愛すべきマリア

志波 連

文字の大きさ
95 / 100

95 最終話

しおりを挟む
 国王も王妃もマリア案に賛成し、四人は不眠不休で準備を整えた。

「さあ、本番だ」

 愛妻と子供たちの癒し効果か、過労なのに超元気なアラバスの声で、王宮内の全員も心を揃える。
 ぞくぞくと入城してくる来賓たちを、煌びやかな衣裳を纏った国王夫妻が出迎えた。

「お久しぶりです」

 そう言って入ってきたのはシラーズの新国王と第一王女だ。

「その節はいろいろとお世話になりました」

「こちらこそ。そちらが?」

 国王の問いに、第一王女が進み出る。

「シラーズ王国のルルーシュと申します。この度はバッディ国王との婚姻を仲立ちしていただき、心から感謝申し上げます」

 ラランジェとはまったくタイプの違う可憐な王女だった。
 続いて入ってきたのはバッディ新国王と第一王女のダイアナだ。

「おめでとうございます」

「ありがとうございます。おや? わざわざ妹君を同伴なさったのですか?」

「ええ、どうせ嫁にもらっていただくなら『バッディ王国第一王女ダイアナ』の方が、トーマス殿にも有利になるかと思いましてね。それに……いろいろありましたが可愛い妹なのです。できる限りの持参金も用意いたしましたよ。貧乏はさせたくないですからね」

「それはありがたい。トーマスも喜ぶでしょう」

 近隣の王族たちの入場が終わると、国内の貴族たちが入って来た。
 全てを出迎えた国王と王妃が壇上へと進む。

「我がワンダリア王国の豊穣祭へようこそ。本日の早朝から執り行った祈願祭も無事に終了し、今年も豊かな実りが期待できそうです。そして近隣諸国から足を運んで下さった皆様、今年の祭は三日間の開催という初の試みです。どうぞゆっくりとお過ごしください」

 手際よくシャンパンが配られ、乾杯の声が響き渡った。

「やっと始まったな。死ぬかと思ったよ」

「ああ、まさに生き残ったって感じだよ。アラバスは当然だが、カーチスも本当によく頑張ったよな。ちょっとは見直してやらないといけない」

 王族の席に座るアラバスとカーチスを見ながら、トーマスとアレンが舞台袖で乾杯した。

「マリアちゃんは?」

「うん、体調は悪くないのだが、三日目だけ出席っていうことにしたらしいよ。国王と王妃と王太子の意向だ。最近マリアちゃん化の頻度が増えているような気がする」

 アレンがプッと吹き出した。

「なるほど、それは危険だな。みんな喜ぶだろうけれど」

 初日の晩さん会は大いに盛り上がり、舞台裏では明日の会議の準備も着々と進んでいる。
 双子の寝顔を見ながらマリアが侍女長にポツリと言った。

「まだ首は座らないのね。いつ頃なのかしら」

 マリアの問いに侍女長が答える。

「まだひと月ですもの。通常ですと三か月くらいだと聞きますわ。本当は人ごみの中には出したくはない時期ですのに……きっと自慢したくて仕方が無いのでしょうね」

 肩を竦める侍女長を見たマリアが微笑んだ。

「お披露目といってもベビーベッドに寝かせた状態でしょ? それに、あの四人がベッドを囲むのだから、何も心配はないわよ。それよりもマリアちゃんが心配よ。最近は起きていることが多くて……」

「それをマリア妃殿下は認識できるのですか?」

「意識を集中すると見えるのよね。あの子はとてもしっかりしているわ。王子妃という仕事は無理だけれど、時々はみんなに会いたいのですって。まさに良いとこ取りじゃない?」

「なるほど。でもわたくしも時々はお会いしとうございますわ。とても天真爛漫で素直で……この宮の全員が魅了されていましたもの」

「そうね、あの頃の私もなるべく様子を見ていたのだけれど、可愛い子だったわよね。それに彼女のお陰でいろいろ変わったでしょ? たとえば陛下達やアラバスもね」

「ええ、以前の陛下達も威厳に満ちて素敵でいらっしゃいましたけれど、それに人間味が加わって、更に魅力的になられましたわ」

「同意するわ。私も彼女を通して、奪われた幼少期を疑似体験することができたと思うの。今までの自分よりも、幸せに対して敏感になったような気がするわ。やはり幼少期の経験というのは、成長過程で大切なのね」

