感じる強い視線に俺の身体は硬直する。

 恐怖のような、高揚のような、ぞくっと背筋になんだかわからない感覚が走り抜けた。

「………もっとあんたに、触っていいの?」
「うん、いいよ」
「……ほんとに?」
「ここで嘘つくほど俺、酷い人間じゃないけど」

 瞳はギラついてるのにどこか怯えた動物みたいにこちらを疑う各務くんが可愛いくて、思わず笑ってしまった。

「かわいい……」

 俺の心が声になったのかと思ったけど、呟いたのは各務くんだった。

「可愛いのは各務くんだよ」

 俺も負けじと言い返して、覆いかぶさる各務くんの頭を引き寄せ口付ける。
 いつもならこれで各務くんはトマトのように真っ赤になって固まるのだが、今夜は違った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー
BL
【BLです】 「俺と秋さんは恋人同士です!」「そうなの!?」  無気力でめんどくさがり屋な大学生、露田秋は交通事故に遭い一時的に記憶喪失になったがすぐに記憶を取り戻す。  そんな最中、大学の後輩である天杉夏から見舞いに来ると連絡があり、秋はほんの悪戯心で夏に記憶喪失のふりを続けたら、突然夏が手を握り「俺と秋さんは恋人同士です」と言ってきた。  もちろんそんな事実は無く、何の冗談だと啞然としている間にあれよあれよと話が進められてしまう。  記憶喪失が嘘だと明かすタイミングを逃してしまった秋は、流れ流され夏と同棲まで始めてしまうが案外夏との恋人生活は居心地が良い。  一方では、夏も秋を騙している罪悪感を抱えて悩むものの、一度手に入れた大切な人を手放す気はなくてあの手この手で秋を甘やかす。  あまり深く考えずにまぁ良いかと騙され続ける受けと、騙している事に罪悪感を持ちながらも必死に受けを繋ぎ止めようとする攻めのコメディ寄りの話です。 【主人公にだけ甘い後輩✕無気力な流され大学生】  反応いただけるととても喜びます!誤字報告もありがたいです。  ノベルアップ+、小説家になろうにも掲載中。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

処理中です...