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47 ノース国皇太子側近の独り言
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エヴァン卿を拘束してからというもの、皇太子殿下の機嫌は最低です。
「なぜ側近を一人奪ったくらいで皇太子や王配まで出てくるんだ!しかも軍隊まで引き連れて!」
ノース国の第一王子であり皇太子のトウラス殿下がカップを壁に叩きつけて叫びました。
「あのエヴァンという側近は重要なポジションにいたのかもしれません」
「マリアはそんなこと言ってなかったぞ!なぜもっと調べてから実行しない!能無しが!」
すぐにやれと言ったのは皇太子じゃないかという顔を第一近衛隊長はしましたが、絶対に口にしないでしょうね。
「申し訳ございません」
「そいつは今どこに入れているのだ」
「ご指示通り地下牢へ」
「バレたら計画が台無しだ。絶対に奪われない場所に移せ。そうだ!あの女も一緒に移そう。二人は愛し合う恋人だものな?一緒にしてやらんと可哀想だろう?」
物凄く悪い顔で皇太子が言いました。
「仰せのままに」
第一近衛隊長は部屋を出て宰相の元に向かいました。
あのまま部屋に残ってもトバッチリを受けるので、僕も後を追いました。
宰相に皇太子からの指示を相談すると、軍艦が良いだろうとアドバイスを受けました。
海上であれば警戒もし易いし、脱走もできないということですね。
もちろん第一近衛隊長はすぐに動きます。
彼は考えるのは苦手ですが、フットワークは軽い所謂『脳筋』です。
エヴァン卿とマリア殿下をそれぞれ大きな樽に入れて、軍艦に運ぶ物資を装って運び出す手筈を整えた近衛隊長は、その日のうちに実行しました。
マリア殿下の顔はほとんど知られていないので、かねてより皇太子が目をつけていた市井の女を替え玉として皇太子夫妻の寝室に入れるというサービス付きです。
二人の運搬に付き添う近衛隊長を見送り、女の件を僕の手柄のように皇太子に伝えると、ニヤッと下卑た笑いを浮かべて金貨を一枚投げて寄こし、すぐに寝室に籠りました。
これで当分は機嫌も良いでしょうから、被害を受けることは減るはずです。
この間に溜まりに溜まった仕事をサクサク進めましょう。
お小遣いも貰いましたしね。
皇太子殿下の側近は僕を含めて三人いますが、僕以外の二人は殿下の大好きな軍部の担当ですので、内政業務は実質一人です。
とは言っても皇太子殿下に回ってくる書類は、件数が多いだけで軽い内容ばかりなので、はっきり言って楽勝です。
国王陛下も体調が悪く、ほとんど仕事ができない状態なのに、なぜ国が回っているのかというと、実は淡々と官僚たちが働いているからなのです。
王族の存在価値って何でしょうね?
