せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連

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18 料理長ランディの証言 

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旦那様はソファから立ち上がり、ランディさんを迎え入れました。
足元にはいつの間にか五体投地から土下座に変わったランドルさんがいます。
そんな二人に一瞥をくれると、ランディさんはドカッとソファに座りました。

「手短に頼みますよ。夕食の準備があるんでね」

「ああ、すまない。なるべく早く終わらせる・・・だんだんルシア嬢の人となりがわかったような気がするんだが・・・ランディから見た彼女はどんな印象かな」

「印象?そうですね・・・おいしそうに食べる可愛い女ってとこですかね」

「可愛い女か・・・愛おしいね」

「ええ。俺はみんなとは違っていろいろな貴族の屋敷を経験していますから、誠実かどうかは食べ方を見ればわかるって自負してます。奥様は裏表のない正直な方だと思いましたね。あれほど苦労して・・・母親を早くに亡くして、寝たきりの父親の看病でしょ?その上に幼い弟の面倒まで見てたって言うんだから。自分のことは二の次だったはずだ。それなのにちっとも曲がっていない。凄いよね、俺だったらとっくにグレて家出してますね」

「彼女はそんなに苦労してきたのか」

「ああ、それも知らないんだね。まあ仕方がないか・・・結婚したのも知らなかったっていうんだもの」

「・・・面目ない」

「奥様のことなら、みんな同じことを言うと思いますよ。良い人だってね。だから俺は伯爵夫妻のことを話したい。いいですか?」

「ああ、勿論だ」

「あの方たちには頭が下がりますよ。四日くらいかかるのでしょう?領地からここまで。ずっと馬車に揺られて疲れているはずなのに、笑顔を崩さず息子のフォローをしてさあ。奥様に何度も何度も謝ってさあ。旦那さん、あんた親孝行しなさいよ?」

「本当だね・・・」

「あの方たちがなぜ奥様を選んだのかなんて俺は知らないけれど、奥様のことは本当に気に入ってたよ。そりゃ可愛がっていた。奥様も可愛がりたくなるような方だったしね」

「そうか。可愛がってくれていたか」

「ルシアちゃんルシアちゃんて言ってさあ、二人で嬉しそうに奥様の頭を撫でてたよ」

「そうか・・・羨ましいな」

「旦那さんは男の俺から見ても超絶男前だ。きっとバカみたいにモテたんだろう?でもちっとも幸せそうじゃない。たぶん本当にいい女とは出会ってないんだろうね」

「ああ、そうだね。モテなかったとは言わないが・・・女運は無かったね」

「でも奥様はいい女だよ?女運が悪いわけじゃないさ。奥さんは旦那さんを嫌って出て行ったわけじゃないんだ。たぶん誤解しちゃったんだな。旦那さんが口にするのも憚られるような高貴なお方にぞっこんだと思ったんだろう」

「冗談じゃない!誰があんなくそ女に」

「でもそう誤解するようなことしてたんだろ?」

「・・・消えてなくなりたい」

「やったことは戻らないさ。自分で始末をつけるしかないんだ。薄切りにしちまった肉はステーキにはならないってことだ。でもね、もっと細かく切っていろんなものを混ぜて、丁寧に捏ねりゃあハンバーグステーキにはなるんだよ。俺はみんなほど旦那さんが悪い奴とは思ってないんだ。でもね、みんなと同じくらいには奥様のことを気に入ってる。だからお二人には幸せになって貰いたいと思ってるよ」

「ありがとう・・・君は私を下衆な奴だと思っていない唯一の人間かもしれないな」

「そんなことないさ。きっと奥様も思ってないよ?そう思ってないから身を引いたんだろ?旦那さんの幸せを願ったんだろ?まあ、誤解だったけどさ」

「身を引いた?」

「ああ、奥さんは言ってたよ。あれほど優しいご両親を泣かせても、一生日陰の身に甘んじても、ずっと側にいたいと思えるほど女王様を一途に愛しておられるのなら、そのお気持ちを尊重すべきだってね」

「はぁぁぁぁ・・・とんでもない誤解だ・・・そう思っても仕方がない場面を見たのだろうけど・・・心が痛いよ」

「何やってたの?」

「あの女の悪癖に付き合わされていた。人前でイチャつきたがるんだ。私を所有物のように扱うことで自尊心を満たしているんだろう。それもわざわざ王配の前でね。あの夫婦はおかしいんだ。私に言わせれば露出狂の変態夫婦だ」

「なんでそんなのに絡まれてんの?」

「学生時代から目をつけられていたんだ・・・はっきり断ってもしつこく迫られてた。私はあのくそ女が大嫌いだったし、父上はそのことを知っていたから、何度も婚姻の打診があったけれど、のらりくらりと躱してくれていたんだよ」

