不登校男子、顔出しナシでバズった結果→元委員長Vと恋愛コラボするハメに

ハリネズミの肉球

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【第1章 】 顔を隠して、声だけで世界とつながるはじまり

8 二度目の配信とコメントの嵐

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翌日の夕方、俺はいつになく落ち着かない気分で部屋を掃除していた。配信スタートは夜にしようと決めていたが、なぜかソワソワして仕方がない。
 今まではこれほどまでに“時間”を意識したことはなかった。どうせ学校に行かないし、毎日同じようにベッドの上でだらだら過ごしても文句を言う人間はいない。
 ところが、“自分の配信を待ってくれているかもしれない人たち”の存在を意識すると、時間が加速したかのように感じるのだ。昨日の深夜に配信を終えたばかりなのに、「次、いつやるの?」というコメントがすでに届いている。こんな形で“誰かの期待”を背負うのは、正直人生で初めてかもしれない。
 部屋の片付けを終え、夕飯を軽く済ませると、叔父の作業机を横目に見やった。叔父は今日も黙々と新しいドールハウスのパーツを作っているようだ。

「お前、今日は何時からやるんだ?」
「うん、21時すぎくらいかな……それくらいにしようかと思ってる」

 俺が答えると、叔父はミニチュアの小物入れらしきパーツを丁寧に接着しながら、「そっか」とだけ言った。彼の口数は多くないが、空気からして興味はありそうだ。
 時刻が21時を回る。俺は昨日と同じように配信ソフトを立ち上げ、マイクの位置を再調整する。ほんの数分で指先に汗が滲んでくる。
 画面の向こうで見てくれる人がいると思うだけで、こんなにも緊張するものなのか。誰もいない学校の教室に、一人で座っていた頃を思い出す。あの頃は周囲の視線におびえたけれど、今度は“視線”ではなく“耳”を向けられる立場だ。顔は見られないけれど、声をずっと聞かれている。
 深呼吸を一つ。画面に表示された自分のアバター“ユウマ”が、俺の一挙一動に合わせて口パクをするのを確認して、「Start」ボタンをクリックした。

「みなさん、こんばんは……ユウマです。えーっと、聞こえてますか?」

 最初は静まり返ったコメント欄。でも数秒後、昨日とは段違いの勢いでコメントが流れ始める。

<待ってたー!>
<こんばんは! 昨日の配信もアーカイブ見ました>
<今日も声癒されるわ……>

「お、おお……ありがとうございます。なんか、昨日よりコメント多い? びっくり……」

 一瞬で息が詰まりそうになる。視聴者数の表示が、10、15、20……とどんどん増えていくのがわかる。
 昨日の切り抜き動画が拡散されたおかげらしい。コメントには「初見です」「SNSで話題になってたから来た」といった文字が混ざっている。
 たった二度目の配信で、こんなにも人が来るなんて想像していなかった。嬉しいのと戸惑いが混ざったまま、とにかく話題を探す。

「えーっと、今日はアニメ雑談でもしようと思ってます。最近はどんなの観てますか? 俺はですね……」

 そう言って、今期の話題作ロボアニメや人気ファンタジーアニメの感想を一人でまくしたてる。もともとオタク気質だから、好きなことを語るときの口は止まらない。
 いつしか緊張がほぐれ、コメント欄とのやり取りを楽しんでいる自分がいた。「声イケボすぎ」「女の子みたいに優しい声だけど男だよね?」なんてコメントを見つけて苦笑しつつ、でも気持ちが弾む。
 いわゆる“イケボ系”でも“ハスキー系”でもないのに、こうして注目されるのは不思議だ。でも、これは俺の個性でもあるのかもしれない。

「あ、そうだ。今日話したい名言があって……。俺、『逃げちゃダメだ』って言葉、実はすごく重いと思うんですよ。某有名アニメで何度も繰り返されたフレーズじゃないですか。でもね、あれって“逃げない”ことが正解ってわけじゃないんです。あの作品のキャラもそうだけど、“逃げてもいい、でも何かを選び続ける”ことが大切なんじゃないかって……」

 つい熱く語ってしまう。これが“オタク気質+繊細さ”なんだろうと自分でもわかる。配信しながら妙に高揚しているのを自覚した。
 コメント欄がすごい勢いで「わかる」「その通り」「激しく同意ww」と埋まっていくのを見ると、まるで体育館で大勢の観衆が頷いてくれているような感覚だ。いつの間にか視聴者数は50を超えている。

「すごい……。こんなに共感してくれるんだ。みんな……ありがとう」

 自然と言葉が漏れた。画面の向こうには何十人もの見知らぬ人がいる。顔は見えない。でも、彼らの“声なき声”――コメントには暖かいものがたくさん詰まっている。
 たとえば学校でクラスメイトにこれを語ろうとしたら、きっと「お前、アニメ語りすぎ」「オタクきめえ」とバカにされていたかもしれない。それがここでは違う。みんな同じ視点で語り合ってくれる。
 この空間なら、もしかしたら“ありのまま”の俺でいられるのかも……。そんな想いが、胸の奥でじわりと広がった。
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