「急に船を出したせいで、料理人が揃わないらしいんだ。誰か行ってくれる人材に心当たりは無いか?」
人間樽の運搬から帰ってきた近衛隊長が私に言いました。
「船での料理ですものね…ああ、知り合いの料理人に相談してみますよ」
僕は異国から来たという街の料理人を思い浮かべて、軽く請け負いました。
予定ではあとひと月もしないうちに皇太子の計画は開始します。
ひと月だけの仕事ですが、多めの報酬を提示すればなんとかなるでしょう。
ランチのついでに立ち寄って話をすると、その料理人は喜んで受けてくれました。
なんでも船の厨房は慣れているそうで、以前は海軍のコックだったらしいです。
しかし、それから二か月たっても皇太子の計画は始まりませんでした。
契約期間を延長しなくてはいけませんね。
「なぜこんなに予算がない?なぜ兵が集まらない?どうなっているんだ!」
あの女にも飽きたのでしょうか、ちょこちょこ執務室に来るようになった皇太子は毎日怒鳴っています。
そろそろ新しい女を用意しようかと考えていた時、王宮が大きく揺れました。
「殿下!机の下に!」
私はそう叫ぶと自分も机の下にもぐりこみました。
棚から花瓶や飾り物が落ちて割れましたが、地震はすぐに収まりました。
「最近多いですね」
「そうか?それにしてもあの花瓶は惜しいことをしたな」
執務室のドアが勢いよく開き、近衛隊長が飛び込んできました。
「殿下、ご無事ですか。市街地の建物に少し被害が出たと報告がありましたので、第二部隊を調査に向かわせました」
「少しなんだろう?まあ任せるが第二部隊を送るほどか?それよりこの花瓶だ!これは母上が大切にしていたものだからな。壊れたと知られると怒られる。拙いぞ」
さすが我が皇太子殿下としか言いようがありません。
市民の被害状況より花瓶の方が心配とは。
皇太子の無能ぶりに慣れている僕でさえ、溜息混じりの笑いを浮かべてしまいました。
ああ、地震といえば…
「イーリス国のワンド地質調査研究所から、最近の地震に関連して調査に向かいたいと申し入れがありました。あの研究所は実績もありますし許可しておいて良いでしょうか?」
「好きにしろ。それより花瓶だ」
僕は受け入れる旨の返事を出すために退出しました。
近衛隊長が置いて行くなという顔をしましたが、当然無視です。
返事を出して一週間くらいでやってきた調査団は、何度か顔を合わせているベック副所長が団長でしたから身元調査も不要でしょう。
調査員も良く知っている古参でしたが、子供が二人と若い女性が一緒でした。
副所長に聞くと、研究所の跡継ぎとその婚約者と二人のガヴァネスだとのことですので、問題なく予定通りに借家を一軒と数人の使用人を手配して後は好きにしてもらいます。
それにしても本当にエヴァンというあの男は何者なのでしょうか。
捕まっているというのに優雅な所作を崩さず、良い男ぶり全開です。
一度だけ調書をとるときに口をききましたが、剣術は苦手だと言っていたので安心です。
しかし、彼を返せと飽きもせず、毎日毎日イーリス国の皇太子とワイドル国の王配が詰め寄って来るほどの人材ということですよね。
高貴なお二人は、ヘラヘラ笑うだけのトラウス皇太子を無視して、最近は宰相に矛先を向けたようで、僕は助かっています。
一時は本当に面倒でしたからね。
エヴァン卿とマリア殿下の所在は絶対にバレないでしょうから、宰相も余裕で躱していることでしょう。
イーリスの皇太子とワイドルの王配が揃って調査団の激励に行くという報告を受けましたが、出身国が同じですから自然な行動ですよね?
なので、特にその件について皇太子に報告はしませんでした。
調査団の子供とガヴァネスの女性が、調査内容の裏付けのために王立図書館を使いたいと申請したことも、至極当然な行動ですから皇太子には報告せず許可を出しました。
後で聞いたのですが、なぜか第三王子の指示で侍従長と司書長が、その二人に面談したらしいですが、何を考えているのでしょう?