「ああ、さっきもそんなこと言ってたね」

「文官として出仕した初日から、毎日毎日王女が職場に押しかけて来るんだ。同僚に迷惑がかかると上司から諭されてね。仕方なくお茶に付き合ったり買い物に付き合ったり・・・とにかく職場から引き離すように頑張った」

「そりゃ大変だったね」

「そのうち王女は私を片時も離さなくなって・・・私は仕事にならないから焦って・・・
でも私が相手をしないと王女のところで大事な案件が潰されるんだ。各部門の上司に囲まれて、お前が犠牲になることで国民が救われるんだとか言われてね・・・情けなかったよ」

「酷い話だね」

「何もしていないのに、王女のアクセサリーってだけで出世していくんだ。ばかばかしいだろう?専用個室まで与えられてさあ、秘書までついて・・・まあその秘書ってのがスパイだったわけだけど」

「ああ、こいつね」

ランドルさんはますます体を縮こませました。

「私は辞表を何度も出したんだ。全部握りつぶされたけど。あのくそ女から離れられるなら、一生領地に閉じこもっていようって本気で考えてた。そんな時、王女が即位する話が出てね。隣国の王子と婚姻することになったんだよ。これでやっとお役御免だと思っていたら、あのくそ女がその結婚に条件をつけたんだ。私を愛人として側に置けるなら承諾するってさ。前王は隣国王子の政治センスが絶対に欲しかったから、私の意志など関係なく王女の条件を吞んだ」

「どこのバカ親だよ」

「ほんとバカだよね。私は当然断った。だってこの世で一番嫌いな女だぜ?それで父上に相談したら、すぐに結婚しろってことになって。ルシア嬢には本当に申し訳ないのだけれど、ずらっと並べられた釣書の、一番近くにあったものを選んだ。全くの無作為だ」

「じゃあ奥様が嫁いできたのって・・・偶然?」

「偶然といえばそうだけど、それも運命と思えば必然だろ?でも話を進めているはずなのに、いつからか全く連絡が来なくなって・・・不思議に思っていたら、計画が王女にバレていてね。私は前王に呼ばれた。各部門長と一緒に王の執務室に連れ込まれたんだ」

「なんか怖いね」

「怖かった。断ったら殺されるんだろうって思った。でも殺されてもいいから断ろうって思ってた。でもね・・・断れなかった」

「なぜ?」

「一緒に呼ばれた上司たちの家族と両親の命を・・・王家が握っているんだぞって言われてさ。お前が断るなら全員殺すって・・・あいつら頭がおかしいよ」

「信じられん・・・」

「上司たちには泣いて頼まれるし、親の命は奪われたくないし・・・私は心を殺すしかなかったんだ。結婚の話も立ち消えになって・・・八方塞がりだよね。それに私だけが我慢すれば丸く収まるだろ?だから・・・」

「それじゃ旦那さん、あんたまったくの被害者じゃないか」

「うん・・・自暴自棄になったのだろうね。もう自分の周りがどうなっているのかなんて、知ろうともしなかった。だけどルシア嬢に対してだけは、私が加害者だね。」

「まあな・・・」

「私は最後の抵抗として、あのくそ女と情を交わすことだけは絶対にしなかった。添い寝だけだとせがまれても断固として応じなかったよ。あの女を抱くくらいなら不能になる薬を飲もうとさえ考えて、実際に準備までした」

「飲んだの?」

「まだ飲んでない。一応一人息子だし、最後の手段だよ。でも一度媚薬を盛られてね、ベッドに引きずり込まれそうになった。咄嗟に持っていた短剣を腕に突き立てて正気を保ったんだ。出血多量で危うく死にかけたけどね。それくらい嫌だ。私が命を捨てるくらい嫌がっているということが理解できたのだろう。今は私と寝ることだけは諦めた振りをしてる。そのかわりに人前での過剰なスキンシップを要求してくるんだ」

「ああ、みせびらかしね・・・最悪だな」

「既成事実が作れないなら、印象操作を狙ってるんだろう。そこまで嫌われているって分かっているのに・・・。結局のところ、私の外見が欲しいだけで、私の心が欲しいわけではないのだろうね。私という男を侍らせる自分を見せびらかしたいだけなんだよ。でも私は独身だし、婚約者もいないし結婚も諦めたし・・・妥協した。大勢の命が懸かっていたし、そうするのがあの状況では最良の選択だと思ったんだけど・・・まさか私に妻がいたとはね。最良の選択どころか、健気な妻の目の前で不貞を働いた最低最悪な夫だよ」

「旦那さんも可哀想だね・・・じゃあ確認だけど、旦那さんはべたべた触られたり触ることを強要されることはあっても、体は繋げていないんだね?」

「家名に誓って」

「そうか・・・お~い!そういうことだってよ!」

ランディさんの大声と同時に扉が開き、アレンさんが入ってきました。
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