聡明な彼女と透明なボクの交換日記

志波 連

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10月16日火曜日【ディアファン】

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 無事回収できました。
 早くに入れてくれて助かったよ。

 もし明日だったら、ボクは受け取ることができなかった。
 明後日からひと月ほど日本を離れます。
 ちょっとボクたちが誕生した地に行かなくてはならないんだ。

 というのもそこで世界大会が開かれるからなんだけれど、今回同行するのは各保護施設から4名ずつなので、日本からは16人という大所帯での移動になる。
 といってもボクらってあまり集団行動はしないから、基本的に現地集合の現地解散だけど。

 島根ビレッジからはボクを含めて男女各2名です。
 年齢的には二十歳から三十歳かな。

 もう察していると思うけれど、繫殖適齢期の透明人間が集められるということだ。
 世界中だとどのくらいいるのかは分からないけれど、かなりの数になるかもしれないね。

 ではなぜその年齢層が集められるのか……
 それは「なぜ子供ができないのか」「なぜ子供を作らないのか」もっと言えば「なぜ結婚しないのか」という根本的な問題を本音でディスカッションするためさ。

 結婚しなくちゃ子供を作れないわけじゃない。
 それはキミたちも同じだよね。
 ではなぜ結婚という制度に拘るのか。
 これは国によって答えが違うみたいだ。

 事前アンケート結果を教えて貰ったんだけれど、地球規模的に言うと、赤道から離れれば離れるほど「結婚」という概念を重要視しない傾向にあるよ。
 その理由はわからないけど、民族性みたいなものかな?

 日本はどうかと言うと「どちらでもよい」という感覚の透明人間が多いかな。
 ボクたちは恋愛をして結婚する者もいれば、誰かに紹介されて結婚する者もいる。
 ここまではキミたちと一緒だよね。
 でも子供を作る方法は全く違うんだ。

 ボクたちは「イルミンスール」と呼んでいるんだけれど、その木には必ず大きな洞があって、その中でしか子供を授かることができないんだよ。
 ではその中で男女が何をするか……
 気になるでしょ?

 もしキミが不透明な人間たちがすることと同じことを考えているとしたら、それは不正解です(笑)
 ボクらの場合は、子を成したいと思った(もちろん双方が合意のうえでね)カップルが、手を繋いで禊をするんだよね。

 禊というのは互いの全てを曝け出すという行為だ。
 これは言葉で「伝える」のではなく、全身で「感じる」といえば分かり易いかな。
 概念的に言うと魂の交流かな。
 イルミンスールの洞の中でしか起きないとても不思議な現象なんだけれど、この人との子が欲しいと心から願うもの同士に限って、互いの今までの人生を互いに知ることができるんだ。

 その交流ができると、大きな光る玉が繋いだ手の中から湧き出してくる。
 その球体のなかで、互いの血と共に今まで培っていた知識とか経験値とかが溶け合って、それを女性の腹に押し当てると、体内に吸収されるんだ。
 これがボクらの妊娠だよ。
 不思議でしょ?

 そのイルミンスールがあるのが、日本だと北海道と千葉と島根と宮崎の四か所ってわけ。
 イルミンスールは別に隠しているわけじゃなくて、ボクらは全員知っているよ。
 でもボクらにとってとても大切な木だから、不透明な人間には教えていない。
 ボクがこれ以上ないほどキミのことを信じているとしても、これは教えてあげられないんだよね。
 そこは勘弁してね。

 で、なぜ子供ができにくくなっているのかだけれど、どうやらこのイルミンスール自体が弱っていることと、ボクらの体が汚染されつつあるのが原因のようなんだ。
 それで、今回の会議ってことになるんだけれど、透明人間が誕生した地と、今住んでいる地の違いを体感することで、それぞれが抱えている問題を浮き彫りにしようという試みもある。

 そしてもう一つはイルミンスールの原木から新しい芽を持ってくることだ。
 根付いてくれると良いのだけれど、こればかりは賭けみたいなものなんだ。
 もし根付かなかったら、原木の地まで行かないと子供ができなくなってしまうかも?
 結構切実でしょ?

 ボクらとキミらでは、基本的な体の構造が違う。
 だから今まで血が混ざったことはないんだ。
 まあ、混ざりようがないよね。

 そして、かなり前になっちゃったけれど「なぜ月桂樹なのか」の答えもコレです。
 イルミンスールは月桂樹の木の祖先なんだよ。

 熊のぬいぐるみの件、了解しました。
 では、この日記を受け取ったら、その子を代わりに入れておいてください。
 ボクが日記を受け取れるようになったら、その子百葉箱に入れておきます。

 でも万が一ボク以外の人が「あら、熊のぬいぐるみだわ」なんて、持って行った場合も想定して、ボクがそれをピックアップしたら、代わりに月桂樹の枝を入れておきます。

 キミはボクを見たことが無いから平気だろうけれど、ボクはいつもキミの姿を追っていたから、キミの顔が見られないのは寂しいなって思っています。
 なるべく早く帰るからね。

 ではまた。
 
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