まあ分からないことはスルーです。
そういえば来週にはエヴァン卿とマリア殿下を軟禁している軍艦が、物資補給のために寄港します。
搭乗員は総入れ替えする予定ですが、料理人は替えがいないので再搭乗してもらわなくてはいけません。
二人は特に問題行動を起こすこともなく、大人しく本ばかり読んでいるという報告を受けていますので、監視人数は半分程度に減らす予定です。
期間が予想以上に延びているので人件費の削減をしなくてはいけませんからね。
この件は大事なことですから、皇太子に報告はしましたが、新しい女に夢中なようで任せるの一言でした。
予想通りの返事ですね。
今回はワイドル国との国境に兵力を半数以上送っているので、第三王子の所有する海軍兵を借りることになりました。
まあ実際のところ、皇太子直下の兵よりずっと信頼できるので安心です。
何事にも無関心で存在感の薄かった第三王子殿下が、なぜか最近協力的になったので助かります。
手柄は自分、被害は他人、逃げるときには先頭で。
これが僕のモットーです。
「なぜ側近を一人奪ったくらいで皇太子や王配まで出てくるんだ!しかも軍隊まで引き連れて!」
ノース国の第一王子であり皇太子のトウラス殿下がカップを壁に叩きつけて叫びました。
「あのエヴァンという側近は重要なポジションにいたのかもしれません」
「マリアはそんなこと言ってなかったぞ!なぜもっと調べてから実行しない!能無しが!」
すぐにやれと言ったのは皇太子じゃないかという顔を第一近衛隊長はしましたが、絶対に口にしないでしょうね。
「申し訳ございません」
「そいつは今どこに入れているのだ」
「ご指示通り地下牢へ」
「バレたら計画が台無しだ。絶対に奪われない場所に移せ。そうだ!あの女も一緒に移そう。二人は愛し合う恋人だものな?一緒にしてやらんと可哀想だろう?」
物凄く悪い顔で皇太子が言いました。
「仰せのままに」
第一近衛隊長は部屋を出て宰相の元に向かいました。
あのまま部屋に残ってもトバッチリを受けるので、僕も後を追いました。
宰相に皇太子からの指示を相談すると、軍艦が良いだろうとアドバイスを受けました。
海上であれば警戒もし易いし、脱走もできないということですね。
もちろん第一近衛隊長はすぐに動きます。
彼は考えるのは苦手ですが、フットワークは軽い所謂『脳筋』です。
エヴァン卿とマリア殿下をそれぞれ大きな樽に入れて、軍艦に運ぶ物資を装って運び出す手筈を整えた近衛隊長は、その日のうちに実行しました。
マリア殿下の顔はほとんど知られていないので、かねてより皇太子が目をつけていた市井の女を替え玉として皇太子夫妻の寝室に入れるというサービス付きです。
二人の運搬に付き添う近衛隊長を見送り、女の件を僕の手柄のように皇太子に伝えると、ニヤッと下卑た笑いを浮かべて金貨を一枚投げて寄こし、すぐに寝室に籠りました。
これで当分は機嫌も良いでしょうから、被害を受けることは減るはずです。
この間に溜まりに溜まった仕事をサクサク進めましょう。
お小遣いも貰いましたしね。
皇太子殿下の側近は僕を含めて三人いますが、僕以外の二人は殿下の大好きな軍部の担当ですので、内政業務は実質一人です。
とは言っても皇太子殿下に回ってくる書類は、件数が多いだけで軽い内容ばかりなので、はっきり言って楽勝です。
国王陛下も体調が悪く、ほとんど仕事ができない状態なのに、なぜ国が回っているのかというと、実は淡々と官僚たちが働いているからなのです。
王族の存在価値って何でしょうね?
