せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連

文字の大きさ
9 / 43

9 柄にもなく悩んでいます

しおりを挟む
父がこの世を去ってからというもの、私の心のどこかが壊れてしまったようです。
エルランドご当主である義両親には、父の逝去は手紙で知らせましたが、参列できなかったことや、見舞いに行かなかったことを心から詫びてくださいました。
お知らせしていなかったのですから、お詫びをいただくなどとんでもないことです。
それでも私の心に刺さっていた棘が、少し抜けたような気がします。

もちろん旦那様にもお知らせしました。
秘書の方を寄こしてくださったことや、花束を贈ってくださったことにお礼の言葉も書きました。

『ルイス様

ご心配をおかけいたしましたが、父の葬儀を無事に終わらせることができました。
エルランド家の皆様には何から何までお手伝いいただき、感謝しております。
また、お花や代理の方の参列など、お心遣いを賜りありがとうございました。

国外に出張中だったとのこと、ご無事でお帰りになったのでしょうか?
どちらに行かれたのでしょうか?
どんなお仕事だったのでしょうか?

私は自分の夫のことを何も知りません。
どんなご本をお読みになるのかしら。
お料理は何がお好みなのかしら。
普段お使いになる香水はどんな香りなのかしら。
普段着は何をお召しなのかしら。
好きな宝石は?
お部屋のお花は?
あなたの瞳の色は?
あなたの髪の色は?

もうお手紙を書くのも止めますね。
きっととてもご迷惑だったことでしょう。
いたらない妻で申し訳ございません。
どうかお元気でお仕事頑張ってくださいませね。

                                 ルシア』

これを最後の手紙にすると決めました。
だって本当にもう書くことが無いし、便箋もインクも封筒も勿体ないですから。
その手紙を出してからというもの、作業のように毎日のお仕事はこなしますが、なんというか・・・空しいのです。

生活を楽にするために私はこの婚姻を了承したのです。
父の入院費用に困ることもなく、弟の学費も心配なくなった今、心にぽっかり穴が空いてしまったのでしょうか。
生きる意味を失った?そんな感じです。

猫はまだ一匹残っていますので、エルランド伯爵家の妻として体裁は整えています。
でも全てが悲しいのです。
私はなぜここに居るのでしょうか。
誰のために頑張れば良いのでしょうか。
そもそも妻の役割とは何でしょうか。
義両親に可愛がられ、穏やかな老後を過ごしていただくためでしょうか。
もちろんそれも大切でしょう。

でも一番大切なのは子孫を残すことです。
今の状態では絶対に無理です。
リモートで子作りなど不可能です。
そうなると私の存在意義って・・・
そのループの繰り返しです。
溜息が出ます。
むしろ溜息しか出ません。

そんな日々を送る私を皆さんは心配して下さいます。
義両親も領地の特産品を送ってくださったり、お手紙で励ましたりしてくださいます。
弟も以前にも増して顔を見せてくれます。
職場での出来事や、彼女ができたことなど、なんとか私を笑わせようとしてくれるのです。
そして彼は、必ず花束を持ってきてくれます。

「そういえば・・・私に花束をくれるのってジュリアだけね」

「え?そうなの?学生時代にも?」

「無いわよ。あの頃はとにかく早く帰って、伯爵家の仕事をしなくちゃって思ってたから。友達は数人いたけど、全部女性だったし」

「そうかぁ・・・姉さんだけに負担をかけていたもんな」

「仕方ないわよ。私が学生の頃ってジュリアはまだ10歳にもなっていなかったでしょ?お父様はもう寝込んでおられたし」

「姉さんばかりが苦労してるね」

「そうでもないけど・・・そういえば思い出って・・・無いわね。学年旅行もお金が無かったから行けなかったし。社交も全然だし、お茶会?何それ、おいしいの?って感じ」

「今からだよ。今から楽しめばいいんじゃない?姉さんが何をしたって文句を言われることもないでしょ?姉さんは何をしているときが楽しいの?」

「楽しい・・・何かしら。窓ガラスを磨き上げてピカピカになったら楽しいけれど・・・あと上手に刺繡ができたとき?廊下にチリひとつ落ちてないとき?」

「そんなんじゃなくてさあ、観劇とか演奏会とかショッピングとか」

「ああ、オペラは一度見て観てみたいとは思うわね。友人のアンジュが素晴らしかったって言ってたから」

「行ったことないんだ・・・」

「うん。一度もない」

「行ってみなよ。俺がチケットを用意するからさ」

「一人で行くのは・・・」

「今なら面白いのをやってるよ?恋愛ものなんだけどすごい人気なんだ。モテる男が二人の女性の間で翻弄されるんだけど、結局は素朴な村娘と恋に落ちるって話」

「ふーん・・・面白そうね」

「俺が一緒に行ければいいんだけど、実はもう観ちゃってるから。でもチケットは任せておいて」

そう言って弟は帰っていきました。
あのジュリアが恋愛もののオペラに行くなんて・・・
姉としてはいろいろ突っ込みたいところですが、今のポンコツな立場では何も言えません。
それから数日して、弟からチケットが送られてきました。
奮発してくれたのでしょう、ボックス席です。
千秋楽の最終公演という超がつくほどのプラチナチケットだそうです。
舞台が終わった後、俳優さんたちが揃って挨拶するんですって。
リリさんもマリーさんも詳しいですね。

「ねえ、誰か一緒に行きませんか?」

誘う友人もいないので、使用人の皆さんに声を掛けました。
とても嬉しそうにしてくださったので、私も少し嬉しくなりました。
ケンカにならない様に公平にくじで決めることになりました。
結果、同伴者はアレンさんになりました。
イケオジとオペラ・・・最高です。

その日はいつものワンピースではなく、ちょっと大人びたドレスにしました。
リリさんとマリーさんが張り切って私を飾り立ててくれます。
たぶん面白がっていますよね。
アレンさんもいつもの執事服ではなく、バチっとドレスアップしてくださいました。
まるでデートです!
気分アゲアゲです!

ノベックさんが操る馬車に乗り、私たちは劇場に向かいました。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...