「左様でございますね」

「だから私ね、マリアちゃんを受け入れようと思うの」

「どういう意味でございますか?」

「融合するっていうか、全面的に互いを受け入れるっていう感じかな。今でも時々そうなるから、きっとずっとできるんじゃないかしら」

「そのように自在にできることなのですか?」

「どうかしら……そこは折り合いをつけるしか無いのでしょうけれど、きっとマリアちゃんも同意してくれるはずよ。だって彼女は私だし、私は彼女だもの」

 メイドがお茶を運んできた。
 その後ろから、大きな箱を持った侍従が入って来る。

「まあ、何かしら?」

「王子殿下と王女殿下のお披露目の衣装でございます」

「アディとミニィの? 楽しみだわ」

 開けると薄い水色のカーゼと濃紺のレースでできたベビードレスが出てきた。

「素敵ね、アラバス殿下のお色だわ」

「左様でございますね。お二人とも殿下のお色を受け継がれましたものね」

「とてもきれいな瞳なのに、きっと寝ているでしょう? 残念だわ」

 二日目の会議も滞りなく進み、三日目の最終日となった。
 その日のために用意されたアラバスの衣裳は、立太子式典用のもので、純白に金の刺しゅうとモールで飾られている。

「素敵ですわ、王太子殿下。本当におめでとうございます」

「マリアも良く似合っているな。刺し色に使われている俺の色がマリアの髪色にぴったりだ」

 マリアが悪戯っぽい顔で言う。

「うん、だってマリアはアシュが大好きなんだもん! アシュのお色もだぁいすき!」

 アラバスが目を丸くした。
 マリアが慌てて口を両手で塞ぐ。

「どうした? 大丈夫か?」

「ええ……時々出てくるんですの。お嫌でした?」

「いや、嫌ではないさ。むしろ大歓迎だが、式典の最中は抑え込んでおいてくれよ? 説明するのが面倒だ」

 マリアは頷いたが、口では違うことを言ってしまう。

「いやだ! マリアはずっとアシュといるの! でもアシュがそうして欲しいなら頑張るよ? ご褒美がいるけどね」

「ご褒美? あれか?」

「うん、あれ!」

「よし、わかった。だから公式の場では大人しくしてるんだ。俺の可愛い子ウサギちゃん」

 無事にすべての行事が終わり、王族と宰相夫婦そして側近である二人が王家の食事室に顔をそろえた。

「本当にご苦労だった! 大成功だ」

 国王の言葉に、それぞれがそれぞれを労いつつ杯を重ねていく。
 マリアの横に置かれたベッドで、双子たちは大人しく眠り続け、その頬をカーチスとアレンが飽きもせず撫で続けていた。

「なあマリア、今のお前はどちらのマリアなんだ?」

 マリアがにっこりと微笑んでアラバスの膝にポスッと座った。

「マリアはマリアだよ? どっちもマリアだから、どっちも好きでしょ?」

 アラバスが嬉しそうに微笑み、マリアの体を抱きしめる。

「その通りだな。だからマリアは愛さずにはいられないんだよ。マリア、お前は最高だ」



 おしまい




 最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 年末で疲れた心に休息をと思い、ほのぼのとするストーリーにしましたが、いかがだったでしょうか。
 
 キャラ文芸カテゴリの「ルナール古書店の秘密」は、お正月も休まず連載する予定です。
 おせちに飽きたら、箸休めに覗いてみてください。

 今年もお世話になりました。
 来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 皆様の2025年が幸福に満ちた素晴らしい年でありますように。

  志波 連
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

次は絶対に幸せになって見せます!

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。 “もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…” そう願いながら眠りについたのだった。 翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。 もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる! そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい… 恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

処理中です...