「急に船を出したせいで、料理人が揃わないらしいんだ。誰か行ってくれる人材に心当たりは無いか?」
人間樽の運搬から帰ってきた近衛隊長が私に言いました。
「船での料理ですものね…ああ、知り合いの料理人に相談してみますよ」
僕は異国から来たという街の料理人を思い浮かべて、軽く請け負いました。
予定ではあとひと月もしないうちに皇太子の計画は開始します。
ひと月だけの仕事ですが、多めの報酬を提示すればなんとかなるでしょう。
ランチのついでに立ち寄って話をすると、その料理人は喜んで受けてくれました。
なんでも船の厨房は慣れているそうで、以前は海軍のコックだったらしいです。
しかし、それから二か月たっても皇太子の計画は始まりませんでした。
契約期間を延長しなくてはいけませんね。
「なぜこんなに予算がない?なぜ兵が集まらない?どうなっているんだ!」
あの女にも飽きたのでしょうか、ちょこちょこ執務室に来るようになった皇太子は毎日怒鳴っています。
そろそろ新しい女を用意しようかと考えていた時、王宮が大きく揺れました。
「殿下!机の下に!」
私はそう叫ぶと自分も机の下にもぐりこみました。
棚から花瓶や飾り物が落ちて割れましたが、地震はすぐに収まりました。
「最近多いですね」
「そうか?それにしてもあの花瓶は惜しいことをしたな」
執務室のドアが勢いよく開き、近衛隊長が飛び込んできました。
「殿下、ご無事ですか。市街地の建物に少し被害が出たと報告がありましたので、第二部隊を調査に向かわせました」
「少しなんだろう?まあ任せるが第二部隊を送るほどか?それよりこの花瓶だ!これは母上が大切にしていたものだからな。壊れたと知られると怒られる。拙いぞ」
さすが我が皇太子殿下としか言いようがありません。
市民の被害状況より花瓶の方が心配とは。
皇太子の無能ぶりに慣れている僕でさえ、溜息混じりの笑いを浮かべてしまいました。
ああ、地震といえば…
「イーリス国のワンド地質調査研究所から、最近の地震に関連して調査に向かいたいと申し入れがありました。あの研究所は実績もありますし許可しておいて良いでしょうか?」
「好きにしろ。それより花瓶だ」
僕は受け入れる旨の返事を出すために退出しました。
近衛隊長が置いて行くなという顔をしましたが、当然無視です。
返事を出して一週間くらいでやってきた調査団は、何度か顔を合わせているベック副所長が団長でしたから身元調査も不要でしょう。
調査員も良く知っている古参でしたが、子供が二人と若い女性が一緒でした。
副所長に聞くと、研究所の跡継ぎとその婚約者と二人のガヴァネスだとのことですので、問題なく予定通りに借家を一軒と数人の使用人を手配して後は好きにしてもらいます。
それにしても本当にエヴァンというあの男は何者なのでしょうか。
捕まっているというのに優雅な所作を崩さず、良い男ぶり全開です。
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しかし、彼を返せと飽きもせず、毎日毎日イーリス国の皇太子とワイドル国の王配が詰め寄って来るほどの人材ということですよね。
高貴なお二人は、ヘラヘラ笑うだけのトラウス皇太子を無視して、最近は宰相に矛先を向けたようで、僕は助かっています。
一時は本当に面倒でしたからね。
エヴァン卿とマリア殿下の所在は絶対にバレないでしょうから、宰相も余裕で躱していることでしょう。
イーリスの皇太子とワイドルの王配が揃って調査団の激励に行くという報告を受けましたが、出身国が同じですから自然な行動ですよね?
なので、特にその件について皇太子に報告はしませんでした。
調査団の子供とガヴァネスの女性が、調査内容の裏付けのために王立図書館を使いたいと申請したことも、至極当然な行動ですから皇太子には報告せず許可を出しました。
後で聞いたのですが、なぜか第三王子の指示で侍従長と司書長が、その二人に面談したらしいですが、何を考えているのでしょう?
まあ分からないことはスルーです。
そういえば来週にはエヴァン卿とマリア殿下を軟禁している軍艦が、物資補給のために寄港します。
搭乗員は総入れ替えする予定ですが、料理人は替えがいないので再搭乗してもらわなくてはいけません。
二人は特に問題行動を起こすこともなく、大人しく本ばかり読んでいるという報告を受けていますので、監視人数は半分程度に減らす予定です。
期間が予想以上に延びているので人件費の削減をしなくてはいけませんからね。
この件は大事なことですから、皇太子に報告はしましたが、新しい女に夢中なようで任せるの一言でした。
予想通りの返事ですね。
今回はワイドル国との国境に兵力を半数以上送っているので、第三王子の所有する海軍兵を借りることになりました。
まあ実際のところ、皇太子直下の兵よりずっと信頼できるので安心です。
何事にも無関心で存在感の薄かった第三王子殿下が、なぜか最近協力的になったので助かります。
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これが僕のモットーです。
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